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大切な人 2

 森に囲まれた屋敷に住む、カルレンス家の一人娘に生まれた少女は、屋敷の中をよく走り回る娘だった。

 歴史ある大きな屋敷でも、まだ足りないと言わんばかりに、ホール、物置、庭まで忙しなく走り回っていた。

 厨房へ潜り込んではつまみ食いをし、「つまみ食いをするくらいならちゃんと料理を教えますから」と料理長に捕まったのが10歳の時。それから堂々と厨房へも出入りするようになった。

 使用人の生活棟や執務室にまで小さな頃から入り込んでは遊んでいた。

「…………むぅ」

 マリィ、5歳。その日も屋敷の中を駆け回り、メイド長の部屋へ潜り込んでいた。

 ほっぺたを膨らませ、むすっとした顔でスツールに腰掛け、窓から外を見る。窓の外、撫でるように空に描かれた雲を眺める。

「マリィ様、どうしてエミルに髪を触らせないのですか」

 メイド長に問われ、よけいに頬が膨らんだ。

「だって、あの人、あたしと遊んでくれないんだもの」

 メイド長はマリィの髪を二つに結んでいる最中だ。

「あの人は教師を辞めてここへ来た方だから、お勉強なら見てくださるんじゃないですか。なんにしろ私はもう無理ですよ。メイド長になって忙しくなったんですから」

 確かに、それはマリィも理解していた。メイド長の仕事は沢山あるらしい。書類仕事もあれば、家の中を見て周ることもある。人の指導もしている。今日もマリィはメイド長の部屋に潜り込み、やっと捕まえたのだ。

「どうしてお世話係がサロマじゃなくなってしまったの?私、あなたがよかったわ」

「私は無理ですよ。これから学校に行くにあたって、もっと若い人がいいでしょうからとお父様がお決めになったのでしょう」

 メイド長は髪のリボンを整えながらそう言った。

 エミルはこの屋敷に来てやっと1ヶ月が経っていた。

 姉ができたみたいだと喜んだのも束の間。笑ってもくれなくて、おしゃべりもしない。あのピリピリしたメイド長ですら穏やかに見えるくらいなんだからよっぽどだ。

 玄関へ行くと、母親が待っている、はずだった。そこに居たのは、他でもないエミルだ。

「……お母様はどこにいるの?」

 今日は母と買い物へ行く予定だった。それなのに、エミルがお出かけ用のドレスを着ていた。

「奥様は今日はお仕事で行けなくなったそうです。明日また改めて時間を取るので、今日は私と買い物へ行くようにと」

「でも、今日はお母様と……!お母様の用事を済ませたら買い物をして、お菓子も買おうって……。言ったのに」

 エミルの表情は変わらない。そんな悲しい知らせも、そっけなく静かに言うエミルに、ささやかな反感を抱いた。

「…………こんなのってない」

 涙が溢れるマリィの気持ちを知ってか知らずか、エミルの顔は静かなままだ。

 マリィが歩き出すと、エミルが静かに着いてくるのが見えた。

 つまんない、つまんない、つまんない!

 今日は最悪な日だわ!

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