表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/115

第51話『立ち往生《ルーカス side》』

 そのまま真っ直ぐ東階段へと向かった僕達は階段の踊り場にいた四人のテロリストを倒し、二階まで上がっていた。

何かが焼けた臭いと鉄の香りが鼻を掠める中、僕とシオン先生は曲がり角の陰から、廊下の様子を窺う。

先程感じた膨大な魔力の持ち主が大暴れしたのか、二階の廊下には焼死体と気絶したテロリスト達の姿があった。

ついでに天井の一部が壊れ、崩れかかっている。


 東階段の連中と戦っていた時に聞こえた大きな物音はこれが原因だったのか。

例の魔力の持ち主は僕達の読み通り、敵ではなさそうだけど、派手にやったね……。破壊力も去ることながら、建物への被害が大きい。

でも────そのおかげで二階に配置されたほとんどのテロリストが片付けられていた。


「これなら、無駄な戦闘をせずに済みますね」


「ああ、そうだね。もしも、僕らがこれだけのテロリストを相手取ろうとしたら、かなり時間が掛かっていただろうし」


 不幸中の幸いとでも言うべきか、廊下には被害の確認を行っている数人のテロリストしか居ない。

もちろん、どこかの教室に他のテロリスト達が隠れている可能性もあるが……。


「シオン先生、二階に居るのは廊下にいるテロリスト達だけですか?」


 出来るだけ声を押し殺してそう尋ねれば、シオン先生は『う〜ん……』と唸った。

殺気や気配に敏感な武人であるシオン先生でも、二階全体を把握するのは難しいみたいだ。

彼は少し悩むような動作を見せたあと、意を決したように口を開く。


「正確な位置や人数までは分からないけど……あの教室から、物凄い人数の気配を感じるんだ」


 そう言って、シオン先生は今朝爆発した場所と思われる実験室を指さした。

もう消火した後なのか、燃えている様子はなく、爆発した痕跡だけが残っている。

ただ、教室の扉がしっかり閉まっていて、中の様子までは分からなかった。


 今朝爆破した実験室の中に人の気配、か。それも、物凄い人数の……。

テロリストがわざわざその教室に集まる意味はないし、逃亡中の生徒達がそこで身を潜める必要もない。つまり────。


「────今朝爆破された実験室で授業を行っていた生徒と教師がそのまま捕らえられている訳ですか」


「恐らくね。それと、多分校内で見つかった他の人達もまとめて軟禁されていると思う。人質部屋みたいな?」


 シオン先生と見解が一致した僕は『ついに人質の居場所が分かった』と少しだけ安堵した。

でも、直ぐに気を引き締める。

たとえ、居場所が分かっても助け出さなきゃ意味が無い。下手したら、僕らも人質に加わる可能性があった。


 そんなヘマは許されない……。確実に見張り役のテロリストを倒し、人質を解放しなくては。


 使命感にも似た感情を抱きながら、廊下の様子を窺っていれば、被害の確認を終えた数人のテロリストが気絶している仲間を背負った。

助け出した彼らはまだ息があるようで、『うぅ……』と呻き声を上げている。

数人のテロリストは一言・二言言葉を交わすと、実験室へ足を向けた。

コンコンコンッと三回ノックしてから、扉を開ける彼らは僕らの視線にも気づかず、そのまま部屋の中へ消えていく。

直ぐに扉が閉まったので中の様子はチラッとしか見えなかったが、我が校の制服を着た生徒が何名か目に入った。


「ほとんど、僕らの読み通りですね。人質の存在も確認出来ましたし」


「そうだね。でも、中にテロリストが何人居るか分からない以上、無闇に近づけない。最低でも人数と配置が分からなきゃ動けないかな……」


 焼死体が転がるだけの空間と化した廊下を一瞥し、シオン先生は壁に寄りかかる。

難しい顔つきで黙り込む彼は眉間に深い皺を作った。


 やっと人質の居場所が分かって、『いざ、救出!』と思ったら、これか……。

直ぐそこに人質が居るのに二の足を踏むことになるなんて……焦れったいことこの上ない。でも、圧倒的情報不足の中で現場に踏み込むのは危険でしかなかった。


 テロ開始時から分かってはいたけど、僕らは情報戦で圧倒的に負けている。テロ組織の全貌はもちろん、テロの目的だって不明瞭なままだ。

それに対し、あっちはフラーヴィスクールの内情をある程度把握している。校内の見取り図はもちろん、恐らく全学年の時間割まで……。

じゃなきゃ、授業を行っている教室をピンポイントに爆発したり、生徒が多くいるグラウンドにドラゴンを配置したり出来ない。偶然と呼ぶにはあまりにも運が良すぎる。


 情報戦で負けている以上、実力でねじ伏せるしかないと思い、戦ってきたが……今回はそうもいかない。シオン先生の言う通り、最低でも人数と配置を把握しないと……。


「偵察として、僕のゴーレムを使いましょうか?」


「んー……あんまりいい案とは言えないからな。屋外なら自然の風景に溶け込んで上手く誤魔化せるけど、室内でゴーレムは少し……と言うか、かなり目立つ。見つかって破壊されるのがオチだよ」


 偵察案をばっさり切り捨てたシオン先生は『でも、アイディア自体は良かったよ』と付け足す。

気遣うような視線を向ける先生に一つ頷き、僕は再度思考を巡らせた。


 ゴーレムの偵察が不可能になると……魔力探知や気配探知で中を探るか、窓から中の様子を除くかしかない。

でも、どちらにも明確な問題点があった。


 まず、前者はよっぽど優れた探知能力を持っていないと成立しない。僕らの魔力探知は人より少し優れている程度だし、勘の鋭さを活かした気配探知もあまり精度が高いとは言えない。

もう少し実験室に近づけば、より正確な人数や配置が分かるかもしれないが、人質とテロリストの見分けがつかなければ意味がなかった。


 次に後者についてだが、これはゴーレムの偵察作戦と同様に見つかる可能性が高い。

敵が全員廊下側を向いているというミラクルでも起こらない限り、不可能だ。リスクが高すぎる。


 いっそのこと、このまま突入してしまおうか……?いや、さすがにそれは不味い。敵の人数も把握出来ていない状況で飛び込んでも、人質を盾に取られて終わりだ。


「こんな事になるなら、校内にいるテロリストを一人生かしておけば良かったですね」


 スピード勝負だと決め込み、尋問を怠った過去の自分が悔やまれる。

階段の踊り場に放置したテロリストの死体を見つめ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ