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雨の日 1

 鐘が鳴り、ランタンを掴むと、いつもと様子が違うことに気がついた。

「え……」

 窓ガラスが、濡れている。しとしとと、雨が降っているようだった。

 外は相変わらず夜だ。

 それほど強い雨というわけではないけれど、夜が明けなくなってから雨が降るのは初めてだった。

ずっと変わらない夜だったから、勝手に同じ天気ばかりが続くのかと思っていた。

「これじゃ……」

 外へ出るのは無理そうだ。これではすぐにびしょびしょになってしまうし、動くこともままならなくなってしまう。

 エルリックが安らかに眠る姿を見やり、ランタンを掴むと部屋を出ていった。

 ランタンの使い道があるわけではないが、夜が明けない世界では、ランタンがあるかどうかが命取りだ。どうしても、持たないわけにはいかなかった。

 だからといって食事を取るでもない。

 大きな扉の前に立ち、少女はその扉をそっと開けた。ホールには、誰もいなかった。あの悪魔も。ただ、白い床が続き聖剣と呼ばれた剣がまだ放り出されていた。

 もしかしたら悪魔が居るんじゃないかと思っていたので、いくぶんかほっとする。

 広いホールの真ん中で座り込んだ。

 明かりは窓の外の星明かりのみ。薄っすらとした中に、白い床や窓枠が見える。

 ガラスをなくした窓が視界いっぱいになる。窓の外は屋根があるので、雨が入ってくることはない。ただ、しとしとと降る雨が見える。雨が葉を叩く音が聞こえる。

 いつもより多少寒いが問題はない程度だ。

 ぼんやりと座った。

 窓の外は暗く、時間の感覚はない。

 ふと、背後に何かの気配がすることに気がついた。

 黒い、何か。

 ぼんやりと翼のような影が見えるところをみると、背中合わせに座っているのだろうか。

 今度こそ食べられてしまうのかと思った。

 それでも、ここの空気は静かだ。

「あなたが……皆を食べてしまったの?」

「…………」

 しとしとと降る雨だけが聞こえる。

「僕は……誰でも食べるわけじゃない。誰も食べてないよ」

 相変わらず、よく通るのに、聞きづらい声だ。

 食べていないという言葉に、ほっとする自分に気がついた。こんなものの言葉を、どれだけ信じているというのだろう。

「皆を、何処かへ消してしまったの?」

 雨が降っているせいだろうか、部屋の中はいつもより暗く感じる。

「皆は、僕が消した」

「…………」

 ふんわりと視界が歪む。

 静かな時間が過ぎた。突然、悪魔が口を開く。

「あのままだと、皆魔女に食べられてしまうところだったんだ」

 ……え?

 魔女から……助けた?

「食べられてしまう前に……皆をこの街の外へ逃した」

「じゃあ……じゃあ……」

 生きているのか聞こうとして言い淀んだ。じゃあどうして皆が戻って来ないのか。いつか戻ってくるのだろうか。

「けど……魔女の目を盗んで送らなくてはならなかった。何処まで飛んでしまったかわからない人もいる。どの時代に飛んでしまったかわからない人もいる。記憶を失ってしまった人も、いるかもしれない」

「…………」

 黙るしか、なかった。

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