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第46話『いざ、校舎内へ』

 青い布を上から被り、顔や体型を隠した私は正体がバレないよう注意しながら、フラーヴィスクールの敷地内を歩き回る。

そして、校舎内の人数や配置を魔力探知で把握しながら、建物に近づいた。

校舎の正面玄関には当然ながら見張りの者達がおり、周囲を注意深く見回している。


 数は五人か。黒ローブのせいで性別や顔は確認出来ないが、まあ……それは大した問題じゃない。正体を隠しているのはこちらも同じだからな。それに────相手が誰だろうと、やることは同じだ。


 ニヤリと口角を上げた私は身を潜めていた草むらから姿を現した。

ふわりと青い布の端が揺れる。


「お前達は本当に運が悪いな。心底同情する。今日、私に出会わなければもう少し長生き出来たのにな」


 哀れみとは程遠い楽しげな声を上げ、クツリと喉を鳴らす。

突然目の前に現れた私に対し、見張りの者達は警戒心を剥き出しにした。

無言で武器を構える彼らを前にしても、私は歩みを止めない。


 こんな奴ら相手に足を止めるなど、愚の骨頂だろう。立ち止まる価値もない。


「お前達は私にとって、ただの風景に過ぎないんだからな」


 独り言のようにそう呟けば、見張りの者達がほぼ同時にナイフを投げてきた。

五つのナイフはしっかりと私を捉え、真っ直ぐに飛んでくる。

それでも、私は足を止めることなく、前を見据えた。


「散れ」


 その一言に有り余るほどの魔力を乗せれば、私に当たる寸前で全てのナイフが地面に落ちる。

カランという乾いた音が鳴り響く中、見張り役の五人が大きく目を見開いた。

『有り得ない』とでも言うように唖然とする彼らは落ちたナイフと私を交互に見つめる。


 今、私がやったのは魔法なんて繊細なものじゃない。魔力による圧を利用した乱暴な技だ。

通常魔力は実体を持たないエネルギーだが、大量の魔力が一箇所に凝縮されると、質量を持つことが出来る。

私はその原理を利用し、飛んでくるナイフを魔力で上から押さえ付けただけだ。


 雑魚相手にこの技を使うのは少々勿体ないが、ナイフを落とすためだけに魔法を使うのも面倒臭い。だから────。


「────潰れろ」


 困惑を隠し切れない様子の五人にそう命令すれば、彼らはその場でガクッと膝を着いた。

何かに上から押さえつけられたように、押し潰されそうになっている。

もし、この場に全く関係の無い第三者が居れば、彼らの居る場所だけ重力が強まったような印象を受けるだろう。


 魔力の圧による、単純な物理攻撃……やっぱり、これが一番楽でいいな。


 圧力に対抗するように何とか立ち上がろうとする彼らを見て、私は気分を良くする。

血のように真っ赤な瞳をうっそりと細め、ピンッと立てた人差し指を下に向けた。

すると────更に彼らを押さえ付ける力が強まる。


「っ……!!」


「ぐはっ……!!」


 ついに耐え切れなくなったのか、五人全員がうつ伏せの状態で倒れた。

地面と魔力に挟まれる彼らの体はメキメキと悲鳴を上げ、口から血を吐き出す。

どうやら、内臓をやられたらしい。


 くくくっ……!やはり、殺しはこうでなくては!強者との戦いが一番の楽しみだが、一方的な蹂躙も悪くない!むしろ、好ましい……!

圧倒的力でねじ伏せられる気分はどうだ?テロに加担した犯罪者共よ!


「くくくっ。絶望に染まったその目が見たかったんだ……っと、いけない。あまりここに時間を割く訳にはいかないな」


 圧倒的実力差を悟った彼らの横を通り過ぎ、正面玄関に足を踏み入れる。

後ろでカチャッと硬いものを握る音が聞こえたが……私は気にしなかった。


 最後の悪足掻きとして、私に一矢報いろうとしているんだろうが……残念だったな?お前が凶器を投げるより先に私がお前を殺す。


 緩む頬を押さえられない私は玄関の中で一度足を止め────その場でトンッと床を蹴った。

その音を合図に彼らの上に伸し掛かる魔力の質量が更に増す。

すると、ただでさえ内臓やら骨やらがぐちゃぐちゃだった彼らの体は────魔力の圧に耐えきれず、グシャッと潰れた。

あらゆるところから血や内臓が吹き出し、地面を赤く染め上げる。

残虐という言葉では言い表せないほどの光景が背後で広がっていた。


 でも、私には罪悪感も後悔もない。

何故なら、人殺しは私にとって日常茶飯事の出来事だったから。足元にいる蟻を潰した程度の感想しか湧いてこない。


 きっと、今の私を見たら誰もが『非道だ!』と非難するだろうな。


「まあ、他人の評価なんて心底どうでもいいが……」


 感覚だけでなく、感情まで戦姫だったあの頃に戻ってきた私は一度も後ろを振り返らず、そのまま足を進めた。

正面玄関の先にある、ちょっとした広場には誰も居ないようで、ガランとしている。

どうやら、さっき倒した五人がここら辺の警備を全て担当していたらしい。


 随分と人数が少ない上、配置が雑だが……まあ、いい。今はそんなことより、奥へ進もう。

より多くの血を浴びなければ、興奮が収まらない。


 胸の中で疼く破壊衝動に身を委ねる私はテロ犯の人数や配置を探るため、魔力探知に集中する。

目を閉じて、周囲に意識を向ければ、様々な種類の魔力が探知できた。


 西階段と東階段に四人ずつ。そして、一階の空き教室に八人……いや、十人か。

他にも何人かそこら辺に散らばっているようだが……テロ犯が単独で動くとは思えないし、恐らくフラーヴィスクールの生徒だろう。助けが来るまで隠れてやり過ごしていると言ったところか?

なら、そいつらは無視でいいな。仮にテロ犯の仲間だったしても、単独なら簡単に処理出来る。


「効率を考えるなら、空き教室から片付けた方が良さそうだな。階段の奴らから先に片付けると、道を引き返すことになる」


 面倒な手間を省きたい私は効率を考えながら、例の空き教室へ足を向けた。

その瞬間────見知った魔力が私の探知に引っ掛かる。


 この魔力は……シオンとルーカスか!教師のシオンは分かるが、何でルーカスも一緒に……?まさか、シオンの手伝いでもしているのか?

あいつは一応成績優秀者だし、有り得なくはない話だが……って、今はそんな事どうでもいい!問題視すべきことはそれじゃない!!


「あいつらが居ると、自由に動けないぞ……!」


 出来るだけ声を押し殺して呟いた言葉はシーンと静まり返った廊下に少しだけ響いた。

予想外の事態に、思わず頭を抱える。


 二人が居るのは恐らく、保健室の方だ。

私のように正面突破するのではなく、窓からこっそり侵入するつもりなんだろう。

あいつらの目的はあくまで生徒の保護だろうからな。だが、残念なことに……保健室の近くには例の空き教室がある。

シオンとルーカスがテロ犯の仲間と衝突するのは避けられない……。


 空き教室の連中は私が処分したかったんだが……今、シオン達と会うのは不味い。

血の匂いを漂わせた状態で鉢合わせれば、余計な勘ぐりをされるかもしれない……主にハゲ頭の教師に。


「チッ……!仕方ない。早々に二階へ上がるか」


 正体を隠しながらテロ犯をぶちのめすとなると、あいつらを避けて行動するしかない。

いっそのこと、先に主犯を叩くのもありだな。メインディッシュを他の奴らに取られるのは我慢ならない。


 神にさえ恐れられた私が誰かに行動を制限されるなんて、不愉快極まりないが……今後のことを考えれば、致し方ないだろう。

ただの幼女であるエリン・マルティネスで居たいなら、我慢するしかない。


 苦渋の決断を強いられた私は眉間に皺を寄せながら、空き教室とは真逆の方向に足を向けた。

西階段から二階へ上がろうと思いつつ、見張りとして配置されたであろう四人の魔力を確認する。

今のところ、四人とも動く気配はなく、律儀に見張りの役割を果たしていた。

後ろでシオンとルーカスの魔力が動くのを察知しながら、足早にこの場を去る。


 少し予定は変わったが、楽しい楽しいテロ犯狩りを再開しよう。

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