5:来たぞ期待の新メンバー!(既知)
やはり新しいノートパソコンうちにくかったので新しくキーボード買いました。(切実)
「わたくしから皆に、提案がありますの」
「おや。なんだい?」
海岸に位置する港町イスハークで冒険者としての生業を初めて、早一か月半。
一同はすでに大勢に知れ渡る期待の新人とみられつつあった。
イスハルは暇なときには技能を生かして義手義足を作って金と恩を稼ぎ出し。ジークリンデは魔獣の皮をもとにマジックスクロールを作って売りさばいている。レオノーラのほうも獣氏族の狩人だった経験を生かして解体業のバイトをしたり、休みの日には食べ歩きなどしていかにも日々を満喫していた。
ただ……どこかの家にこもりがちな二人とは違い、外を出歩くことの多いレオノーラは、よからぬ連中にちょっかいをかけられることも多い。
「先日、わたくしが全身の関節を逆にした殿方ですけど。ギルドのほうから彼が不穏な行動を目論んでいると警告を受けましたの」
「……そろそろ拠点の町を変えようか?」
レオノーラの言葉にイスハルが気づかわしげに言う。
逃げるように思われるかもしれないが、一行は別に一か所にとどまる必要はなかった。
「あら、でもイスハル。冒険者の方々で義手の制作を頼まれているのでしょう?」
「なるべく頑丈で、モノを掴む程度のことはできる奴だけどね。ただ危ない橋を渡る気はないよ」
「ジークリンデも納品の仕事は?」
「いや。出来たマジックスクロールを買い取ってもらう程度の仕事だ。発注を受けてから仕上げるんじゃないから納期とかはないよ」
三人とも食うに困らない程度の能力は有している。けれども当座の目的は立身出世。そして大陸全土に鉄道の繋がった列車を得ることだ。
今やっている仕事はあくまで一時の腰掛け程度の意識だ。
レオノーラは『逃げるでも、戦うでも、構わない』という二人の言葉に微笑みながら最初の提案を口にした。
「わたくしたちは、新しいメンバーを加えるべきですわよ」
「「新しいメンバー?」」
二人が同時に首をかしげる。
イスハル達はここ一か月半で知己をそれなりに増やしているものの、だいたいは仕事上の付き合いだ。背中を任せられるほどの相手とはまだ出会っていない。
「ええ。新しいメンバーです。……まず。わたくしが全身の関節を逆にして差し上げた彼はなぜちょっかいをかけてくるのか。
わたくしとジークリンデが、見目麗しい乙女だからですわね」
「うん……まぁ自分でいうのかい、きみ」
「いや。二人は美人だよ。間違いない」
レオノーラとジークリンデはちょっと照れた。
だがイスハルは気づかずに眉間にしわを刻む。
「だからこそ、俺がもうちょっとドスの効いた強面ならこんなことにはならずに済んだのに……」
「強面になったらわたくしが悲しいですわよ?!」
今回ばかりは同意なのか、ジークリンデが後ろでうんうんと頷いている。
「ただ。だからといって威嚇のために見知らぬ相手を仲間にするのも少し違いますでしょう。
わたくしの提案――それは、イスハルの自動人形。高機動剣豪機を人間として四人目の仲間に加えることですわよ」
イスハルとジークリンデの二人は、レオノーラの提案に少し考えこんだ。
ヨハンネス。240センチの体躯を全身甲冑に包んだ巨躯の剣士――に見えなくもない自動人形。
「レオノーラ。体格はどう誤魔化す? ヨハンネスは大きい」
「巨人族の血を引いているということに致しましょう」
「あれ……伝説やら伝承やらで聞いたことはあるけど、通じるかい?」
ジークリンデの懸念も最もだが、レオノーラは問題ないとうなずく。
「山海の気が寄り集まって生まれた、母体を必要とせずに出現する精霊に似た巨人。そういう伝承はありますし、ヨハンネスの膂力はそれで説明がつきましょう。
だいいち……このハンディウム大陸で自動人形と結びつけられる人はそういないのでは?」
「ふむ……」
イスハルは考え込んだ。
師であるサンドールは、確かこの国の『冷酷王』と呼ばれる人物に仕えていたと臨終の際に聞いた。その人物は死去してまだ数年程度だが……自動人形に関する情報は全くといっていいほど出回っていない。
「メリットはもう一つ。……わたくしたちは地力が高いので表面化していませんけど。イスハルは近距離も遠距離もできますけど……どちらかというと罠を張り巡らせたり、自己強化やわたくしをマッチョにしたりと援護が得意。ジークリンデ、あなたも後衛の大火力の担い手。わたくし一人が前衛では少しいざという時が怖いのです。ヨハンネスという強固な前衛がいると内外に周知しておけば、他の冒険者と共同戦線を張る際、いちいち説明せずに済むでしょう。
それにわたくしの獲物は大戦槌。ジークリンデの得手の焦熱光線は、威力に不足はありませんけど……収入を減らすという欠点がありますわね」
「うぐぅ?!」
毛皮などは金銭価値が高い。一番いい仕留め方は刺突系の武器で急所を一撃で、次点は鋭利な刃物ですっぱりと斬ること。ジークリンデの穴だらけにするような豪雨じみた連射は一番まずい仕留め方だ。
役立たずとは程遠いジークリンデだが、穴だらけのモンスターの毛皮を見てもったいないと感じる心はある。
ただ敵の撃滅のみを考えればよかった宮廷魔術師の時代とは違うのだから、と今では不得手だった凍結系や、脱水、毒などの相手を傷つけない殺し方を模索中だったりもする。
レオノーラは言う。
「ただ……推進機能とビームサーベルの使用だけは禁じたほうがよいでしょう。
ハルティアでの戦では光の剣の話が出回っていても、空を飛ぶのが全身甲冑の大男という話はまるで出回っていませんわ。
……前、参戦した絵心のある傭兵が書いたという『光の剣』を題材にした姿絵を見ましたけど、燃える炎の翼をもつ生身の天使の絵がありましたの」
「意外とヨハンネスの外見は知られていないわけか」
「しっぽ女。メリットが大きいのはわかったけど。ギルドにバレた時はどうする?」
だが、ジークリンデの懸念も予想済みなのか。レオノーラは問題ありませんわ、と胸を張る。
「この思いつきを話す前に、念のためギルドの規約をすべて確認しましたが。『自動人形が人間であると偽ってはいけない』という決まりはありませんでしたわよ?」
「……前例なさ過ぎて必要がなかっただけじゃないかな」
「あったらスゴイね。ふふ」
ジークリンデの軽口にイスハルは少し考えこんだ。
冷酷王ヴヌス。
北東のローダキアに実在した王。
国内の不平等を正すために粛清の血刀を振るった恐るべき凶王の名が知れ渡っているが、昨今では再評価の向きもあるという人物らしい。
(先生のいまわの際の言葉から察するに、あの人は北東のローダキアの冷酷王ヴヌスに仕えていたってことか。
となると……人間よりずっと長命な現地のエルフなら、自動人形を知っているかもしれない――そういうことか)
もちろん、サンドール師が奴隷身分に堕とされてから相当に時間が経過している。
だが、直にサンドール師と接したエルフもいるかもしれない。ローダキアをいつか旅したいとは思うが、その前にしっかりと足場を固める必要があるな……と、イスハルはそう思った。




