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夜の世界 4

 華やかなベッド、デスクの上には作りかけのアクセサリー、見慣れたお気に入りの服。ロベリアの部屋。

 けれど、ロベリアはいなかった。ベッドの下も戸棚の中も、隠れているなら安心させてあげなくちゃと思ったのだけれど、ロベリアの姿も、ロベリアの家族の姿もどこにも見つけることができなかった。

「ロベリ……ア?」

 何度も呼んでみるけれど、どこからも返事はない。

「ロベリア?」

 頭が、真っ白になっていくのを感じる。

「ロベリア?何処にいるの?」

 頭の中がクラクラする。

 他の人は……と思い、外へ出て、他の家を覗いてまわった。ほとんどの家はどこかのドアが開いていて入ることができた。何件か家の中まで入って人を探したけれど、誰も見つけることができなかった。

 おかしい……。

 誰もいない。

 皆でどこかへ逃げてしまったんだろうか。

 家の中はどこも、おかしいくらいに今まで家の中に人がいたような生活の気配を感じる。料理途中のスープ、読んでいる途中にそのまま落ちたような本、手紙の上に落ちたペン。

「誰か……」

 どれほど時間が経っても明るくならない空。夜が支配したままの空。

 とぼとぼと屋敷のホールへと戻る。

「…………」

 当たり前のようにエルリックが横たわっている。

 自分が何を考えているのか、自分自身でもわからないまま、物置部屋からホウキを持ってきて、ホールに散らばったガラスを掃いた。

 使用人達が上手に操り部屋を綺麗にするのを思い出しながら掃いていく。

 そして、エルリックを毛布で巻き直すと、そのまま毛布ごと引きずった。

 ホールに一番近い客室は、この家でも有数の広い客室だ。あまり触らせてもらえたことのない茶色の長椅子。大きなベッド。金の飾りの付いた暖炉。コンコンと音がするテーブルは、チェスなどすれば様になる。

 ホールから出るのも一苦労。

 けれど、エルリックに傷を負わせることもなく、思ったよりもバランスよく運び、事は進んだ。

 客室のドアまで運んだところで、指先が真っ赤になっていることに気づく。

「…………」

 果てしなく続くように思える廊下の上、横たわるエルリックを見やる。

 涙をガマンして、客室の中へ。

 ふんわりとした感触の絨毯は、毛布ごとエルリックを運ぶには少し邪魔だ。

 その後、長椅子やベッドの柱を利用し、なんとかエルリックをベッドの上に横たえた。

「…………」

 軽く布団をかけてやる。

「エル……」

 名前を呼ぼうとして、やめる。

 名前を呼んでしまったら、何かがダメになりそうに思えた。

 それから何日かが経った。何日が経ったんだろう。日付の感覚はなかった。

 人の気配はなく、夜が明けることもなく、エルリックが目を覚ますこともなかった。

 少女は外の家へ人を探しに行き、エルリックの側へと戻る。ただ、それだけを繰り返した。

 噴水があれば、口にその水をつけた。

 エルリックの瞳は、閉じられたまま。まるで、時が止まったように。

「エルリッ……ク……」

 揺り動かしてみる。

 何時間寝ているつもりなの?すっかり寝坊よ。

「ねえ、起きて……エルリック……」

 目に涙が溜まり、視界が揺らぐ。

「ねぇ、エルリック……。起きて。起きて、冗談だよって言って……。ねぇ、エルリック……。一緒に居ようよ、エルリック……」

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