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夜の世界 2

 少女はそのランタンの火で、ホールまでの廊下のランプをつけて回った。

 大抵は少女には届かない高さに掲げてあったが、厨房に踏み台が置いてあったおかげで、見かけたランプは全て火を灯すことができた。

 明かりを灯した廊下は、いつも通り明るい。今もそこここで使用人達が掃除をし、走り回っている気がする。ここまで明るければ、きっとどこかに隠れている両親や使用人の誰かが、もう危険が去ったことを悟り、顔を出すことだろう。

 少女はホールへの扉の前へ立った。

 エルリックはもう起きているだろうか。いなくなっていたらどうしよう。

 扉に手をかけ、自分の手が僅かに震えていることに気がつく。

 ガチャ、と大扉が音を立てて開く。この扉はこんなに大きな音が、するものだっただろうか。それとも、こんな音を立てるようになったのだろうか。

 扉を開けると、呆気に取られるほど、様子は変わってはいなかった。

 外は夜。星明かりが覗く広いホールの中で、エルリックが横たわっている。割れた破片が、エルリックのためにキラキラと輝いていた。

 エルリックは、まだ起きてはいなかった。

「…………」

 一瞬、見惚れるようにそこに立ち尽くした。

 いけない、あのままではエルリックが風邪をひいてしまう。

 空気は、なぜか夜にしては暖かかったけれど、さすがにそのまま放っておいては、エルリックだって身体を悪くしてしまうだろう。

 そばの客室へ取って返し、ベッドから暖かそうな大きな毛布を持ってきた。

 毛布をかけると、床が冷たそうだ。悩んだ結果、エルリックを転がして、毛布でくるむ。

 ……いつになったら起きるのだろう。

 猫のような髪が、壊れっぱなしの窓から吹く風にあおられるのを眺めた。

 エルリックの顔は安らかで、あんなことがあったようには思えない。

 自分でも、夢だったんじゃないかと思う。この現状がなければ。

 その瞬間、ゴーンゴーン……と大きな鐘の音が聞こえた。

 聞き慣れたその音。毎朝、騒がしくなる前の時間に鳴っていたあの音。

 街の、教会の鐘の音だ。

 誰か……いる……。

 跳ねるようにランタンを掴み、駆け出した。

 重い扉を押し、外へ出ると、やはり夜で、静まり返っていた。

 鳴り終わった鐘の名残で、空気が震えている。

 こんな時間に、鐘が鳴るなんて。誰かが鳴らしているとしか思えない。

 その長いドレスにけつまずきながら走ると、目の前は教会だ。

 教会の大きな扉は一際重く作られている。

「こんにちは」

 教会はいつでも全ての人に開かれている。鍵がかけられることのないその扉は、思ったよりも簡単に開いた。

「すみません、こんな時間に」

 教会の奥の階段へ駆け寄る。鐘は、屋根に程近い場所に据え付けられている。何十段もある階段を、もどかしくも一段ずつ登っていく。途中にある小窓から暗い街並みが覗いている。

「くっ……はっ……はっ……」

 なんとか、鐘の間へとたどり着く。

「誰かいますか……?」

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