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第94話『望まぬ再会』

 生き残った軍人を引き連れて現れたリアムは、参謀としてウィリアムを従えている。

軍団長の名に相応しい貫禄とオーラを放つ彼は、混乱する生徒達に『情けない』と吐き捨てた。

慰めではなく、叱責を受けた生徒達はピタリと泣き止み、徐々に冷静さを取り戻していく。

軍団長の鶴の一声には、泣く子も黙る威力と効果があるようだ。


 さすがは軍団長と言うべきか……人の心を掌握するカリスマ性は人並外れているな。


「何をしている?さっさと立ち上がれ。いつまで、地面に座り込んでいるつもりだ?」


 辛辣な言葉を吐き捨てるリアムは、凍てつくような冷たい眼差しで我々を射抜く。

厳しい状況下だからこそ、甘えを一切許さない彼に、生徒達は素直に従った。

『助かるためには、言うことを聞くしかない』と本能的に察しているのだろう。


 何とか仲間割れは防げたようだな。まだ情緒不安定な奴は何人か居るが、今すぐ暴走することはないだろう。一先ず、安心と言える。


 取っ組み合いの喧嘩から、同士討ちまで想定していた私は安堵の息を吐いた。

誰もが思いを一つにする中、参謀のウィリアムは説明役を買って出る。


「学生諸君、我々はこれから島を脱出する。生存者の確認については、後回しだ。今は自分達の安全を確保することに全力を注ぐ」


 妥当と呼ぶべき判断を口にするウィリアムは、慎重な姿勢を見せた。

本来であれば、上層部へ状況を説明するための連絡係と生存者を救出するための捜索係で別れるのだが……学生の安全を優先して、護送に人員を割くようだ。


 この天候だと、脱出するのも一苦労だからな。学校関係者だけで、安全に海を渡れるとは到底思えない。魔法を駆使して移動するにしても、魔力供給の問題で一流魔導師の同行は必須だった。


「まずは脱出用のボートを取りに行く。別行動を取るのは危険のため、一緒に来てもら……」


 『来てもらう』と続く筈だったウィリアムの言葉は、雷鳴によって遮られる────かと思えば、一瞬にして空は晴れた。

さっきまでの悪天候が嘘のように雷は止み、黒雲も消え去る。

再び顔を出した満月は私達を優しく照らし出すと同時に、謎の集団を露わにした。

黒雲の上で待機していたのか、その集団は怪我一つしていない。

黒いローブに身を包む彼らは、学園襲撃の実行犯である『ブラックムーン』を連想させた。


 黒いローブは決して特別なものじゃないが、短期間に二度も同じ服装の集団と相見えるなんて、普通じゃない……十中八九、テロ犯の仲間だろうな。

でも、今はそんな事どうでもいい。テロ犯の生き残りなんかより、もっと重要なことがある。それは────奴らの中にアルフィーとテディーの姿があることだ。


 想定外の事態に眉を顰める私は、チッと小さく舌打ちした。

満月をバックに宙を舞う彼らは、何かを探すように視線をさまよわせる。

そして、士官学校の生徒達に紛れ込む私を見つけると────愉快げに目を細めた。


「────戦姫、そこに居るのは分かっているよ。大人しく出ておいで。さもなくば、君の周りにいる連中を一人残らず、殺す」


 こちらをじっと見つめたまま、我々に宣戦布告したのは────“深淵の知者”と呼ばれるアルフィーだった。

1000年前と変わらぬ姿で現れた彼は、学者のような格好をしている。

ペリドットを彷彿とさせる黄緑色の瞳は美しく、一つに束ねられた赤髪は腰まであった。

右目にはモノクルを装着しており、知的な雰囲気を醸し出している。

月明かりに照らし出された彼の顔は中性的で、相変わらず綺麗だった。


 髪型一つ取っても、以前と全く変わらないな……あいつだけ、時代の流れに取り残されたようだ。


 懐かしさを感じずにはいられない彼の格好に、私は僅かに目を細める。

複雑な心境に陥る私を他所に、周囲は『戦姫』という単語にどよめいた。


「戦姫って、一体どういうことだ……!?まさか、俺達の中に戦乙女 戦姫が居るとでも!?」


「そんなの知らないわよ!それより、あの人達は一体誰なの!?」


「僕に聞かれても困るよ!彼らとは初対面なんだから!」


「それは俺達も同じだ!」


 ギャーギャーと騒ぎ立てる生徒達は動揺を隠し切れない様子だった。

教師のシオンや軍団長のリアムも『一体、何がどうなっているんだ?』と眉を顰める。

誰しもがこの状況に困惑する中、私はグッと奥歯を噛み締めた。


 アルフィーとテディーの魔力を感知した時点で、薄々勘づいてはいたが、やはり私との接触を要求してきたか……。無理やり連れ去るならまだしも、自ら名乗り出るよう仕向けるなんて、意地の悪い連中だな……これでは、皆を助けるか・自分の夢を優先するかの二択しか選べない。

無論、前者を選べば、私は周りに正体を明かすことになる。自ら名乗り出た以上、後で誤魔化すことも出来ない……。


 八方塞がりの状況に苛立ちを覚える私は、『何か突破口はないか?』と考えた。

直ぐに名乗り出ようとしない私の態度に、アルフィーはスッと目を細める。


「まあ、そう簡単に名乗り出る訳ないよね。それじゃあ────」


 そこで言葉を切ると、アルフィーはパチンッと指を鳴らした。

刹那、黒ローブの集団は一斉に下降を始め、一直線にこちらへ向かってくる。


「────我慢比べと行こうか。まあ、冷酷無比の君なら、何食わぬ顔で他者を切り捨てるんだろうけど」


 クスリと笑みを漏らすアルフィーは『余興にも満たないお遊びだね』と呟いた。

大量殺戮を何とも思わないアルフィーの態度に、私は僅かな違和感を覚える。


 アルフィーは理想を叶えるためなら、どんな犠牲も厭わない奴だが、無意味な殺戮を好むタイプではない。むしろ、その真逆と言える……何故なら、あいつの理想は────世界平和だから。誰もが笑って過ごせる世界を作りたいと、口癖のように言っていた。

理想の実現に必要不可欠な犠牲を除き、あいつは他人を傷付けたりしない……少なくとも、1000年前はそうだった。


 神殺戦争の時だって、あいつは何度も神に交渉を持ちかけ、平和的解決を望んだ。まあ、結局壮絶な戦いを繰り広げることになってしまったが……と、それはさておき────今のあいつは1000年前と明らかに異なっている。1000年も経ったのだから、心境に変化があってもおかしくはないが……あんなに熱く理想を語っていたアルフィーがそう簡単に変わるだろうか?それとも、変わらざるを得ない出来事に直面してしまったのか……?


 自分の知らない歴史と時間に思いを馳せ、私はただじっとアルフィーを見つめる。

姿形は1000年前と全く変わらないのに、今の彼はまるで別人のように見えた。

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