個体差
岩山地帯へ向かっている道中。
カチャカチャとなるべく音を立てないようにゆっくりとハンドルを回し弦を引き始める。
限界まで弦を引き絞ったボウガンの上に昨日買った矢を乗せ、構え、狙いを定めーー放つ。
「ギッ!!?」
イオルが撃ち出した矢は狙っていたゴブリンの側頭部に突き刺さり、その勢いのままゴブリンは地面に倒れて動かなくなった。
「ギィ? ギギッ!」
「ギギャ!!」
仲間が急に倒れたことに驚いた様子のゴブリン達だが周囲を見回し、次弾装填のために弦を巻き上げているイオルを見つけると走り出した。
ゴブリン達が向かってくるのに気づいているはずのイオルはそれでも慌てずに準備を進める。そして今度は鉄の矢を取り出すとボウガンにセットし、向かってくるゴブリン目掛けて撃つ。
「グッ⁉︎ カッ…」
距離が縮まり狙いやすくなった的をイオルが外すはずもなく矢はゴブリンの喉に突き刺さり、魔物の心臓とでも言うべき魔石を撃ち砕いた。
魔石を潰されたゴブリンは勢いのまま少し進みはしたもののすぐに前のめりに倒れる。残りは後1匹だ。
「うおぉぉ!」
俺はわざと声を上げながら地面に伏せていた体を起こす。俺の前を抜けてイオルに襲い掛かろうとしていたゴブリンが急に真横から叫ばれた声に動きを止めたところで握った棒を振りかぶり打ちつける。
「ギィ!? …ギイィ!!」
ゴブリンは殴られてもすぐに体勢を立て直すと俺目掛けて腕を振るってきた。咄嗟に守ろうと腕を前に出すとゴブリンの鋭い爪が右腕を浅く引っ掻く。
「つっ⁉︎ はぁあ!!」
「ギュガ!? ギィ…‼︎」
腕の痛みを堪え、俺は本来引きつけて当てる予定だった水魔法をゴブリン目掛けて発射。至近距離での命中によりゴブリンは吹き飛ぶもすぐ起きあがろうとする。
「ジンさん⁉︎ この!!」
「ギィ⁉︎⁉︎ ギィィ……」
再度迎撃の準備をしようとしたところでゴブリンの喉から刃が生えた。
魔石を傷つけられたゴブリンは弱々しく鳴いたかと思うと動きを完全に止める。
どうやらゴブリンの後ろからナイフを突き刺したらしいイオルのおかげでことなきを得たようだ。
「ジンさん大丈夫!!??」
突き刺したナイフごとゴブリンの亡骸を放り出したイオルは俺の元へと走ってくると心配そうにゴブリンに引っ掻かれた腕を見やる。
「ああうん、ちょっと引っ掻かれただけだよ。」
腕からは血が流れているがそんなに大したことはないと思う。
「ええと、まずは水で洗って、…うんやっぱりそんな深くないね。じゃあ回復。」
先に傷痕の洗浄と確認のため水で洗う。4本の爪で引っ掻かれたようで等間隔に付いた引っ掻き傷があるが深くはない。
左手を怪我に被せるようにして回復魔法を使う。今日は【魔法強化】は使えないがランク4の魔法でもロンの骨折まで治せたのだ。
「治ったかな? …うん、これでよし、ね?」
回復魔法をかけた後、もう一度水魔法で治療中に流れた血を洗い流しイオルに見せる。
「見せて。……うん、綺麗に治ってる。」
俺の右腕を掴んで怪我の確認をしてくれる。
「でしょ? でもまあ怪我はしたけど倒せてよかった。」
…ちょっとバイ菌とかが怖いけどすぐに洗浄したし、回復魔法ってくらいだからそう言うのにも効果があると期待するしかない。
「うん…、でも私が最初に狙い撃ちして、向かってきたゴブリンをジンさんが奇襲して倒すって作戦。さっきまでは上手くいってたのにね。」
「そうだね。うーん、今まではたまたま一撃で殴り倒せてしばらく起き上がれなかっただけでゴブリンの個体によっては打たれ強いとかもあるってことなんだろうね。」
「あー、そっか。足の速い遅いはあったわけだし打たれ強いとか弱いとかもあるってことだよね。今までは運が良かったってことかもしれないんだね。」
「まあ流石にボウガンで撃ち抜けないってことはないと思うし今までにイオルが狙撃した中にもいたかもだね。でも魔物にも個体差があるってことだけ覚えておこう。ゴブリンくらいならなんとかなっても他の、それこそ足の速いオークとかに出会うこともあるかもしれないし。」
「えぇー、そんなのには会いたくないなぁ。」
「はは、そうだね。じゃあ手早く討伐部位だけ回収して行こうか。思いの外時間かかっちゃてるし。」
「りょーかい! あ、私のナイフ、ゴブリンに刺しっぱなしだ!」
タタっと先程ナイフごと放り捨てたゴブリンの元へ走って行くイオルを笑って見送ると自分もナイフを取り出すとイオルが狙撃して倒したゴブリンの討伐部位を回収に向かった。




