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11:デートの……約束(目逸らし)

 ここからさきは、少し強行軍になった。

 イスハル達は元の雇い主である行商を町の近く、安全な距離まで接近するとすぐさま踵を返してもともと拠点にしていた町、港町イスハーク目指して行軍を開始する。

 万全を期すつもりであれば、目的地である町に到着するとその場で休息を取るべきであるだろう。


「いや……確かにわしが見つかるとまずいが、おぬしらにだって都合はあろう」

「あいにくですけど、わたくしたちの目的は今ちょっと難しそうですのよ」


 馬車を引き、町の中へと消えていく行商の姿を見送りながらイグニッカが呟くと、レオノーラは短く答えた。

 レオノーラとヨハンネスは町の外周でイグニッカと待機。イスハルとジークリンデの二人はただの旅人を装って町の中で情報の収集と水、食料の買い付けに動いている。

 なお、イグニッカはその辺の地べたに腰掛けるヨハンネスの膝に尻を載せていた。


(レオノーラ。やはり行商さんの言葉を裏付ける話ばかりだよ。どこも嫌な顔をされている。このロックフォート領ではドワーフが人間を見る目が、どうも厳しい)

 

 糸伝令を介してイスハルの報告を聞き、レオノーラは頷いた。ジークリンデも食料の買い出しを終えて戻ってくるだろう。

 依頼完了をギルドに通達できないのはもどかしいが仕方ない。 

 イグニッカは、眉間にしわを刻んで、うむむむむ、と困り果てたような唸り声をあげた。

 恩を受けすぎている。

 山中で空腹と疲労によって動けなくなった自分を助け、ロックフォート領に行き来できなくなるリスクを抱えて。


「なぜそこまで……見ず知らずのわしのためにしてくれる」

「そうですわね……まぁ。あなたを助けたのはただの偶然。しいて言うならわたくしの鼻が利きすぎたせいですけど。

 見捨ててもいいはずのあなたを、助けた理由は……イスハルが、解放奴隷だからかもしれませんわね」


 びくり、とイグニッカはレオノーラに視線を向ける。困惑と哀れみに似たにおいがする彼女にレオノーラはつづけた。


「彼は、自由を奪われることが心の底から嫌いなんですのよ」




 イスハークへととんぼ返りをする選択をした以上、ここからは、歩きになる。

 アイテムボックスを持つ一行ゆえに手に持つのは武具の類であるから。あとは体力次第だ。

 ゆっくりと元来た道を戻りゆく。馬車はないが、三名とも相応に鍛えこんでいるし、両足に人工筋肉を張り巡らせて負担を減らすという裏技だって使える。最悪の場合はヨハンネスが背負うことだってできるのだ。

 イスハルは感覚を、四方八方に広げた地蜘蛛陣に傾けた。

 現在は追手の姿はない。

 

 

「……すまぬ。いずれ借りは返すからの」

「いえ、期待せずに待っていますわね」


 イグニッカは深々と頭を下げ、レオノーラは気にした様子もなく頷く。

 彼女は現在財産らしいものを何一つ持ち合わせてはいない。そのうえ首にはいまだに国外退去を命じる看板をひっさげたままだ。一種の呪物であり、記入された刑罰である国外へと移動を終えねば外すことができない。

 だが、イグニッカは無一文でも特に人生を悲観した様子もなく傲然と胸を張った。

 

「いずれ外国に出た後は、どこぞの鍛冶屋で槌を振るって稼ぐゆえ。わしのところに来てくれれば武具を新調してくれよう。ダーリンもわしを頼ってよいぞ!」


 イグニッカがヨハンネスをキラキラした恋する乙女の眼差しで見つめるたび、一同は罪悪感で苦しくなった。

 ヨハンネスを彼女の言葉に頷かせながら、イスハルは言う。


「イグニッカは鍛冶の腕に自信が?」

「こう見えて鉄芯蘭勲章をいただいておるぞ」

「え?」


 ジークリンデがぎょっとした様子で目を剥いた。意外と驚愕を胸に言う。


「ドワーフの若手鍛冶で、その年頂点に至った最優秀者に与えられる名誉勲章じゃないか」

「うむ! 意外と詳しいの、おぬし」


 武器としての実用性……折れず曲がらず血錆びて歪まぬ鉄芯と、装飾品としての技能を意味する花の名を関する勲章。

 ならば彼女はこの年若さで若手第一位の実力があると認められたわけか。

 イスハルも興味を惹かれて尋ねる。


「どんな勲章なんだ?」

「む。残念ながら実家よ。……じゃが、その勲章を得たことはまこと。我が父祖の隻眼にかけて誓おう」

「ああ。……イスハル。なら問題ないよ。ドワーフの父祖の隻眼にかけた誓いは本物だ」


 ドワーフのような鍛冶は、常に高熱と光に晒される。

 鍛冶の際に飛び散る火花や強烈な熱光に晒される以上、失明の危険性は常に付きまとう。ゆえにドワーフにとって隻眼は職業病であり、誉れになる。

 その父祖の隻眼に誓うことは、絶対に嘘を言っていない証でもあった。


「……なぁ、イグニッカ。それなら剣を一振り、打ってくれないか? そこにいるヨハンネスのものなんだが、彼の剣腕に見合う代物はなかなかないんだ」

「む? ……ふむ。確かにダーリンは巨躯の上、たぐいまれな剛力の持ち主。しかし武器を選ばねば……ハンマーやメイスなどでもよいのでは?」

「あー……」


 イスハルは少し答えに窮した。

 確かに、ヨハンネスはその気になればへし折れる心配のない大型の鈍器でも扱うことができるだろう……しかし、ヨハンネスに組み込まれたモーションパターン――イスハルの負担を低減させるために組み込まれた動作は、剣の使用を前提としたものばかり。鈍器でも問題はないが……できるなら、性能を最大限生かせる武器を用いたいのだ。

 そんなイスハルの困ったような反応に対してイグニッカは気にせずに頷いた。


「いや。これはわしが悪かった。ダーリンのような素晴らしい剣士であれば武器にも並みならぬこだわりを持ってもおかしくはないぞ。

 任せてくれい! わしはダーリンのために見事な剣を打ってみせようぞ! あと終わった後にダーリンがデートとかしてくれるとわしめっちゃ頑張ると思うし!!」


「「「…………」」」

(ちょっとどうしますのよ本気で)

(わ、わたしに言われてもとても困るよ)

(この笑顔を曇らせると思うと今から辛いな)


 いつかは言わねばならないが、果たしてどうすれば彼女のショックが一番抑えられるか。

 考えてみても答えは容易には出なかった。

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] あー、鈍器に切り替えない理由はそれでしたかー なるほど、イスハル君がいつもいつも完全に末端まで制御してるわけでなく、ある程度はあらかじめ決まったモーションを発動させたりしてるわけでしたか …
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