最期の時 1
エルリックが眠ってしまってから、何日が経っただろう。ううん、何ヶ月?……1年だって経っていておかしくない。
わからなくなるほどの月日が過ぎた、そんな日だった。
ランプの明かりに照らされたエルリックの顔は……なんだか青白い気がした。
不安が襲う。慌てて手を握る。
「…………え」
冷たい。
ぞっとする。
魔女の言葉を思い出した。
少しずつ……死んでいく……。
「そんな……」
本当に……こんなに突然……。エルリックにすがりつく。
どうしよう。どうしたら……。
「そんな……エルリック……」
優しく、声をかける。
「エルリック……」
何度も名前を呼ぶ。反応はない。
以前なら、すぐに起き上がって私を驚かせて、大きな声で笑っていたのに。
「エルリックぅ……」
その綺麗な顔は、目を開けることがない。
「ねえ……」
涙が、ぼろぼろとこぼれた。止まらない。止まらない。
「マリィ」
ふと、後ろで声がした。いつの間にそこにいたのだろう。悪魔の声だった。
「悪魔、さん……っ」
泣きながら、振り向く。目の前には、いつも通りの夜の色の翼を広げた、悪魔の姿があった。
なぜか悪魔も、元気がないように見えた。
「……間に合わないんだ」
いつになく、低く小さな声で、悪魔はそれだけを言った。
「…………」
何が間に合わないのか空白の頭で考え、それがエルリックの事だと思い当たる。
エルリックを眺める。
「でも、今、花を見つけられたら……っ!そうすれば……!」
「…………ないんだ」
「もっと探せばきっと……っ!森を抜ければ……」
「…………ないんだ。森を抜けたって。魔女は、世界中のあの花を……」
「…………」
そんなの。
「そんなの……っ!そんなの……っ!そんなこと…………っ!」
認めたくない。
ずっとそう思っていた。
死ぬなんて認めたくない。
私が殺してしまう。
私が助けないといけないのに。
ランタンを手に取り、外へ飛び出す。
私にはこれしかできることがないから。
暗い草原。もう何度だって見尽くした場所。
草をかきわける。泥だらけになって、傷だらけになって。
どこかに、一つくらい……。
「マリィ」
その声を聞いて、涙がこぼれた。
足が、動かなくなる。
花がない、なんて。そんなの。
「…………そんなのとっくに……気づいてた、わ」
涙が止まらなくなる。目の前が見えない。
「…………」
「……最初に、花を探しに出た時から、気づいてた、わ」
言ってしまったら本当になるかもしれないと、ずっと思っていた。
でも、おかしかった。
毎年、マリィの誕生日前から、暑くなるまでずっと咲いている花が、今年は咲いてなかったんだから。
あんなにいつもどこにだって咲いているはずの花が、どこにも咲いてなかったんだから。
その瞬間、視界が真っ白になった。真っ白になって、そして。
マリィは意識を手放した。




