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屋敷での生活 3

 なんとか、簡単そうなスープのページを探し出し、じゃがいものスープを作り上げた。

 水は当たり前のように出たし、火のつけ方も料理長に教わっていたおかげで比較的簡単についた。

 このオーブンにも妖精の魔力が宿っているらしく、温度管理は必要だけれど、一度つければ火傷になるようなこともない。ガコッとオーブンの扉を閉めると、オーブンの中から熱が放たれ、消すまで火が燃え続ける。

 見た目は少し薄いスープ。お皿によそい、一口。

「…………うん」

 なんとか食べられるものは出来たが、一口飲んだだけでぼんやりしてしまい、残りのスープはなんとかかきこむ。

「ごちそうさま」

 食器を洗うことくらいはできる。

 水に沈んだお皿が、チカチカと揺れる。なんだか滑稽だった。泡立った石鹸をじっと見つめた。

 その日も、バスタブに半分だけ溜めたお湯の中で、ぼんやりとした。じっとうずくまり、お湯の表面を見ていた。

 静かだ。屋敷の中はどこも静かだった。

 あの厨房にも、このバスルームにも、思い出が沢山ある。

 皆が居なくなったなんて考えられない。今にも、料理長のお小言が聞こえそうだ。エミルの困ったような笑い声が聞こえそうだ。

 なんで聞こえないんだろう。

 ここはどこなんだろう。

 湯船に手のひらを浮かべる。ひらひら。ひらひら。

 エルリックの部屋では、相変わらず、存在を誇示しながらテーブルの上にはスープが置いてあった。そんなことにもかまわずエルリックの寝顔を眺め、1日を終える。

 そんな日が、しばらく続いた。

 何日も、鐘が鳴れば外に出て、青い花を探した。星の光の中、遠くまで見渡す。

 草原、街の中、屋敷の周り、たくさんの場所を探した。花は咲いていたし、枯れるというほどではないようだ。そんな中でも、青い花を見つけることはできなかった。

 エルリックが起きる気配もない。

 諦めるわけにはいかない。

 どこかに咲いていると、信じることしかできなかった。

 屋敷の人間が多かったため、幸い食材には事欠かなかった。あまり保存することができない肉類は少なかったものの、野菜や果物、瓶詰めの保存食品は沢山あった。調味料も困ることはないほど豊富にある。

 水道が途絶える気配もなく、飲み水に困ることもない。

 洗濯だけは手で洗わなくてはいけなかったけれど。屋敷の中に洗濯場があったおかげでそれほど困ることもなかった。

 坦々と、日常は過ぎていった。この毎日が日常として、過ぎていくような気がした。

 スープは毎日テーブルに置かれていたけれど、悪魔が現れることも、魔女が現れることもなかった。

 花を探すことだけが、少女の日常だった。

 ただ、哀しみと寂しさだけが、小さな塵のように心に積もった。泣いても泣いても流れていかない、ひとりぼっちの気持ちだけが、少女の心に傷をつけていった。

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