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夜の世界 3

 屋根の上は、時計塔になっていた。

 コチコチと大きな音を立てて木でできた歯車が回り、時を刻む。時間になれば自動的に鐘を鳴らす。

 周りを見渡したけれど、歯車以外に動くものを見つけることはできなかった。少し軋む木製の床が、歩く度にキュッキュッと鳴る。

 時間になったら……自動的に鳴る鐘……。

 でもこんな時間に。

 ぼんやりと、嫌なことを思いついてしまい、そんな考えを振り払う。

 そんなわけない。

 時計塔からは外が見える。外はやはり夜で、星が瞬いている。遠くまで見渡せる。どこまでいっても、夜に見える。

 でもまさか。

 まさか、今が鐘が鳴るべき時間だなんて。

 いつもと同じ時間に鳴っただなんて。

 朝が来ないなんて。

 そんなこと、ありえない。

 階段を降りる。

 少女が段を一段ずつ降りるのに合わせて、ランタンが揺れた。

 もし、本当にそんなことになったのだとしたら、街が大騒ぎになるはずだ。

 まだ、外は静かだ。

 ありえない。ありえない。

 目の前が真っ白になる。

 嫌な考えはどこにも行ってくれない。頭の中がグルグルとして、涙に変わって溢れてきそうだ。

 教会を出て、広場へと向かう。

 誰もいない街。もちろん夜だからだ。

 夜には、皆が寝ているのだから、静かで当然だ。

 でも。

 少女は、本物の夜の街の日常など知りはしなかった。そんな夜遅くに街へ出たことなんてない。

 バーだってあるのに、こんなに静かなのは本当にあり得るのだろうか。

 怖くて怖くて仕方がない。

 だって、あの魔女は、皆のことを*美味しそう*だと言っていた。

 いくら魔女だって、人間を食べるだなんて。本当に食べるだなんて。

「…………」

 少女は、一軒の家の前に居た。その家は店舗になっており、入口は広い。その入口からずっと、色とりどりの花が飾られている。

 そう、ここは花屋だ。

 ここは少女がよくお使いを頼まれていた花屋で、アクセサリーを注文していた花屋で、大切な花冠を作ってくれた花屋で、……友達のロベリアが住む家だ。

 少女がドアをノックすると、コンコンと小気味良い音がした。暖かな木でできた、皆を優しく受け入れてくれるドア。

 ドアに手をかけると、ロベリアが言っていた通り、開いていた。いつでも開いていると言ってくれた、ロベリア。

「……お邪魔します」

 緊張しながら、家の中に声をかける。

「お邪魔します!」

 今度は出来るだけ大きな声を出した。

 今にも、階段を降りて来たロベリアが「どうしたの?」と声をかけてきそうな空気だったが、実際には物音ひとつもない。

 恐る恐る、部屋を一つずつ見ていく。1階には、リビング、台所、両親のベッド、小さな温室。ここの花屋は郊外に大きな温室を持っていたが、小さな花はここで育てていたらしい。2階には、3部屋あり、一つは勉強部屋のような大きなテーブルのある部屋、一つはベッドが2つある小さな兄妹の部屋のようだった。そして、最後の一つ。

 ドアを開ける。

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