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幸せの花冠 6

「君は、この広大な領地を持つカルレンスの一人娘に生まれ、貴族や王族と結婚をするよう言われ育ってきたかもしれない。

 僕もそうだ。

 いつかどこかの姫や貴族の娘と結婚するよう言われて育った。

 僕は君の隣で、それは君なんじゃないかとずっと思ってきた。それが当然の成り行きだと。

 今、国王も王妃もそれを望んでいる。

 けれど、政略結婚にするつもりはないんだ。きちんと申し込んで、君からの返事を受け取りたい。

 君に結婚を申し込む。

 僕と結婚して欲しい、マリィ・カルレンス」

 少しばかりの沈黙。

 夕刻が近づき、空気も少し涼やかになってきた。

 目を逸らす。

 今、何が起こってるんだろう。今、エルリックはなんて言った?

 夢の中ではこういう場面もあった。あの時はなんと答えたのだっけ。

「…………」

 何も言えず、俯く。エルリックの手に力が入る感触が、両手に伝わってくる。

「僕が、君から感じてきた親愛の感情は、そういうことではなかっただろうか。これは僕の勘違い?」

 エルリックが手を繋いだまま頭を垂れるものだから、そのふわりとした髪が鼻先をくすぐった。

「私も……」

 なんとか言葉を紡ぐ。現実感はないのに、夢の中と違い思ったより声が上ずってしまう。

「私も、ずっとそう思ってきました。貴方の申し込み、お受けします」

 エルリックが顔を弾けたように顔を上げ、視線が合う。

 なぜか泣けてきて、潤んだ瞳ではよく見えなかったけれど、きっと湖は今までになく輝いて、風と喜び合っていたに違いない。エルリックも笑ってくれていた。

「これからよろしくね、マリィ」

 頭の中が、フワフワとして、それでも何か言わないといけないと思い、口を震えさせながら、エルリックの顔を見た。

「エルリック様、どうぞこちらこそ、よろしくお願いします」

 動揺で動けなくなり、そこでまたしばらく休んだ。長い沈黙が訪れた。静かな時の中で湖を見ながら何が起こったのか整理しようと試みるけれど、やっぱり何が起こったのかわからなかった。空がオレンジ色に染まりかけた頃、やっとエルリックが立ち上がる。

「そろそろ屋敷へ帰ろうか」

 空気が冷えてきたのことを気遣ってか、マリィに手を差し伸べ、そう提案した。

「ええ、皆が心配してしまうわね」

 そこからの二人はいつも通りだった。手分けしてピクニック道具を片付け、来た時と同じようにバスケットとシートをそれぞれで持った。話しもしたし、笑い合った。トーマスがこの間犬を連れて来てねとか、街の外れの畑に行ったらとか、そんな他愛もないことを話した。

 石造りの屋敷が見えたところで、両親がこの花冠を見たらどう思うだろうと考えた。けれど、今日の両親とエルリックの様子から、内緒にしていたのはこのことだったんだと思い至った。それもそうだ。エルリックは王家の人なのだから、先に家同士で書簡なり何なりあったに違いない。皆、人が悪い。

 実際、屋敷に帰ってみると、両親も使用人達も皆、優しい笑顔で迎えてくれた。

 現実味がないくせに、夕食はあまり食べられなかった。

 本当に何があったのか混乱しながらも、時々、花冠が本当にあるかどうか確かめた。そして時々、泣きそうになった。

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