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12:うまい! うまい!



 

 意外なことに――襲撃もアクシデントも何事もなく。

 イスハル達一行は帰還地点である港町イスハークへと帰還できた。


 冒険者ギルドは若手の中で随一の実力を持つイスハル達が、簡単なはずの護衛任務を失敗したという内容に驚きはしたものの、罰金と厳重注意のみで処罰は済んだ。

 列車を介して送り届けられた手紙で、先の行商が弁護をしてくれていたらしい。

 冒険者ギルドのほうでも、ロックフォート領の異変は聞き及んでいるらしく。イグニッカのことに対しては知らぬ存ぜぬを決め込むこととなった。




「さてと……それではわしの仕事と……」


 イスハークに移動すると、イグニッカは現地の鍛冶屋に頼み込んで鍛冶場を一つ借りることができた。

 鍛冶屋もヨハンネスの剛腕に耐えうる剣を作れなかったことに負い目を感じてか、貸すことを認めてくれたのだ。

 もともとはロックフォート領にて父マイヤーの薫陶を受け、鉄芯蘭勲章を授与するほどの才気の人である。

『大剣潰し』のヨハンネスの剛力に耐えうる武器を作るためにはドワーフの秘儀を用いる必要があるため、一人でやらせてほしい……だから今回は相槌――文字通りの意味で――をうつ人もいない。


 イグニッカは轟轟と燃え上がる火を見た。


 うまそうだ。


 そしてイグニッカが食欲を覚える炎で打つ鉄は不思議と優れた名剣となる。卓越した鍛冶師であれば長年の経験則で掴むであろう適温を食欲で把握するイグニッカは、炉にて鋳造された大剣となる鉄塊を引き出した。


「さて。おやつと……」


 そうして彼女は近くに置いてあった鉄鉱石を一つ摘まんで……これもやはり、大きく口を開いて飲み干す。

 炭を喰らった時と同じく尋常なことではない。こんなにも小柄な娘の喉を通るなどありえない大きさの鉄鉱石はしかし、なぜか喉につっかえるわけでも、吐き出すわけでもなく。胃袋に収まった。そうして二個三個と飲み干すと共に、彼女の燃えるような頭髪が、先ほどと比べて明らかに伸びている。

 毛先はぼぅぼぅと燃え上がり、髪に引火したかと見まごう光景の中、彼女は平気な顔をして――大鋏を取った。

 

「……我ながら心太ところてんみたいな体しておるの」


 鋏は鋏でも……誰もが連想するような布や紙を切り裂くものではない。

 ガラス職人が形を整える際に用いるような、焼け爛れた高熱の鉄を切るための代物だ。イグニッカはそれを用いて髪を鋏み、じょきんと切断する。

 燃えるように赤いイグニッカの髪は、本当に燃えていたが体から切り離されると飴状に溶解し、準備してあった高熱の鉄に交じる。

 それを再度炉に戻し、混ぜ合わせ、引きだしたソレを大金槌で打ち始めた。



 

 イグニッカは過去を思い出す。

 鉄芯蘭勲章を受章した名剣を鍛え上げた時、この奇怪な製法を見出したのだ。

 イグニッカの父マイヤーはドワーフ同士の折衝や、アンベルバード王国の使者との会談などに時間を費やしてばかりで……ドワーフ本来の生業である鍛冶仕事をする暇がなかった。

 技量を競い合う一族内での催しや祭りでも剣を出したことは少なく……ドワーフの年若いモノには彼を軽んじる浅はかな輩もいた。


 許せなかった。

 父マイヤーの不名誉は娘である自分が濯がなければ。イグニッカは心血を注いで剣を打ち始めた。

 一振り、二振り。それなりのものができたが、敬愛する父の弟子が打ったものとしては不満が残る。三振り、四振り、剣を打ち、焼きつぶし、練習と試作を繰り返す。

 寝食を忘れて没頭していたイグニッカは、剣を打つさなかに不意に空腹を覚え。水を飲み、義母の作ってくれた食事をつまもうと、鍛冶場を後にしようとしたが……なぜか。まったく不可解なことに――鉄鉱石をみて『うまそう』だと思ってしまったのだ。

 そんなばかな。いくらドワーフであっても鉄を食えるはずがない。そんなわけが、という常識や理性は、限界を超えた腹の虫の音にかき消され。

 イグニッカは、ひょい、とひと摘み呑みほした。



 うまい。



 いやいやそんなばかなことあるわけなかろうと思いつつも、ひょいぱくひょいぱくと手は止まらず。

 気づけば5つ程度、鉄鉱石をつまみ食いし。……そして、真っ赤な髪は先端が燃え盛る炎となって。

 イグニッカは心底仰天した。すごいぞ人体発火現象じゃ! などと叫びながら鍛冶場を走り回り……とにかくこの燃える髪を処分せねばと思った。

 自分の体の一部から害はなかろう……そう思っても、心優しい義母は心底びっくりするだろう。傍にあった大鋏で燃える髪を挟んで切断すれば……飴色の鉄となった。


『あっ』


 その燃える髪は、そのまま近くに置いていた溶鉄と混じり合い一つになってしまう。

 不純物が混じってしまったか、と落胆したものの――なってしまったものは仕方ない。とりあえず剣に形成して研ぎの練習にでも使おうかと考え。


 それが――想像を遥かに上回る名剣と成り。

 鉄芯蘭勲章を獲得するほどの評価を得たのであった。


考えてみると〇の槍作る前にギ〇ョウさんのご家族が試していた製法だなこれ……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 爪と髪を入れるやつですね。わかります。 ・・・あれ?フラグじゃね?
[一言] >○の槍以前 ほんとだ!
[一言] この謎生物はいったい何なんだろうね?精霊とか?
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