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始まりの日 2

 そこはこの屋敷の中でも特別に大きな部屋で、高い天井にシャンデリアが飾られている。パーティーをする時などに使う、数十人がワルツを踊ってもまだ余るほどのホールだ。

 白く輝く床。マリィの身長3倍はありそうな大きな窓が5つ。それに綺麗に手入れされたピアノとチェロ。

 その片隅で、マリィの心臓はバクバクしていた。

 こっそり持ってきたロベリアのブローチをドレスにつけ、優しく撫でる。

 大丈夫。お客様は知っている方ばかりだもの。挨拶するくらい平気よ。エルリックだって、今日はまだ会えていないけれど、どこかで、剣を携えた正装で聞いていてくれるはず。

「紳士淑女のみなたま……違う。んっんっ……、し、紳士淑女の皆様……。ああ、こんな出だしだとおかしいかしら。…………。本日お集まりいただきました……。えーと……」

 壁に向かってぶつぶつとひとり挨拶の練習をしていると、後ろから声がかかった。

「マリィ、準備はいいかな?」

 父が、後ろでのんきな顔をしていた。妙に手入れされた口髭がフフンっと鳴った。

 ホールを見渡すと、正装の紳士淑女が大量に目に入る。ピカピカと音まで聞こえるようだ。楽団員5人もすでに配置についており、マリィが挨拶した後の音楽の時間を今か今かと待っている。ああ、まだバイオリンは構えなくていいのに。

 かつん、かつん、と床が鳴る音がしてホールの中央まで歩いて出ると、ざわついていた部屋がしんと静かになった。

 皆がマリィを見ている。

 ああ、頭の中の高揚感。

 頭が真っ白になる。

 と、窓の外に、チカッ……と何かが光った気がした。

 …………雷?

 今日もずっと晴れていた気がするのだけれど、これから雨でも降るのだろうか。

 コホン。

 やらなくてはいけないことから目を逸らしてはいけないわ。

 深呼吸して気を取り直し、マリィは高らかに話し始めた。

「本日お集まりいただきました、紳士淑女の皆様。私の誕生会へ、ようこそおいでくださいました。私、マリィ・カルレンスは、本日12歳の誕生日を迎えることとなりました」

 その瞬間、皆の顔が綻ぶのがわかった。

 見渡すと、程近いところにエルリックの姿も見えた。正装をして、剣を携えている。まさに王子様。なんて麗しいんだろう。

「12歳。皆様はレディと言ってくださるけれど、まだまだ未熟であることに変わりありません。皆様に助けられてこその私です。

 これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。

 本日はぜひ、楽しんでいってくださいね」

 にっこりすると、周りの皆が喜んでいるのが見えた。拍手がわき起こる。

 楽団の皆が、音楽を奏で始めた。それが、パーティーの始まりの合図。

 エルリックが進み出て、マリィの前へと立った。

 …………?

 ふっと、また外で何かが光った気がした。

 しばらくじっと見つめるけれど、何か起こった様子はない。光も、音も。

 エルリックがお辞儀をしたので、マリィもそれに応える。

 ダンスのお誘いだ。

 エルリックが出した手を取ろうとした、その時。

 バン……ッ!と大きな窓の一つが、跳ねるように開いた。

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