壊れたコップ〜コップの欠片〜
少し閲覧注意かもしれないです(´・ω・`)
「一命は取り止めましたが、酷い後遺症が残るでしょう。下半身不随、記憶障害、言語障害、認識障害、その他にも後遺症が出る場合もあります。」
「そうか……」
誰だろう、何を話しているんだろう。言葉が音にしか聞こえない。
「もう一つ……フィーネ奥様は懐妊されております。まだ初期の段階ですが……奥様の危険が高まります。言いたくは無いのですが、堕胎をお勧めします……」
「フィーネが子供を?フィーネは愛人も作らず本邸にいた……父親は俺か……フィーネの命が危なくなるのなら……」
私の中に赤ちゃん?守らなきゃ。お腹の中にいるジョエル様を守らなきゃ。なのに言葉がうまく出でこない。
「あぁ、あか、ちゃん。まも、る。だ……め」
堪らなく愛しいジョエル様が私のお腹中にいるのだ。私が愛して守り抜かなきゃ。そして最初からやり直すの。重たい両腕をお腹を守る様に抱きしめる。
この人達は敵だ。私からジョエル様を奪おうとする人間だ。あの女もそうだった。あれ……あの女?誰だったかしら?
「フィーネ……分かった、分かったから泣かないでくれ……」
「うぁああ"が、ちゃん。あか、ち"ゃん。わたじの……」
泣きながら私を抱きしめるこの男の人はだれ?輪郭ボヤけて見えない。周りの風景もぼんやりしていて分からない。でも、どうでも良い。私のお腹いるジョエル様を取り上げたりしなければ。
それから顔が分からない男の人、カオナシは私の側にずっといる。私がいて欲しいのはジョエル様なのに。あれ?ジョエル様は私のお腹にいる筈だ。ずっと一緒のはずなのに違和感が残る。
カオナシはいつも私に優しい。あれこれと気を使い、お腹の中のジョエル様にも優しく何かを語りかけて、時々泣いて謝っている。それが少し可哀想でカオナシの頭を撫でてあげる。するとカオナシは余計に泣いてしまうのだが。
私は産まれてくるジョエル様の為にこれから寒くなるであろうから、お腹を撫でながらマフラーをゆっくりと編む。ジョエル様は喜んでくれるかな。ジョエル様と初めからやり直すのだから喜んでくれると良いな。
「フィーネ、今日は君が好きだと言っていた和の国から取り寄せた彼岸花を庭に植えたんだ。一緒に見に行こう」
カオナシは車椅子を押し、庭へと出る。ボヤけて見えない周りが澄み渡る様にハッキリと見えた。
真っ赤な彼岸花。庭中に咲き乱れ美しい。私はカオナシの手を借りず、車椅子を漕いで彼岸花の中へと入る。毒のある彼岸花を一つ引き抜き、カオナシへ渡そうと振り返ると、ジョエル様が泣きそうな顔で立っていた。何故?ジョエル様は私のお腹の中にいるのに。この人はだれ?この人はカオナシの筈なのにジョエル様の顔をしている。
「こ、こわれ、たこっぷ……なお、おった?」
思わず私はカオナシに聞いていた。何の意味があるか分からないのに。ジョエル様の顔をしたカオナシは泣きながら私の膝に縋りつき謝り続ける。
「壊れたコップはなおらない……だから俺はその欠片を集める事しか出来ないんだ……すまない……!!」
「そっ、かあ……」
カオナシの頭を撫で、風が冷たく吹く。カオナシは体に障ると言って、部屋へと車椅子を押して戻る。
私は部屋へと戻ると編みかけのマフラーを取る。カオナシはこのマフラーは誰に編んでる物なのか聞いてきた。今日は言葉がよく聞こえる。
「フィーネ、そのマフラーは誰に編んでるんだ?」
「ジョ、エルさま……うま、れてくるジョエルさまに、あん、でるの。は、はじめ、からやり、なおすために……よろこん、でくれるかなあ……」
私はもうすぐ産まれてくるジョエル様を撫でる。ジョエル様は体が大きいから、マフラーも大きく編まなきゃ。
「フィーネ……」
「ふふっ……」
はやくジョエル様に逢いたいな。
読んで頂き有難う御座います!