2:もちろん中身はイスハルだけど。
一月六日は二話更新します。
こちらは二話目になります。よろしくお願いします。
彼ら冒険者達は、最終的にはイスハルたち四名を受け入れた。
生命のかかった荒事を生業にしているにも関わらず、彼らには窮地に陥った他の冒険者を助ける心の余裕がある。見知らぬ相手であろうとも助けるために苦労する事を厭わなかった。
線が細く大人しげなイスハルだが、『魔力糸』を用いての索敵や通信能力は驚異的であり、今回のような複数の冒険者チームをまとめる指示力があった。
品の良いお嬢様口調のレオノーラだが意外にも四名のうちでもっとも野外活動に向く能力を持ち、また獣人特有の嗅覚による追跡能力をもち、膂力と俊敏さで敵を屠り去る。
魔術師であるジークリンデの火力は空前絶後だ。
悪辣な冒険者なら、同業者の死を見届けてから装備品を剥ぐこともある。それを思えば、彼ら四名は実に歓迎すべき清廉な心の持ち主だった。
だから、本音をいえばできるだけ自分たちと同じギルドを根城に仕事をしてほしいと内心皆が思っている。
けれども……今まで行ったことのない場所へ、新しい場所へ向かいたいと目を輝かせて語るイスハルを前にすれば、誰も止めることなどできそうにない。
生活に追われる中で擦り切った冒険心を未だ胸に宿す彼らを見れば、かすかな嫉妬と羨望をいだきつつ応援をせずにはいられないのだ。
ぐおおおおおおぉぉぉぉん!
唐突に、突然に、遠雷の如くモンスターの雄たけびがあがる。
全員が全員鞭に打たれたかのように迎撃態勢を取った。イスハルと『糸伝令』を繋いでいた女魔術師が即座に情報を求める。
「イスハル、今の聞こえた? わかる限りの情報を頂戴」
『他のチームからの連絡によるとワイバーン、数2だそうだ』
「そうだったわね……あんたの索敵だと飛んでる奴は察せないんだったか」
『ご理解ありがとう。敵、位置近い。警戒を。ヨハンネスもそちらに向かった』
「ワイバーン2! 全員警戒! ヨハンネスが応援に来る!」
本当なら、どこから来たのか。誰かやられてないか。そういう気持ちが沸かないわけではない。
しかし今最も必要な情報は敵の種類と数、そして援軍が来るかどうか。
接敵は、一瞬だった。
森の木々を舐めるような低空で飛行しているワイバーン種。龍のような前足を持たず、両腕の位置から翼を生やした下等な龍種だ。
ただし亜龍でも龍は龍。強靭な四肢と、尾の先に備えた毒針はそれなり以上の脅威となる。
女魔術師がこちらに向かってくると判断すると顔をしかめた。
「あーもう貧乏くじ。接敵するわ。ねぇイスハル? ジークリンデの支援は期待していーわよねぇ?」
『任せてくれ、彼女は位置に移動中』
ワイバーンはいささか手に余る。
勝てないわけではないが二体同時となると、さすがに厳しいものがあった。本音を言うなら相手をやり過ごしたいところだが……自分たちの後ろには、距離が開いているとはいえ――大貴族様やら大商人様やらがご利用あそばれる列車のためのレールが敷かれている。防衛目標を背負った状態で敵を素通りさせるのは、やとわれた身としては決してできない。
リーダーの戦士が叫んだ。
「戦法は防御主体だ、ぶちかまして目をこっちに向けさせろ!」
「あーもう!」
魔術師の女性が空中へと爆裂魔術を放ち、一体の敵意を引き付ける。
斥候がクロスボウを構え――低空で通過しようとしていたワイバーンめがけて引き金を引き、ねらったように吸い込まれていく。ワイバーンの、片方の目に深々と突き刺さった。
ぐおおおおぉお!
言語が通じずとも激しく怒っているとはっきりわかる咆哮を前に、冒険者たちは顔を引き攣らせながら、斥候に視線を向けた。
「……君さぁ、こういう余計なところで頑張らなくてもいいんだよ?」
「あー、怒ってる怒ってる。ワイバーンめちゃくちゃキレてんな」
「本当に申し訳ない」
もちろん、仲間たちも斥候を責めているわけではない。高速で移動するワイバーン相手に対してクロスボウを当てるだけで大したもの。ましてや狙って眼球を撃ち抜いたなら素晴らしい神業だが――そこまでの技量がないことは十分に理解している。ただのまぐれ当たりだ。
ただ相手の攻撃がより一層激しくなる急所への痛撃を……よりによって今当てなくてもいいのに……。
相手からすれば、地面を這う取るに足らない小物に深手を負わされたようなもの。
知性の低い獣であってもはっきりわかる強烈な憎悪を前に、冒険者たちは仕事に取り掛かった。
とはいえ。
それほどの窮地には陥らずに済んだ。
地を蹴り戦場に到達する援軍。
全身甲冑を纏い、肩に背負う大剣を構える『大剣潰し』のヨハンネスの勇姿に冒険者たちは安堵の笑みを浮かべる。
「よぉ、ヨハンネスの旦那! 一体は始末したが、治癒と魔術は使い果たした! あとで一杯奢るぜ!」
甲冑の巨漢はいつものように返答をしない。ただ親指を立てて礼を述べるのみである。
ぎゅあああっ!!
ワイバーンが叫びながら向きをヨハンネスへと向きなおる。獣の知性であっても……いや、本能のみで生きるモンスターだからこそ甲冑の剣士ヨハンネスの恐るべき戦闘力を察することができたのだろう。
ヨハンネスは大剣を腰だめに構え、身を撓めて突撃する
あんな甲冑を纏いながら、あれほどの神速でどうして動けるのか――地面を蹴って空中へと飛び上がった彼の切っ先は狙いを過たず、翼を両断してのけた。
ぎえええっぇぇぇぇ!!
苦痛と怒りにのたうち回りながらワイバーンは尾を振り回し、牙を剥いて威嚇する。飛行能力と引き換えに歩行能力が退化したワイバーンの動きは鈍重だ。
暴れまわって近寄らせまいとする相手に――しかしヨハンネスは後ろに下がって、その両眼で相手を見る。
『はい。爆撃の出前一丁だ――3、2、1、弾着、今』
きゅううぅん――と、攻撃魔術が空を飛ぶ独特の飛翔音。
森の上を飛翔し、そして落下して暴れまわっていたワイバーンをジークリンデの徹甲魔術が直撃した。
頑丈な龍鱗をあっさりと貫通し、肉体に大穴を開けられたワイバーンは苦し気な悲鳴をあげると――肉体からすべての力を失い、ぐったりと倒れ伏した。
安全が確保されたことを確かめると、冒険者たちはようやく一息つけると思うまま安堵の息を吐き。
そして救援に駆け付けたヨハンネスへと、仲間一同を代表してリーダーの戦士が礼を述べる。
「よぉ。ヨハンネスの旦那。また借りができちまったな」
ヨハンネスは軽く手をひらひらさせる動作で、『気にするな』と答える。
戦士のほうも、彼が言葉を発さないのは知っていた。これほどの実力を有しながらも一言も発さないのはよほどの事情があるのだろう。仲間に手ひどい裏切りを受けたか、喉に生涯残るような戦傷をこうむったか。
戦士の男は朗らかに笑う。
「しっかし今回は大剣潰しを見れなかったか。名高い猛剣の極み、拝めなくてちょいと残念だな」
「ちょっとあんた、ヨハンネスさんに失礼言わないでよ。折れずに済んだならそれに越したことないんだし」
冒険者にとって仕事道具である武器は消耗品であるものの……無駄に壊さずに済めばいい。
だが、他の武具防具と違い、大剣は壊れにくい部類の武器だ。身の丈ほどの巨大な鉄の塊。その気になれば鉄板焼きでもできそうな代物は、その武骨さに相応しく非常に頑丈だ。
そんな代物を……毎回真っ二つにへし折る。
なかなかできることではない。財布には大変厳しい話ではあろうが――ヨハンネスの剛力、踏み込みの速度に武器の格がまるで見合っていない証でもある。
武人として並みならぬ実力の証明。
賞賛の気持ちのみで『大剣潰し』と讃えられるヨハンネスは――。
正確には……魔力糸で自動人形の、高機動剣豪機を遠隔操作するイスハルは……困り果てた気持ちで、彼らの称賛を聞いて天を仰いだ。
あけましておめでとうございます。
今年一年もよろしくお願いします。
作者は年末に車がエンジントラブルで大みそかに故障! レッカー移動!! 本日ようやく修理の目途が立ったけど金がかかる!
あと一月二日に執筆しようとしたらテッカイオーのころから使っていたノートパソコンがお釈迦!!
画面真っ赤で古すぎて修理不能!!
新型を買いましたが打ちにくくて速度半減!! おのれナムロックキー!!
そんなわけですが作者は財布はともかく体はとりあえず元気です。
今年もよろしくお願いします。




