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32:王族の値段

作者はあんまり金銭レートとか決めるのは面倒なタイプなので。

『円=リラ』は同等の価値と、名称のみ代わっているだけという形をとっています。


 奴隷の値段に関する話をしよう。

 一般的な相場は、成人男性が50万リラから60万リラ前後。労働力として男性に劣る女性は40万リラ前後になる。

 子供は労働力としての期待は出来ないし、育ち盛りだと必要な食料の量も増えるので10万リラから5万リラになる。

 奴隷の子供は鉱山など閉所での労働力として用いられることも多いが、落盤事故や有毒ガスによる窒息死などもあるため、心ない鉱山経営者は最初から子供を消耗品として捉えていることも多い。生きて帰れぬ鉱山奴隷。残念な話だが、現実だ。


 専門的な知識、技能を持つ奴隷は高くなる。これらは一気に跳ね上がって500万リラから1000万リラだ。

 どこそこの国の歴史や文化などを子弟に教える、『教材』としての奴隷はこのあたりになる。

 1000万リラあたりになると区分は『高級奴隷』に該当し、この辺だと下手な平民よりもずっと安全な暮らしができるほどだ。給料も支払われるし、年数はかかるだろうが、自分を買い戻す事も十分可能だ。もちろん与えられた給金を使い込んで、生涯奴隷のままで暮らすものも多い。


 最高級の娼婦などは1000万リラから3000万リラ。このクラスになると高位貴族や大富豪ぐらいでないとなかなか手が出せないだろう。

 以前イスハルの身代金支払いを拒んだヴァカデス王子が、私的な女奴隷を購入したのはこの辺になる。


 3000万リラから5000万リラの奴隷は滅多には存在しないが、いないわけではない。

 国家間での戦争で、戦局に大きな影響を与えるレベルの魔術師などがこれに該当する。


 ……そして、獣氏族が捕らえたイスハルの身代金として要求したのが7000万リラとなる。

 この査定を聞いた時、レオノーラはまぁ妥当な線だと思った。


 彼は魔力糸を用いた『糸伝令』の能力で瓦解するハルティアの王国軍を纏め上げ、整然とした撤退戦を指揮した。

 戦局を左右する強力な魔術師として査定できる。


 もっとも、獣氏族がイスハルの身代金を定めた査定基準はあくまで『糸伝令』の使い手という一点だけだ。

 実際のところイスハルの能力すべてを値段として正確に査定した場合、どれほどになるだろうか。

 魔力糸を用いた『糸伝令』はもちろん魔力繊維マナファイバーの生産、自動人形オートマータの構造知識、生産能力……その他細々とした彼の膨大な技能を正確に査定すれば……軽く数億は行く。

 獣氏族の人間達はレオノーラの事を「あれほどの大勝の報酬として奴隷ただ一人を求めるとは、なんと無欲な」「いや、何でもハルティアに遊学していた際、世話になったのがかの奴隷と言うぞ」「なんと、昔の恩義を返すため膨大な恩賞を捨てるとは。まこと義人の鑑」と褒めているが……本人は「ちょっと報酬貰いすぎたかもしれませんわね……」という気持ちである。


 ただ、これは一つの事をイスハルに教えていた。

 すなわちイスハルの奴隷としての価値は「7000万リラ」であり。

 それこそが己を買い戻し、解放奴隷になるための必要な金額だ。




「み、認めん! 認めんぞ! 我が強大なハルティアがどうしてたかだか7000万リラを出せぬという! そ、そうか……このヴァカデスの以前の決断を逆恨みしてのことだな!」

「……まだそんな風に考えているのか、ヴァカデス」


 さて。

 身代金査定で考えると、一国の次期王位継承者の身代金はたいてい億を超える。

 何せ絶対に買い戻さざるを得ないのだから、当然高くなる。あんまり高くなりすぎると交渉が終わるのでお互い出せる金額出せない金額を手探りしながら探ることになる。

 

 それを考えるとヴァカデスの7000万リラというのは、一国の王子としては――安い。正直、かなり安い。

 暗愚の王子にとってプライドを傷つけられたのか、声を荒げるヴァカデス。


「そ、それに7000万リラとは何事だ! このヴァカデスを愚弄する気か! せめて3億が妥当であろう!」

「あなたに3億リラの価値はありませんわねぇ……」


 レオノーラは自分に怒鳴るヴァカデスに、髪を弄りながら馬鹿馬鹿しげに答えた。

 7000万リラという価格設定は……単純に、以前のイスハルと同じ値段という意趣返しだ。

 

「ハルティア王国は破産寸前だ」

「は? ……何を馬鹿な! 我が強国ハルティアが破産など、ありえぬ!」


 ヴァカデスにとって、国庫とは無尽蔵の金蔵だった。

 自分がいくら放蕩の限りを尽くそうとも使い切れない膨大な財産がおさめられているはずだった。

 だがヴァカデス個人が放蕩で使いつくせる金額など国家にとってはそれほどの打撃ではなく。財務官が口を酸っぱくして国庫が傾いていると訴えても彼は理解しようとしなかった。あるいは理解してしまえば安楽な生活が出来ないと思っていたのかもしれない。


「証人を呼びます」


 だからこれはイスハルとレオノーラが仕掛けたヴァカデスへの私的な復讐でしかなかった。

 合図に従い、部屋の外から数名の男達が入室する。

 


 誰も彼も堅気の面構えではない。

 戦塵で身を汚し、返り血を浴びながら生き抜いてきた古強者ふるつわものの武威がある。

 身を皮鎧や部分鎧で覆っている。さすがに剣こそ下げていないものの、普通の人間相手ならば素手で殺すぐらいの事はしてのけるだろう。男達は、貴族たちや獣人の指導者層が大勢居並ぶ室内に居心地の悪さを感じている様子だったが……ヴァカデスを見ると射殺しそうな憎悪の視線を向けた。


「ひ、ひぇっ! な、なんだこの連中はぁ!」

「……随分ないいようだな、ヴァカデス。彼らはあんたが契約し……そしてあんたに弓を射掛けられて仲間を殺された傭兵部隊の長たちだよ」

「なっ……なんでそんな連中を連れてくるぅ!」


 帯剣を許していないのは、彼らが憎悪に駆られるままヴァカデスを殺害する恐れがあったからだ。

 それをやるだけの実力も動機も、十分すぎるほどにあった。


「ヴァカデス王子、あんたは彼らと契約を交わしたにも関わらず。味方である彼らに弓を射掛けて退路を断つという明確な契約違反を犯した。

 ハルティア臨時政府は、彼らとの契約内容に従い、報酬の三倍の金額を支払うことでようやく国外退去に合意したんだ」

「は? ……はは。馬鹿かお前はっ! 下賎な傭兵どもとの契約などどうして律儀に守る必要がある」


 その言葉に傭兵隊長たちの憎悪の視線が強まり、「は、はひっ!」と怖気づいたヴァカデスがまた失禁したが、イスハルはもう無視する。


「だ、だがっ! だがそうであろう! 連中はどうせ金がなければ村落を焼いて蓄財するのだっ! 民衆など勝手に襲わせればいいではないか!」

「この恥知らず! 家を焼かれ、蓄えを奪われ、家族を奪われる苦しみを知らぬ男が!」


 民衆を草と見下す実に貴族的な発言を受け、ハルティアの文官たちが我慢ならずにインク壺をぶん投げる。

 狙いを過たずに直撃したそれを受け、ヴァカデスは転げながら――傭兵隊長を連れてきた騎士に怒鳴った。


「ぶ、無礼者! お、おい、そこのお前! そいつを今すぐ処刑せよ!」

「あいにくと……あんたの命令を聞く理由はない」

 

 騎士も、もう王族に対する偽りの礼儀などかなぐり捨てて、吐き捨てるように答えた。

 ヴァカデスは目を白黒させる。今まで通じていた王族の権威に誰も敬意を払わず、このままでは身代金を支払われずに、王家にさえ戻れない。

 事此処に至ってヴァカデスは自分の将来が破滅ではないのかと恐れを抱き始めた。


「ど、どうしてだ! 民衆など放置してもそのうち生えてくる草のようなものではないか! 刈り取られたところで気にする必要がどこにある!」

「あんたのその発言が、身代金支払い拒否は正当なものだとますます確信させるよ」


 イスハルの冷ややかな声が響いた。

 自分の正当性を訴えようとするヴァカデスであるが、周りの眼は冷ややかになる一方。かつては選民意識の強い貴族に囲われていたから、こう言えば皆が喜んで同意してくれたはずだったのに。


「次の証人を呼ぶ。……連れてきてくれ」


 指示に従い、騎士が数名ほど外からやってきた。

 彼らが引き連れているのは貴族たち。ヴァカデスを神輿に担いで国政を操ろうとした輩だ。

 だが、その後ろからやってきた数名の騎士は、何かの荷物を持ってきたのかと思ったが、少し違う。彼らは担架に怪我人を一人乗せて運んできたのだった。

 その姿を見てヴァカデスは歓喜する。


「おお。ち、父上!」


 ……馬鹿の頭の中は、時々想像を絶する働きをする。

 この時ヴァカデスの脳裏には、父の姿を見てこれで尻拭いしてもらえるという安堵の気持ちしかなかった。

 これまで自分が、父親の指と舌を切り落とし、最後には腹に短剣をつきたてて命さえ奪おうとした事などすべて都合よく記憶から抜け落ち、自己保身のままグレゴール王に取り縋ろうとしたのである。


 だが、それを騎士が遮った。


「なぜ邪魔をする! どけい!」

「加害者を被害者に合わせるはずがない。陛下、指を」


 グレゴール王はわが子との決着のため、イスハルの指示に従いその腕を掲げた。


 誰もが息を呑む。

 王の両腕には、一本の指さえ残されていなかった。

なお奴隷の値段はアニメ、『東のエ〇ン』作中で人を射殺する時に減るクレジットを参考にしています。雑!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 公 開 処 刑 で 飯 が 美 味 い (゜∀゜)
[一言] グレゴール王は、主人公師弟を含む一部の奴隷の扱いを間違えたり、貴族を堕落させたりはしたが国は繁栄していたのよねぇ。
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