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21:掴めることの大切さ

御待たせしてすみません。

色々遅くなりましたが、よろしくお願いします。

 機動巨人モビルビッグの脚部がたたらを踏んで地を踏みしめる。

 至近距離で暴悪なまでの破壊力を振るう相手にどう戦うべきか迷う。


「ジークリンデ!」

「こう見えて援護はしてるけどね!!」 


 とにかく排熱がまるで間に合わない。

 機動巨人モビルビッグの状況を把握するイスハルは全力で冷却システムを運転させていたが、急上昇を続ける機体に目を回したくなる。


「イスハル、あまり形勢はよくなさそうですわねっ!」


 こんな状況ではレオノーラやアンギルダン将軍も手伝えることは極端に少ない。

 機動巨人モビルビッグはひたすら守りに徹しながらも相手の打撃を受け、姿勢を低くしてすり足で前進し、ゆっくりと海へとイグニッカを追いやり続けていた。

 だが、イスハルとしては気が気ではない。

 イグニッカを救うための手立ては地道に進行しているものの、いずれ冷却装置が悲鳴をあげて加熱に耐えきれず爆発するのではないか、という恐れがある。

 師に対する信頼と、自分が操る鋼の巨体から発せられる、鋼鉄が加熱されて巻き起こる異臭がせめぎあい、どうすればいいのかという気持ちにもなってくる。


「まぁ、わたしはわたしで仕事を続けるからさ、任せときなよ、イスハル、しっぽ女!」

「ええ。そっちは任せますわよ、ジークリンデ。わたくしは糸伝令を介して、知り合いの冒険者に連絡をつけておきます」

「……ああ。そうだな」


 だが、そんな弱気に駆られたイスハルを叱咤激励するようにやるべきことを探して彼女たちが声を上げる。


「まだ。まだ。……機動巨人モビルビッグ! 魔力除去装置キャンセラーを起動させろ!」


 巨人が両眼部分から光を発しながら、両肩に内蔵されていた機構を開放する。

 装甲から姿を表した円筒形状のユニット。そこから発されるそれは、周囲の魔力を相殺、作用を阻害し無害化させるためのもの。


『……うう?!』


 炎の巨人イグニッカが苦しげなうめき声を発し、数歩後ろへと下がる。

 それを追いかけるように前進させながら、イスハルはわずかに悩む。今のイグニッカは精霊。その身を形成するのは肉体よりも魔力に重きをおいた生物へと変化している。

 

「それにしたって、先生……!」


 イスハルの脳裏に浮かぶのは師の穏やかそうな微笑み。

 あの人ならこんな窮地をどうひっくり返しただろうかとふと思いを馳せ。彼の心はハルティアにいた頃の、自由以外の全てに満たされた日々へと僅かな間回帰していた。



『先生。どうして自動人形の腕は人間のものを模したままなんですか?』


 かつてのイスハルは不思議だった。

 グレゴール王のもと量産型の自動人形生産に携わる中、どうしても不可解なことがある。


 どの人形も人間と遜色のない精巧なマニュピレーターをしている。

 けれども、機構が複雑になればなるほどに生産は困難に。修理は煩雑になる。

 それよりは、最初から弓を扱う戦闘用は躯体に射撃機能を内蔵させたり、農耕用は腕部に作業道具を取り付けたほうがいいのではないか。

 そんなイスハルにサンドール師は穏やかにほほえみながら答えた。



『あの自動人形の腕をそれ専門の道具にする。効率化の観点からみれば実に正しい。

 手にしているのは私の無意味なこだわり。ですが、手は万能器具として見れば完成している。土を掘る鋤になる。固めれば拳槌になる。誰かと手を繋ぐ』


 サンドール師はふぅ、と小さくため息を吐いた。


『あなたが独り立ちの暁には好きにするといい。

 ただ、例えば……誰かががけから落ちそうになった時。鋤の腕や固めた拳骨では間に合わない。

 まぁ、そうならないようにするのが一番正しいのですがね…………』



 先生の言葉を思い出す。

 掴む、握る、手を取る。

 まるで子供の癇癪のような乱打乱撃を浴びながらイスハルは手詰まりを自覚する。


 イスハルの関わらないところでイグニッカは手遅れになっていた。

 時間はかけられない。彼女の目的が消滅であるなら、機動巨人モビルビッグが打撃を受け続ける状況も事態の改善には役に立たない。

 

 崖から落ちそうな人を助けるために掌を使うといっても……燃え上がる生きた炎を前に掴んでどうやって解決する?

 イスハルは両目で師の残した自動人形の背中を見、どうやって海に叩き落とすか考えて……その両腕、『衝撃杭ショックパイル』と『飛翔用推進器エルボーロケット』に視線を向け……脳裏にひらめく手段を感じ取った。


「そうか……!」


 機動巨人モビルビッグの腕が動く。これまでと違い、イグニッカを傷つけまいと遠慮していた腕を開き、相手の打撃を受けながらも猛然と突進する。


「イスハル?! あれでいいのかい?!」

「ああ!」


 ジークリンデが気遣わしげな声をかけるが、イスハルの迷いない返答にそうか、と頷いて氷結魔術を連打して冷却を助け続ける。

 守りを捨て殴打を受ける巨人にアンギルダン将軍と彼の配下たちは背筋に冷や汗を覚え、遠方で巨人同士の戦いを見守るイスハークの冒険者たちは焦りと落胆の声をあげる。


 だが、問題はない。

 機動巨人モビルビッグは装甲に高熱と打撃で歪みを刻まれながらも、相手の打撃をかいくぐって伸ばした腕で相手の顔面を鷲掴みにしてみせた。


 敏感で繊細なマニュピレーターで高熱の塊を鷲掴みにするなんて、恐ろしく冒涜的な行為に思えたが、今はただ相手を掴む動作が絶対に必要だったのだ。


「あらっぽいやり方だが、文句は元に戻した君の口から聞くぞイグニッカ! 火を吹け……飛翔用推進器エルボーロケット!」


 イスハルの命令とともに肘に内蔵された推進器が火炎を吹く。

 本来の用途は格闘戦時、殴打を加速させる推進器だが――その推進炎は更に大きさをます。まるで肘から炎の剣でも伸ばしていくかのようだ。

 それはまるで矢を番えて引絞るかのような力の蓄積だった。

 炎の巨人イグニッカが自分の顔面を鷲掴みにする腕を殴ったり蹴ったりと脱出しようとするが、それに耐えながら機動巨人モビルビッグは相手を掴む腕を持ち上げる。


「仰角取った……この距離ならば!」


 そのまま命令を発する。


「接続を解除、彼女を海へと叩き出せ、飛翔鉄拳ロケットパンチ発射!!」


 機動巨人の円柱状腕部の中。巨大な推進用ユニットの固定ロックが一斉に開放。

 同時に肘より推進炎を噴出しながら機動巨人モビルビッグの拳骨が飛ぶ。当然のように炎の巨人イグニッカの頭を鷲掴みにしたまま。


「頼むぞ……持ってくれ!」


 飛翔する。

 イグニッカの頭を掴んだままロケットパンチが飛ぶ。

 問題は彼女を掴む繊細なマニュピレーターが、生きた溶岩のような熱量によって破壊されないかどうかだ。

 海を目指して鉄拳が火を吹きながら飛ぶ。

 港町イスハークと距離の離れた海岸線を目指す。炎の巨人と直接接触する腕部からは白煙が吹き上がり、徐々に高度を落としながらも海岸線へと近づく……だが、このタイミングでとうとう繊細なマニュピレーターが限界を迎えて焦げ付き、壊れてしまう。


「ああっ!」


 顔面を鷲掴みにしていた拘束から放たれた巨人が地上へと着地する。

 レオノーラの焦りと困惑を前に火の巨人は海岸線の崖っぷちギリギリの位置で地上へと踏みとどまり。

 海へと追い落とす作戦は失敗したのだと落胆する皆の前でイスハルは安堵のため息を吐いた。


「いや、間に合った」


 ロケットパンチが、飛ぶ。

 イグニッカを手放したその拳はそのまま急上昇をかけて空中でぐるりと円を描くように飛翔。そのまま崖っぷちでバランスをどうにか保とうとしたイグニッカを前に凄まじい勢いで激突し。


 崖から落ちた炎の巨人は、海水と接触するとともに、膨大な水蒸気を吹き上げながら海へと没したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いかん、困難なミッションを成し遂げた場面のはずなのに、脳裏には80年代コントか洋物カートゥーンの、「崖っぷちで落ちそうになったキャラが手をぐるぐる振り回してなんとか持ちこたえ、やれやれと額…
[一言] ロケットパンチは飛ぶだけじゃない……軌道を操作できるんだ!!
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