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少女と二千年の悪魔  作者: 大天使ミコエル
終章

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85/87

ただいまの後で 1

 さて。

 帰ってきたのはいいけれど。

 マリィは、自室の床の上で腕組みをする。目の前には、ハリス・カルレンスが書いた、マクスウェルと悪魔が手を取り合っている表紙の本が置いてある。……すっかり愛読書だ。

 そんな表紙をじっと見ながら考える。

 悪魔にも、恋愛感情はあるのかしら。

 これが、今のマリィにとってのもっぱらの関心事だ。

 悪魔が言う“一緒にいたい”はそういう意味だろうか。嬉しいのだけれど、家族として、仲間として、なんてこともあり得るわけだ。……どうすれば確認できるだろう……。

 例えばデートに誘うとか?とはいえ、一緒に出かける……といっても街中どこも二人きりだ。散歩は楽しいだろうけれど、そんな誘いに乗ってくれるだろうか。まず……話でもしてみようか。

 ぐるぐると考えあぐねる。結局、一緒に食事をとることになった、何回目かの朝食で。

「悪魔さん……?今日は一緒に、星を見ない?」

 ……思ったよりも緊張する。

「…………」

 少しの沈黙の後、

「いいね」

 と言ってくれる。

 待ち合わせの約束をして、マリィはまずお風呂へ入った。

 別に……こ、告白しようっていうんでもないんだから、普通でいいのよ。普通で。そもそも、帰って来たときにそれっぽいことはもう言ってある……。

 とは思いつつ、念入りに身体を洗い、ゆっくりと息を整える。

 洗ったばかりの清潔な服に着替え、出来る限りの身なりを整えた。

 廊下を歩く間でも、なぜか緊張が高まっていく。

 そういえば、悪魔と待ち合わせするなんて、初めてのことだ。

 落ち着いて、落ち着いて。

 すっかり、ガラスがはまっていないことが普通になってしまったホールで。二人は待ち合わせをした。

 扉を開けると、ホールの中心に悪魔が立っていて、幾分かほっとする。

「悪魔、さん」

「やあ、マリィ」

 翼が、一度、ふわりと羽ばたいた。

 マリィが近づくと、悪魔は両手にブランケットを持った。

「ふふっ、……お母さんみたいね」

「…………」

 そのブランケットが、悪魔らしくて安心して、つい言ってしまったのだけれど、その瞬間、悪魔がぴったりと止まった。

 ……あら?気を悪くしたかしら。

 何か言う間もなく、ブワッと風が舞う。

 目の前の悪魔が、ふわりとマントを纏った。

「…………」

 ほ、本当に気にしたんだ……。

「そんな……きゃっ」

 大きな手が、マリィを持ち上げた。抱き上げられ、びっくりする。

 う……わぁ……。

 窓から飛び出すと、広く街が見えた。懐かしい街並み。

 街は、マリィが出て行った時と変わりなく、そのままの姿で保たれている。まるで、時間が止まっているようだ。もう……あんな暗い気持ちで見ることもない。

 悪魔の服にしがみつくと、ゆっくりと大きく旋回し、屋根の上へ。

 屋根の上に座り込むと、そのままマントにくるんでくれた。

「…………」

 自然と膝の上で後ろから抱きしめられる形になる。……以前もそんなことはあったけれど。

 あれ……?なんか思ったより……恥ずかしい……。

 ぽわぽわっと顔が熱くなる。

 思った以上にきゅっと抱きしめられ、星を見るどころではなくなってしまう。目の前の星空を凝視しているけど、どうしよう。何も頭に入ってこない。

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