22:バラバラダーリン(犠牲者ゼロ)2月1日追記。
少しずつリズムを取り戻したい……いつもありがとうございます。
返信できてませんが。感想はいつもありがたく拝見してます。
2月1日追記。
作中での矛盾点を発見したため、今回後半の『ジークリンデが薬を与えたあたりの会話』を変更しました。よろしくお願いします。
アンベルバード王国の港町、イスハークはかの国ではそれなりに豊かな土地であった。
かつてはハルティア王国から輸入される貴重品、魔力繊維をこの地で受け取り、大陸全土へと鉄道で運搬する重要な拠点であったが、ハルティアが突如として魔力繊維の全面取引停止を宣言してからはゆっくりと寂れる定めであった。
が、今現在は噂の渦中にある。
突如街の近くに出現した炎の巨人。それと対抗するように姿を表した鋼の巨人。
人智を超えた超巨体が地を揺るがしながら激突する様はこの街で逗留していた歌手や詩人の懐を大いに潤すこととなった。
炎の巨人がどうなったかは不明である。
あれほどの巨大質量、海面に落下したのであれば、海底には膨大な精霊鉄の回収が見込めたであろう。だが実際には海底を幾度探索してもそれらしいものは影も形も見当たらず王国の関係者たちを大いに落胆させる結果になった。
……そして。
「ぬわああぁぁんダーリン!! ダーリンがバラバラじゃああぁぁ〜〜!!??」
イグニッカは元に戻った。
あれほどの巨大質量は今や元通りの小さな子供みたいな体格に圧縮され、一晩熟睡して起きた時は開口一番、ヨハンネスの安否を気遣い。
これはこれで好機かもしれないと判断したレオノーラ。そのままヨハンネスの関節部分を開放して四肢のパーツごとに分解して修理していたところを見つけて絶叫であった。
イスハルが突然秘密の修理場にやってきた彼女に詫びる。
「イグニッカ、大丈夫? 言い出せなくてごめん。ヨハンネスという男は……最初から存在しなかったけど、どうにも機会がなくて」
「う、うう、自動人形というやつじゃな」
そう言いながらもイスハルは修理用自動人形を数体操りながら作業していた。
頭部のカメラと繊細な作業用アームのみを備えた簡素な修理、作業用の自動人形は今もヨハンネスの関節を治し続けている。
流石にものを作ることを生業とするドワーフか、イグニッカはヨハンネスの体内に満たされている滑車や歯車、鋼線、骨格に巻き付いた人工筋肉を見て理解に至った。
「あんまりイスハルを悪く思わないで欲しいですわね。……その。正直顔を見せずずっと沈黙している大男を相手に一目惚れする奇特な女性がいるなんて思いもしなかったんですの」
「ひ、人を特殊性癖みたいに言いおってぇ?! ふ、普通240センチの寡黙な全身甲冑男がいたらときめくであろう!」
「……そ。そう?」
レオノーラはイスハルをフォローするつもりであったが、イグニッカは涙目になった。
そんなふうに怒っている彼女であったが……関節部の修理を行うイスハルにきづかわしげな視線を向ける。
「と、ところでわしに手伝えることはあるかの」
「流石にないな。……そっちより。イグニッカのほうが心配だ、目覚めたばかりで体に異変は?」
む。とイグニッカは首をかしげ、そんな彼女にジークリンデが近づく。
魔力で形成されたエネルギー生命ともいうべき巨人。彼女の体調に対しては宮廷魔術師だったジークリンデが一番専門家だ。
「……なんていうかな。炎の巨人だったときの彼女はエネルギーをガンガンと燃やしてあの姿になっていた。今のドワーフ姿は巨人時に比べると消費エネルギーはずっと少なくなってる。
ただ……減っているのは確かだ。ちょっとここに魔力回復用のポーションがあるからこれをお飲み」
「む? うむ。……すまぬ、ありがとう。正直そなたらには迷惑をかけっぱなしでどう贖えばよいのか皆目検討がつかぬ」
これ以上借りを作るまいと考えるなら、魔力回復用のポーションを遠慮するべきところなのだろう。けれども借りが大きすぎる。今更遠慮しても大差ないと開き直ったのか、イグニッカはそのまま数本の魔力回復ポーションをすべて飲み干した。体の奥底に必要なものが供給されるような感覚を覚える。
「む……効いている感じがするの」
体の奥底に魔力が浸透するーーそれは薬効が炎の巨人にとっても有効の証だ。
「ふぅむ……まだ必要?」
「正直全然たらん」
その言葉にジークリンデは眉間にはっきりと深い苦悩のしわを刻んだ。
あのポーションは人間用。巨人の膨大な魔力容量を思えば、大海原にバケツの水を足した程度のものだろう。だがそれでも……さりげなく手渡したそれは非常に強い薬効を含んでいたのだ。
山海の魔力が寄り集まって実態をなしたのが巨人種だが、果たして安静にしていればそのうち回復するだろうか?
そこにイスハルが言葉をさしはさむ。
「それなら、ヨハンネスの修理が終わったあとに魔力供給を行おうか」
「む? なんじゃそれ」
イスハルはなんとなしに。イグニッカは初めて聞く言葉に首を傾げて。
そしてジークリンデは。
「あら? ……どうしましたの。あなた」
横に立っていたレオノーラが思わず声をかけるほどに。
強い羞恥のにおいをさせながら、言葉に詰まっていた。




