名前の由来
「ではごゆっくりお寛ぎください。」
注文した料理を全て配膳し終えた給仕さんがお決まりの挨拶をして部屋を出る。
「はーい、ありがとうございまーす。わー、美味しそ〜」
湯船に浮かべられた桶の中に並ぶ料理を見てイオルが嬉しそうに目を輝かせる。
「ジンさん、どうぞ。」
「うん、ありがとう。ユーンさんはお酒飲まないの?」
ユーンさんから並々とエールが入ったジョッキを受け取りながら聞いてみる。
「はい、私はあまりお酒は得意ではないので。お付き合い出来なくて申し訳ありません。」
「いやいや、無理して付き合うことじゃないからね。」
そうか、ユーンさんはお酒が苦手と。こうやって仲間のことを少しずつ理解していくのは楽しいな。
「えへへー、ユーンが飲めない分、私が付き合うからねー。」
「風呂での飲酒はほどほどにすべきです。酔いが回りやすくなるそうですし、飲み過ぎで足がふらつきでもしたら危険です。」
「わかってるよー。」
「そうだね、俺も気をつけるよ。」
「ええ、そうしてください。」
「よし、それじゃあ今日はユーンさんがパーティに加入してくれての初任務。そしてゴブリン達や強敵だったオークとの戦いを無事に終えられてよかったと思う。というわけで、、、乾杯!!」
「「乾杯!」」
ごつんっと木のジョッキを合わせる。俺とイオルはエール。ユーンさんはジュースだ。
「ゴクッ、ゴクッ。あー、美味い!」
「おいし〜、お風呂で飲むお酒は格別だね!」
「あなたはどこで飲んでも幸せそうに飲んでいますよ。お酒だけではなく料理も食べてください。ここの料理はなかなか美味しいですよ。」
湯に浮かぶ桶を俺達の方に押し出してくれる。
「それじゃあ…、お、燻製肉かな? うん、美味い、これはエールに合うね。」
「どれどれ〜、おー、美味しいね!」
桶に並べられた料理は手で摘めるものや串に刺さったものなど湯に浸かりながらでも食べやすいように工夫されているものが多い。まあ総じてお酒のあてになるものが多いのでお酒を飲んでいないユーンさんには物足りないかもしれないが。
そう思い聞いてみると
「物足りないか、ですか? いえ、私は元々あまり食べる方ではないですし、それに今日はお昼に焼き魚やお菓子を頂きましたからね。少しだけ摘んだらもう充分です。」
とのこと。
それから食事をしたり、湯から上がって体を冷ましたりしながら談笑をしてしばらくした頃。
「さて、お2人とも、ちょっとよろしいですか?」
「ん? ああ、いいよ。」
「どしたの? なんか真面目な話?」
少し真剣な調子でユーンさんが話をしようとしたので姿勢を正す。
「真面目なといえばそうですね。買い物に出る前に話していたでしょう。私たちのパーティの名前のことです。」
「そうだった! このままじゃパーティ【未定】になっちゃう! ちゃんとかっこいい名前考えないと!」
ユーンさんの言う通り、そういえば俺たちのパーティ名はまだ決まっていないんだった。
ちゃんと決めないとパーティ名が【未定】で登録されてしまうのだという。イオルの言うカッコいい名前はともかくとして俺も【未定】はいやだ。
「何か案あるかな?」
「そうですね。先ほども言いましたがパーティリーダーの名前からとる、というのは結構ありますよ?」
「それは却下で。俺がパーティリーダーなのはもうこの際いいけどパーティ名に名前入れるのは勘弁してほしい。」
「ふむ、そうですか。」
「あ、でもみんなの名前から文字をもらってつける。とかならいいけど。」
「いえ、それはやめたほうがいいと思います。」
俺1人ではなく皆を巻き込むんならそんなに恥ずかしくないのではと思っての提案だったけどすぐにユーンさんに却下される。
「ダメかな? ユーンさんも恥ずかしいとか?」
「いえ、たしかにそれもあるといえばあるのですが。ジンさん、今後冒険者を続けるとしてこの3人だけでやっていくおつもりですか?」
「えっ? あー、いや。今のところはそこまで考えてなかったけど…。もしかしたら増える可能性もある、のかな?」
「私はあると思います。というより増やすべきかと。そもそもですが私は参加できない日の方が多いので、このままではジンさんとイオルの2人での冒険ばかりになってしまうと思います。もちろんそれがダメとは言いません。少人数でパーティを組んでいる冒険者の方も少ないですがおられます。ですが1人につき1つまでしか依頼を受けられないということ。そして何より魔物との戦闘になった際に少人数では危険が伴います。ですので味方は多いほうがいいです。」
「うん、それはその通りだね。そう言われるとその通りかも」
「はい、では新しく仲間を迎え入れるとします。その時パーティの名前の由来などを話すこともあるでしょう。そしてパーティ名が私達3人の名前から取ったものだと聞かされたらどう思われると思いますか?」
あー、なるほど。
「それは嫌だろうなぁ。なんというか疎外感を感じちゃうかも。」
「はい、その通りです。私たちがどれだけ新しい仲間だと言って迎え入れようとしてもパーティ名の由来を聞けば仲間外れのような感覚を受けるかもしれません。そういうことがあるのでパーティ名にはリーダーとなる人の名前だけをつける。ということがままあるのです。これならそのリーダーとなる人の元に集まった仲間ということで結束力も増します。」
「なるほどなぁ、そういうことか。」
理屈は理解できた。でもなぁ、ジンパーティはなぁ…。
「ちなみに他につけちゃダメっていうか推奨されないような名前の付け方ってある?」
「そうですね。あまり人が不快になるような名前はもちろん推奨されません。あとはそうですね、ジンさんの知っているところであれば【パラサの集い】のような名前の付け方もパーティメンバーを募集する上では推奨はできません。」
「えっ。【パラサの集い】ダメなの? なんで?」
どういうことだろう? もしかしてパラサって部分がなんか良くない意味があるとかか?
「いえ、ダメというわけでは。【パラサの集い】のパラサというのはパラサ村というダイアスさん達の出身の村の名前なのです。そして【パラサの集い】というのはそのパラサ村の出身者で集まった冒険者パーティということです。」
「ああ、そういうことだったのか。ん? てことは一昨日ダイアス達と出会った村、あの大きな家はクンスさんの実家って話だったから…。じゃああの村はダイアス達みんなの故郷のパラサ村だったってことか。」
知らなかった…。
「あれ? でもそれがなんでダメなの? 村の名前とかは付けちゃいけないとかあるのかな?」
「いえ、そんなことはありません。自分の出身地を入れる方は他にもおられます。流石にこのサルコスの町でパーティ名にサルコスと付けようとすればややこしいのでお止めするかもしれませんが他の町でギルドカードを作ってパーティを組んだ冒険者ならサルコスの名を入れてパーティ名を付けた冒険者もいるかもしれません。ですのでダイアスさん達も何の問題もありません。ただ先ほどのパーティメンバーの名前からパーティ名を決めるというのと同じ理由です。」
えーっと? あーそうか。
「パラサ村出身の人以外がパーティに入ることになったら肩身が狭い思いをするかもしれないってことか。」
「はい、その通りです。ですのでもし仮に私たちが【サルコス】というようなパーティ名をつけた場合、このサルコスの町の出身の冒険者以外は入りたがらないだろうということですね。」
「なるほどねー、ってそもそも俺もこの町が出身地ってわけじゃないから【サルコス】なんてつけたら自分が肩身狭いよ。」
「ああ。ふふっ、それもそうでしたね。では良い名前を考えましょうか。」
パシャッという水音と共に口元を押さえて笑うユーンさんはとても色っぽく見えた。




