表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/115

第29話『天敵出現』

 ────翌日の早朝。

昨日と同じ要領でフラーヴィスクールに登校した私は、教室の片隅で読書を嗜んでいた。

ペラペラと本のページを捲りながら、窓から入ってきたそよ風に銀髪を靡かせる。

前世からは考えられないほど穏やかな時間を過ごす中、目の前に人の気配が……。


「あ、あのっ!エリン・マルティネス様……だよね?」


 そう言って、机にそっと手を置いたのは金髪碧眼の女の子だった。

癖を知らない真っ直ぐな金髪を後ろでポニーテールにし、海のような瞳を輝かせる彼女は随分と小柄だった。

また顔立ちも幼い。


 幼女の私が言うのもなんだが、この女はこう……チマッとした子だ。


 緊張しているのか恥ずかしそうにモジモジする女を前に、私は辟易する。

『相手にするのが面倒だな』と思いつつも、とりあえず本を閉じた。

と同時に、ロリもどきの女と向かい合う。


「はい、私がエリン・マルティネスれす。それがどうかしましたか?」


「あっ!え、えっと……私、アンナ・グラントって言うの。よ、よろしくね!」


「はい、よろしくお願いいたしましゅ」


 今になってようやく自己紹介を始めたアンナ・グラントに、私は内心冷ややかな目を向ける。


 全く……落ち着きのない娘だ。

それに初対面でタメ口とは、一体どういう事だ?

こいつは最低限の礼儀やマナーも、知らないのか?

初対面なら、まずは敬語からだろ。

あと、これ以上モジモジするな。見ていて、ウザい。


 と、内心イライラが止まらない私だったが……何とか笑みを取り繕う。


「それで……用件というのは、挨拶だけでしゅか?」


「え、あ……その……実は折り入ってお願いしたいことがあって……」


 短いスカートを両手でギュッと握り締め、彼女は足をモジモジさせる。

恥じらうように赤く染まった頬は、林檎を彷彿させた。


 なんだ?こいつ……トイレにでも行きたいのか?

なら、さっさと行け。

言っておくが、私は連れションなどしないぞ。行くなら、一人で行……


「あ、あのね!────私とお友達になって欲しいの!!」


 迷走し始めた私の思考回路に、彼女は理解不能な単語をぶち込んできた。

両手をギュッと握り締める彼女の前で、私は思わず固まる。

柄にもなく大きく目を見開き、アンナ・グラントを凝視してしまった。


「え、えっと……理由をお伺いしても……?」


 自分のものとは思えないほど震えた声で、私はそう尋ねる。

今までは、どんな強面に脅されても一切声色を変えなかったのに。

この場に嘗ての仲間が居れば、大爆笑していただろう。特にレオンが。

『この場にあいつが居なくて、本当に良かった』と安堵する中、アンナ・グラントはおずおずと口を開く。


「じ、実はその……凄く言いづらいんだけど……」


 恥ずかしそうに頬を赤らめながら、彼女はそう前置きした。

モジモジする足は、相変わらずである。

『もういいから、さっさと言えよ』と項垂れる私の前で、アンナ・グラントは意を決したように声を上げた。


「あ、あのね!私────“幼女”がとんでもなく大好きなの!!」


「……はっ?」


 予想の斜め上を行く回答に、私は思わず素で返してしまった。

他のクラスメイト達も、『えっ?なんて?』と動揺を露わにしている。

でも、この中ただ一人だけ元気な奴が……。

言わずとも分かると思うが、このカオスな状況を作り出した張本人アンナ・グラントである。


「きゃー!言っちゃった、言っちゃった!!どうしよう!?あのね、あのね!!エリンちゃん(・・・)が公爵様と学校見学に来た時から、ずーっと気になってて!!だって、お人形さんみたいに可愛いんだもの!!もう一目惚れよ、一目惚れ!!可愛すぎて禿げるかと思ったもん!!あっ!別に恋人になりたいとか、そんなんじゃないよ!?私はただ間近でエリンちゃんを見られるだけで、充分だから!!それ以上は望まないっていうか、むしろこの願いも図々しいっていうか……!!とにかく、私とお友達になってほしいの!ほら、友達だったら間近でエリンちゃんを見つめても問題ないでしょ?だから、お願い!私と友達になって!!」


 さっきまでのたどたどしい言葉遣いや恥じらいが嘘のように、アンナ・グラントは喋りまくった。

どこで息継ぎしてんだ?と、疑問に思うくらい。


 さり気なく『様』呼びから『ちゃん』呼びに変えられた上、聞きたくもない性癖を思い切り暴露された……。

なんか……なんだろう?精神的にどっと疲れた。ただ話を聞いただけなのに……。

この女……只者じゃないかもしれない。

ある意味、私の天敵だな。


 警戒心を露わにする私の前で、アンナ・グラントは何故か笑顔。

どうやら、言いたい事が言えてスッキリしたらしい。

シーンと静まり返る教室内には目もくれず、私をじっと見つめていた。

心做しかブルーサファイアの瞳は、輝いて見える。


 どうしよう……凄く断りづらいんだが!?


 『待て』を強いられる子犬のような彼女に、私は早くも困り果ててしまう。

『断ったら、泣くか……?泣くよな!?』と混乱しつつ、顔を上げた。


「あっ、えっと……」


「わくわく!」


「その……」


「わくわく!」


「あのですね……」


「わんわん!」


 おい、何で最後『わんわん』なんだよ!わざとか!?わざとなのか!?

クソッ……!だから、あざとい女は嫌いなんだよ!!


 自分のことは棚に上げて、文句を言っていると────不意にチャイムが鳴る。


「皆さん、席について下さい。ホームルームを始めますよ」


 担任ジェシカの登場により、カオスと化した空間は一瞬にして消え去った。

ゾロゾロと自分の席へ着き始めるクラスメイト達を前に、アンナ・グラントは小さく肩を竦める。

『残念』とでも言うように。


「じゃあ、また後でね!エリンちゃん!」


 さすがにジェシカには逆らえないのか、彼女も大人しく席に戻っていった。

その後ろ姿を見送り、私はホッと胸を撫で下ろす。


 ナイスタイミングだ、ジェシカ。助かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 無自覚聖女からやってきました。 更新がされていないとわかってて、読んで、イッキ読み! あっという間に終わってしまいました・・・。 アッサリしすぎた倫理観で、面白かったですw いつか続き…
[良い点] 楽しく読めました。続きも読みたいです。 [気になる点] 横の棒線が少し読み辛いです。 改行がもう少し多いと読みやすく、ありがたいです。
[一言] 続きはもう書かないのですか?? きになります
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ