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14歳の誕生日 1

 マリィは結局毎日、外を出歩いていた。なんだか、止めることができなかった。

 気が向いたときに歩き、気が向いたときに帰る。何かを探すわけでもなく、散歩に近い何かだ。誰もいない街を歩き、静まりかえった草原を見渡す。

 ただ、帰る場所が自室になった。エルリックの部屋で寝ることはもうできなかった。

 その日も自室に帰る、と、テーブルの上にスープにパンにチーズにと、ちょっとした食事が置いてある。マリィにはもう、その食事を拒否することはできなかった。屋敷にまでこだまする狼の声。この食事での繋がりがなければ、悪魔が生きているのかどうか知るすべがない。食事での繋がりはマリィにとって大切なものだった。

 そして、ここまで手間をかけて食事を作ってくれることが嬉しくもあった。味見ができるのか、食事自体も美味しい。

 悪魔は自分からは出てこない。

 特に、エルリックのことがあってからは、とりわけ姿を見せなくなっていた。

 けれどその日は、部屋に入ると、いつもと少しだけ様子が違った。

 長椅子の上に、1着のドレスが置いてある。ふわふわとしたフリルなどの飾りがついた空の色に近い青い少し豪華なドレス。確か、ワードローブにしまってあった新しいものだ。

 なんだろう、と思いながらも、悪魔が何か言いたいのかもしれない、ととりあえず着てみることにする。お風呂に入り、身だしなみを整える。久しぶりに鏡の前に腰を下ろし、髪を梳く。つい、身だしなみに自然と力が入ってしまう。

 ……こんなドレスだから。そう、こんなドレスだからだ。

 ドレスを着てしばらく待ってみたが、特に周りの様子は変わらない。

 ドレスなのだから、やはりホールだろうか。

 のんびりと足を運ぶ。

 ホールに入ってみたが、やはりそこにも悪魔の姿はなかった。

 ランタンを部屋の隅に置いて、ホールの真ん中まで歩く。ホールのランプにはあまり火を入れていない。大きな部屋の隅にあるランプ数カ所しか明かりがついていないので、どことなく暗い。それは心地よさでもある暗さだ。

 腕をあげ、ワルツの格好をする。

 こういう格好なら、やはりワルツだろう。

 目を閉じる。

 一人、くるりくるりとダンスをした。歌を歌いながら。

 ここに、悪魔が居ればいいのに。

 悪魔のことを考える。

 ダンスはできるだろうか。マロイ・カルレンスの絵本はダンスをする話だったから、きっとできるんだろう。庭で女の子と踊る悪魔の絵を思い出す。

 もっと一緒に居られればいいのに。

 その時、ふわりと風が吹いた。

 もし悪魔だったらと思うけれど、目を開けていなくなってしまったら、なんて考えてしまって、目を開けることが出来なかった。

 目を開けて、悪魔がいた時の、自分の反応も怖かった。何か違う感情が湧いてしまいそうだ。

 そういうわけで、マリィは目を閉じたまま、ワルツの格好でじっとした。

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