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第53話『いざ、実験室へ《ルーカス side》』

 実験室の前までやってきた僕達は緊張した面持ちで黒く焦げた扉を見つめる。

さすがのシオン先生でも、敵陣に潜り込むのは不安みたいで表情が少し強ばっていた。

右手に構築済みの魔法陣を持つ僕は左手で彼の二の腕を掴む。


「ルーカスくん、僕のことを気遣ってくれるのは嬉しいけど、もう少し強く掴んだ方がいいよ。彼らに不審がられる」


 聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう注意され、僕は促されるまま力を強めた。

『大丈夫ですか?』と視線だけで問いかければ、シオン先生は何ともないとでも言うように頷く。

そして、意を決したように前を向いた。


 ここまで来た以上、もう後戻りは出来ない。失敗を恐れず、立ち向かうしかないだろう。


 緊張で強ばる体に鞭を打ち、己を奮い立たせた僕は教室の扉に手をかける。

バクバクと鳴る心臓の音が今日はやけに大きく聞こえた。


「では、行きます」


 小さな声でそう宣言し、僕は一思いに実験室の扉を開く。

すると、中からムワッとした熱気と薬品の香りが漂ってきた。

ゴクリと喉を鳴らしながら、出来るだけ乱暴にシオン先生の手を引き、中へ入る。

今朝爆破された実験室の中は案の定と言うべきか、人で溢れ返っていた。


 思った以上に人質の数が多いね……しかも、ほとんどの人が眠らされている。

見張り役の人数より多いのに、反撃しなかった……いや、出来なかった(・・・・・・)のはこれが理由か。

気絶してしまっていては数の利が活かせない。それどころか、お荷物になってしまう。


 人質の反撃を防ぐため講じられた策に、僕は心の中で唸るしかなかった。

────と、ここで教卓の上に座っていた茶髪の男性(・・・・・)が口を開く。


「おや?追加の人質ですか?その顔は確か……教師リストに載っていた、シオン・キサラギですね」


 肩くらいまである髪をセンター分けにした彼は教卓の上から下りた。

丸メガネを掛ける茶髪の男性は色素の薄い瞳を細め、こちらへ歩み寄ってくる。

学者のような格好をしている彼は知的な雰囲気を放っていた。


 あいつの言動からして、テロリストの仲間なのは間違いない……。でも、他のテロリストと格好や性格が違いすぎる。僕が出会ってきたテロリスト達はイザベラも含め、みんなローブやマスクで姿を隠していたのに……。


 戸惑いが隠せない僕を置いて、その男性はシオン先生の前まで歩いてくると、ニッコリ微笑んだ。

予想外の事態に先生が冷や汗を垂れ流す中、彼は先生の顎を掴む。

そして、半ば無理やり自分の方を向かせると、そのままズイッと顔を近づけた。


「ふむふむ……これが噂の武人ですか。和の国に伝わる技法や技術には昔から興味があったんです。ボスに言って、貴方をサンプルに貰いましょうかね」


「冗談はやめておくれ。僕にそういう趣味はないよ。美女になってから出直して来てくれる?」


 唇の両端を吊り上げ、精一杯強がってみせるシオン先生に対し、茶髪の男性はクスリと笑みを漏らした。

色素の薄い瞳が愉快げに細められる。

────僕の中にある全細胞が『こいつは危険だ!』と叫んでいた。


「ほう?この私に口答えするなんて、面白い……じっくり話をしたいところですが────この話は貴方が正式な人質(・・・・・)になってからにしましょう」


「「っ……!?」」


 まるで最初から見透かしていたかのように不気味な笑みを浮かべる茶髪の男性は僕の首に手を伸ばした。

正体がバレてしまった焦りと作戦が狂った恐怖に見舞われ、僕の体がちっとも動かない。

無様な姿を晒す僕の前で、シオン先生が慌てて男性の手を叩き落とした。


「ルーカスくん、下がって!こいつの相手は僕がする!だから、君は人質の保護を!」


 本能的にこの男はやばいと感じ取ったのか、シオン先生は珍しく声を荒らげる。

焦ったような表情を浮かべる先生は素早く縄を解いた。


 あの男は今まで戦ってきた奴らとは訳が違う……確実に強い!

シオン先生一人に任せて、大丈夫だろうか?先生の実力は重々承知しているけど、やっぱり不安だ。

さっきは恐怖に足が竦んで動けなかったけど、シオン先生の援護に回った方がいいんじゃないか?


 そんな考えが脳裏を過ぎる中、懐から取り出した短刀を構える彼が叫ぶ。


「僕のことはいいから、人質を助けるんだ!僕らがここに来た理由を忘れたのかい!?それに敵はこの男だけじゃない!こいつだけに構っていたら、何も救えないよ!」


 ────何も救えない。

その言葉が僕の胸に深く突き刺さる。

あの日、感じた無力感と後悔が僕の胸に渦巻いた。


 もう二度と、あんな後悔はしたくない……!何も救えないまま、終わるなんて……絶対にダメだ!


「シオン先生、あとは任せます!」


 フードとマスクを取った僕は教室の奥に固められた人質のところへ走った。

予め用意しておいた結界用の魔法陣を展開し、人質を包むような形で発動させる。


「光の守護者よ 今一度、我の呼び声に応えたまえ 我、汝の力を欲する者なり────シールド」


 詠唱を終えるなり、魔法陣は銀色の光を放ち、半透明の壁を作り出す。

その(かん)、壁際に待機していた黒ずくめの人間達が一斉に銃を発砲するが……結界の完成の方が少し早かった。

ありったけの魔力を込めた結界はその分だけ強度が上乗せされ、簡単に銃弾を弾く。

その光景を見て、目を覚ましていた人質の何人かが歓声を上げた。


 とりあえず、これで彼らの安全は保証出来た。よっぽど強力な魔法を撃ち込まれない限り、あの結界が破壊されることはない。

まあ、そのせいで魔力を半分以上消費してしまったけど……でも、人の命には代えられないだろう。


 後顧(こうこ)の憂いを断ち切ることが出来た僕は大急ぎで魔法陣を構築しながら、右へ左へステップを踏む。

不規則な動きをし、狙いを定めづらくする僕に対し、黒ずくめの集団は懐から短剣を取り出した。

どうやら、銃撃戦は諦めて接近戦に持ち込むつもりのようだ。


 早く黒ずくめの集団を倒して、シオン先生の加勢に行かないと……!ここで時間を掛ける訳にはいかない!


 僕は迫り来る敵を前に、チラッと後ろを振り返った。

この目に映るのは────気を失って倒れている教師達の姿……。


「手の空いている子達は先生達を起こして!Sクラスの生徒でもいい!とにかく、フラーヴィスクールが誇る実力者たちを片っ端から叩き起こすんだ!」


 半ば怒鳴りつけるように指示を出した僕は斬りかかって来る敵を前に、体勢を整える。

シオン先生の授業で狙った護身術の構えをしながら、『ふぅー』と息を吐き出した。


 正直、僕は肉弾戦向きの体じゃない。自分で言うのもなんだけど、女性みたいに細くて筋肉が付きにくい。体力はそこそこあるけど、筋力には自信がなかった。


 だから、敵の攻撃を回避することだけに集中して魔法陣をさっさと組み立てよう。

僕の得意分野に引きずり込まないと、あっという間に殺られてしまう。


 首に突き立てられた剣の先端を横に避け、後ろから斬りかかってきたテロリストの手首を掴み、そのまま前へ引っ張る。

体勢を崩して派手に転んだテロリストを一瞥し、左右から迫り来る二つの短剣を上半身を逸らして躱した。

視界の端に拳銃を構えるテロリストの姿が見え、慌てて後方転回(バク転)する。

その直後、バァン!と銃声が鳴り響き、僕の元いた場所に黒い弾痕が出来ていた。


 今のはちょっと……いや、かなり危なかった。たまたま視界に入らなかったら、避けられなかったかもしれない……。


「────でも、何とか魔法陣を完成させることが出来たよ」


 額に汗を滲ませつつ、僕は完成した魔法陣に魔力を込める。

魔法発動の準備を進めていく僕の前で、黒ずくめの集団が慌てて銃を構えるが、僕の方が少し早かった。


「風の守護者よ 今一度、我の呼び声応えたまえ 我、汝の力を欲する者なり────ウインドカッター!」

忘れる前に伝えておきます!明後日(2021/06/11)から、一週間ほど更新が不定期になります!

(家の事情でバタバタしていて……)


もし、更新を楽しみにしていたという方が居ましたら、申し訳ありません┏○ペコッ

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