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第4話『ストーンゴーレム』

 え、はっ?嘘だろ?普通幼女を片手に魔物(モンスター)に立ち向かうか……!?

安全なところに置いてから、戦うだろう!?なあ!?


 私は目の前に飛び出してきたストーンゴーレムより、リアム・マルティネスの思考回路の方に驚いてしまう。

だって、本当に頭がおかしいとしか思えないから。

『冗談抜きで普通の子供だったら、泣いているぞ!?』と思案しつつ、おもむろに視線を上げる。

すると、二十体近く居るストーンゴーレムが目に入った。


 岩が積み重なって出来たそいつらを前に、私は控えめな光を放つ水晶に目をやる。

通常ストーンゴーレムは水晶を破壊するか、体から引きずり出すかすれば討伐出来る。

一応他にも方法はあるが、あまり現実的ではない。少なくとも、一般人では出来ないだろう。


 さて……この男はどうやって、ストーンゴーレムを倒すのか。見ものだな。


 ニヤリと口元を歪める私は、『ガッカリさせないでくれよ』と心の中で言う。

────と、ここでリアム・マルティネスは私を抱いたまま一歩前へ出た。

かと思えば、


「凍れ」


 と、ただ一言述べる。

詠唱ですらないソレに────彼の魔力は応えた。

まず手始めにリアム・マルティネスの足元を凍らせ、徐々に範囲を拡大していく。

キラキラと太陽に反射して煌めく氷の表面を前に、私は目を剥いた。


 こいつ、詠唱変換を……!?


 ────詠唱変換とは、無詠唱の一歩手前の魔法発動方法だ。

これが出来る奴は、訓練次第で無詠唱も習得出来る。


 なるほど。これが社交界で噂の生きる伝説の男か。

なかなか面白いじゃないか。

育てれば、きっと大きく成長する筈だ。


 下半身が凍って身動きの取れないストーンゴーレムを見つめ、私はニヤリと笑う。

『どこまで強くなるか、楽しみだな』と考えつつ、戦況を見守った。


 恐らく、ストーンゴーレムを氷漬けにしてから水晶を取り出す算段なんだろうが……それだと、少し時間が掛かるな。


 『日が暮れるのでは?』と案じていると、リアム・マルティネスがスッと目を細める。


「ふむ……凍らせるだけでは、つまらないな────剣」


 そう言うが早いか、リアム・マルティネスは氷剣を創造した。

と同時に、辺りの温度は少し下がる。

氷剣から発せられる冷気によって。


 これはかなりの強度と破壊力を持っていそうだな。

────というのも、氷剣の出来は冷気の強さで分かるため。


 『近年稀に見る逸材だな』と感心する中、リアム・マルティネスは首元まで凍ったストーンゴーレムと向き合う。

そして────剣を三回ほど振るった。

剣の間合いに入っていないにも拘わらず、だ。


「ふむ……剣の腕は鈍っていないようだな」


 その言葉を合図に、目の前のストーンゴーレムの胸から水晶がコトンと落ちた。


 なるほど。風圧を利用して、ゴーレムを切ったのか。

なかなか、器用なことをするな。


 『しかも、水晶だけピンポイントに狙って』と瞠目し、私は微かに頬を緩めた。

風圧に魔力を込めて攻撃する、風刃斬りは使える者が少ないから。

まさか、文明退化した現代でお目に掛かれるとは思わなかった。

『人生、何があるか分からないな』と機嫌を良くする中、リアム・マルティネスは氷の上に転がる水晶を拾い上げる。


「やる。好きに使え」


「え、えっ……?あ、ありがとうございしゅ……」


 子供の手で持つには少し大きいソレを受け取り、少しポカンとする。

だって、現代で水晶がどのように使われているのか分からなかったから。


 魔術師なら、魔術の媒介として使える水晶を喜んで受け取るだろうが、あいにく私は魔術師じゃない。

魔術は少し詳しいが、魔術師と呼ぶには知識が偏り過ぎている。

私が学び、研究した分野は降霊術や死霊術だけだから……あとは悪魔召喚とか?

まあ、とにかく魔法の劣化版である魔術にはあまり詳しくなかった。

魔術とは本来、魔力のない者や魔力量の少ない者が使うものだから。魔力量豊富な私には意味の無いものである。


 『いっそ、アクセサリーにでもするか?』と考える私を他所に、リアム・マルティネスは後ろを振り返った。


「セバス、残りの水晶を取り除いておけ。私はエリンと先に馬車に戻る」


「畏まりました」


 恭しく頭を垂れるセバスを背に、リアム・マルティネスは馬車へ乗り込む。

『いや、あとは使用人任せかよ……』と少し呆れる中、彼はこちらに視線を落とした。


「後で残りの水晶も、くれてやる」


「ひゃ、ひゃい……」


「煮るなり焼くなり好きにしろ」


 いや、水晶は煮ても焼いても特に意味はないが!?

というか、私は一つで十分なんだけど……そんな大量に貰っても使い道がない。


 なんて返事すればいいのか分からず、私は曖昧に笑って黙り込む。

そんな私をどう解釈したのか、リアム・マルティネスは話題を変えた。


「よし────次は仕立て屋に行くぞ」

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