人柱
対岸に渡るための橋を見て途方に暮れている。
(まあまあ高いんだよなぁ。…俺もしかして高所が苦手になってるんじゃ…。)
この世界に来ることになったそもそもの原因。それは渡っていた石橋が途中で崩壊したことによる落下死だった。
足元が崩れ、突然の浮遊感と共に急速に世界がスローに感じた。自分が吸い込まれていく地面を見れば大雨の後でもなければほとんど水の流れていないゴロゴロとした岩が突き出た川とも呼べない岩場。
どうにかしようにも身体は動かず、仮に動けたとしても何も出来ずに落ちていく。
崩れ落ちる橋の残骸と共に地に足がぶつかり、体ごと倒れて岩に頭を打ちつけた。
全身の痛みを感じながら薄れて逝く意識にああ、これは死ぬのだと理解した…
「ジンさん? ねえ! ジンさんっ!」
「…っへ? あ、イオル?」
「大丈夫? 呼びかけても全然反応しなかったし顔色も悪いよ?」
どうやら意識が飛んでたらしい。
俺が急に黙り込んだものだからイオルに心配させてしまったようだ。
「あー、ごめんね。ちょっと考え込んでたみたいだ。問題ないよ。」
イオルに心配させまいと強がって見せる。
「嘘付いてもダメだよ。顔色悪いままだし、それにほら、すっごい汗かいてる。」
そう言われて首筋に手をやると全く暑さを感じてもいないのに大量に汗をかいているのに気づいた。これは冷や汗ってやつだろうか?
今も腕を組んでいるイオルには隠しようもなかったようだ。
「っ、ごめん。」
そう言ってイオルと組んでいた腕を離す。
他人の汗など気持ちの良いものではないだろう。
「あっ…、別にいいのに…。」
イオルが小さな声で呟くように何か言ったが聞き取れなかった。
「ってじゃなくて! 急にそんないっぱい汗かくなんて変でしょ? あ! もしかしてさっきのゴブリンから受けた傷が痛むの⁉︎」
パッと俺の腕を再度取り、先程の戦闘で受けた傷の辺りを確認し始める。
俺はとりあえずなすがままにされながら気分を落ち着かせる。
「ふうっ、…ホントに大丈夫だよ。心配かけてごめん。」
「でも…。」
「…恥ずかしい話なんだけどさ、実はちょっと橋に苦手意識があるんだ。その…、歩いてる途中で橋が壊れて落ちちゃったことがあってね。さっきはそれを思い出しちゃってたんだ。」
「ええ⁉︎ それ大丈夫だったの!?」
「うん、まあ一応ね。…ほらこうして元気に生きてるだろ?」
「う、うん、それはそうだけど…。」
心配してくれているイオルに隠すことではないので話してしまうことにした。…それで一度死んだことは言わないけど。
「まあそう言うわけだから身体には異常はないよ。」
「…うん、それなら…。あ、でもそれならこの橋渡るのはキツいんじゃない?」
そう言われて改めて目の前の橋を見る。
格子状に結われた縄をひと1人が歩けるほどの広さしかなく、頼りになるのは左右に張られた縄だけ。
今時の公園のアスレチックでももう少ししっかりしたものが作られているだろう。
それが50mを超えるであろう長さの川の橋として使われている。
…これを使って対岸に渡れと?
「……………大丈夫だよ。」
「声ちっちゃ⁉︎ 完全に無理してるじゃん!」
自分でもびっくりするくらい声に力がなかった。
「…いや、でもここで立ち止まってても仕方ないし。」
「それはそうだけど…。とりあえず私が先に渡って見よっか? そしたらちょっとは安心できるんじゃない?」
俺がなかなか踏ん切りが付かないでいるとイオルがそんなことを申し出てくれる。
「いやいや、イオルにそんな人柱みたいなことさせるわけには。」
「ううん、行かせてよ。ほら持ってるの貸して。」
イオルは付けていた眼帯を外すと俺からボウガンと木の棒を奪うようにして抱えると橋へ向き直る。
「……ふぅ、怖くない怖くない。今こそ挽回の時!…。」
そう言って何事か呟くとギシギシと揺れる橋に足を踏み出し、ゆっくりと進み始めた。




