6:名剣求め
すみません。本日は短いです。
さて。
ヨハンネスを人間として偽る手は実にうまくいった。
イスハル達三名のパーティーに加わった身長240センチを誇る全身甲冑の巨漢。
言葉を発する姿を見たものはなく、恐るべき剣速と剛力で並み居るモンスターを斬って捨てる剛勇の剣士はイスハル達を敵視したり、手駒に引き入れようとする連中に対する強烈な抑止力として大いに働いた。
イスハルももともとは数百体を超える自動人形を操る能力の持ち主であり、今更自動人形一体に常時人間の振りをさせておくことは難しくない。
かつてサンドール師の生き人形を操った経験もあるイスハルだが、そのうえで一番大変だったのは顔面筋の精密な操作だった。それに比べればヨハンネスは全身甲冑で顔が見えないという設定なのでずっと楽だったのである。
ただ、一手間は必要だった。
まず打ち上げの際に一つ演技が必要になったこと。
いうまでもなくヨハンネスは食事ができない。そしてイスハル達三人が料亭で舌鼓を打つ間にヨハンネスのみの姿が見えなければ『彼らは不仲なのか?』と予想される可能性がある。だからヨハンネスのみはイスハルたちの食事の誘いを固辞して去っていく……という風な小芝居を周りに見せつけておく必要はあった。
剣士として非常に有能なヨハンネスだ、恐らく引き抜きを狙う人間もそれなりに出てくるだろう――実際、ヨハンネスを遠隔操作しているイスハルは、堂々と引き抜き交渉にきた相手を何名か知っている。
そして一番のデメリットは――。
「今回は――……剣をへし折らずに済みましたわねー……ええ。これは完璧にわたくしの落ち度でした」
「狙いを翼のみに絞って動きを封じることに徹したからな。あとはジークリンデの長距離爆撃でどーん、だ」
「だけども……ここ一か月ですでに十本。稼ぎは出せているから黒字だけど……うん。あまり良いことじゃないね」
……自動人形ヨハンネスの一撃に耐えられる武器が、なかった。
イスハル達は宿の一室で顔を突き合わせて会議をしている。
列車の線路付近に出現する恐れのあるモンスターの事前駆除。
ある程度イスハルの『糸伝令』の手札もさらして完勝と言っていい成果をようやく出せた。
だが、それ以前はヨハンネスが扱うための大剣がことごとくへし折れてばかりだったのである。
「さすがはサンドール師がおつくりになった高位の自動人形ということですわね。
ですが……こう何度もぼきぼきとへし折ってばかりは好ましくありませんわね。おかげで『大剣潰し』と仇名されるほどになってしまいましたの」
つまるところ、剣の格がヨハンネスの剛腕に見合っていないのだ。
イスハル達もイスハークに居を構える武器屋を巡ったりはしたものの、どれも同じような格の剣ばかりだ。
「……そろそろ、既製品のバスターソードじゃ限界があるね。そう考えよう。ならわたしたちはどうするのがいい?」
武器が消耗品といっても、毎回へし折ってばかりでは話にならない。腕がいいから収支的になんとかプラスだが、改善の必要があった。
「……品質のいいものを買いましょう。既製品ではらちがあきませんわ。ヨハンネスの剛腕にさえ耐えられる業物を買いに」
「となると……南だね。この国で最高品質の武具を手に入れるならドワーフしかない。アンベルバード王国の南。南方のドワーフ自治領。ロックフォート領に行こう」
ここからだとひと月半ほどの旅となるだろう。
だがイスハルはちょっとわくわくしたような顔をしている。何に対してときめいているのかよく理解しているレオノーラは言った。
「……お金に余裕がないわけではありませんけど。列車に乗るわけではありませんわよ?」
「そんなー」
がっくりと落胆した様子のイスハルに、仕方ないのだ……と、レオノーラは甘やかしたくなる心を抑え込むのに苦労した。




