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約束を果たしましょう 1

 それから……何年経っただろう。

 子供達3人も大人になり、それぞれ家庭を持った。皆が家族として、屋敷に暮らしていた。

 春もうららかな日のことだった。

 アリシアが、仕事中に倒れたのだ。

 医者を呼んだところ、過労だろうということだった。アリシアはしばらく休んではすぐに仕事に戻る。次第にそんな生活になった。

「やめなよ。……仕事ならマクスウェルがしてる」

 腕を支えながら、悪魔はそう言った。

「ありがとう。でもダメよ。マクスウェルは細かいところが行き届かないの。あの子はちょっと雑なところがあるから」

 ふおっと、浮いて、アリシアの後をついて行く。

 窓からは明るい光が差していた。日差しの中で、アリシアの茶色い、相変わらず長い髪が揺れた。

「約束を……覚えてるわよね」

 ふと、アリシアは独り言のようにそう言う。

「約束?」

「そう。私の……魂をあげるって」

 少しの沈黙。

 アリシアは仕事部屋へ歩を進める。

「ああ……必要な時にいただくよ」

「……もしものことがあったら、よろしくね」

 そう言ったアリシアは、仕事部屋の中へ一人入っていった。パタン、と小さな音を立て、目の前で扉が閉められた。

 それから、たった一月だった。アリシアはベッドから動けなくなった。

 窓から覗きに行くと、「あはは」と笑った。

「……仕事をやめなよ。顔色が悪い」

 アリシアはベッドの上でも、仕事の書類を手放さなかった。

「あと、もう少しだけだから」

 窓際には、綺麗な花がたくさん飾られていた。赤い花、黄色い花、青い花。

 悪魔は、アリシアの手を取った。

「……これ以上悪くなったら」

「…………」

 アリシアは、悪魔の方を見て、悲しそうな顔をした。

「本当に、もう少しだから」

 これ以上言うと泣くんだろうなと思って、悪魔はそれ以上、言葉を紡ぐのをやめた。

「…………」

 アリシアが窓の方を向くと、陽の光の中で、アリシアの瞳が、明るい茶色に光った。

 ああ、なんて綺麗な瞳なんだろう。

「貴方がいたから、私はここにいるわ」

「……僕もだ」

 それから何日もかけて、いろいろな人が挨拶に来た。王都から来る者も多いようだった。

 マクスウェル、マロイ、ハリスの3人は、毎日誰かがいるようになった。医者が毎日出入りするようになった。

 次第に、3人はアリシアの部屋を出る度、暗い顔をするようになった。ハリスが娘と出てきたときには、ハリスはすでに涙を浮かべていた。

 その日が来るのを、皆気づいているようだった。

 その日、サウスが部屋に入ると、しばらくして、「アリシア……」とその名を呼ぶ、サウスの声が聞こえた。

 じゃじゃ馬なお姫様に伴われ王都からやってきた若者は、誰よりもそのお姫様の側にいた。

 国境を越え、悪魔退治に向かうような、誰よりも強いお姫様。そんな姫に心惹かれ、森の中にある悪魔の城までのこのこと付いて来た。

 うっすらと目を開け、もう起き上がることもできないその姫の手を握っていた。

「アリシア……」

 手を握りしめ、祈るように泣いていた。

「アリシア……」

 嗜めるように、アリシアはサウスの握り返す。

「サウス……」

「どこまでも一緒にいるよ。アリシア……」

「もちろん、どこまでも付いてくるのよ」

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