第28話『心配』
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それからレオンの治療を終えた私はラウムを悪魔界に送り返し、マルティネス公爵家の屋敷に戻っていた。
のだが……これは一体どういう状況だろうか?
屋敷に帰ってくるなり、着替える間もなくリアムの書斎に連れ込まれた私……。
おかげで制服姿のまま、リアムの膝の上に座る羽目に。
じーっとこちらを見つめてくるエメラルドの瞳は、少し怒っているように見えた。
な、何だ?私、何かしたか?今日は一日中、学校に居たから特に何もしていないと思うのだが……。
いや、何もしていないことが問題なのか?引き取ってもらった恩を返せとか、そういう感じなのか!?
「あ、あの……お父しゃま?」
このシーンと静まり返った空間に耐えきれず、こちらから話し掛けるとリアムはピクッと僅かに反応を示した。
どうやら、目を開けて眠っていた訳ではないらしい。
用件があるなら、さっさと言え!!
制服が皺になる!!
それに今日は色々あって疲れてるんだ!!
そんな私の気持ちが通じたのか、黙りを貫き通していたリアムがやっと口を開けた。
「……怪我はないか?」
「へっ……?」
「学校から連絡があった。今日の授業で、悪魔が暴れ出したんだろう?それにお前の物を盗もうとした生徒が、五人も居たとか……だから、その……心配した」
「心配……」
あの無自覚暴君が、私を心配?
じゃあ、リアムは怪我などしていないか確認するため、着替える暇も与えず私を呼び出したのか……?
たったそれだけのために仕事をする手を止めて……。
全く……こいつは本当に────変な奴だな。
気づいたら、私は笑っていた。
だって、生まれてこの方心配なんてされたことがないから。
「お父しゃまったら、心配性れすね!ふふふふっ!」
「……私だって、自分の娘の心配くらいする」
拗ねたように視線を逸らし、リアムは僅かに頬を赤くした。
普段はクールで、感情の起伏を感じさせないのに。
氷の貴公子と呼ばれた男にも、人間味があったとはな。面白い。
まじまじとリアムの顔を見つめ、私は柘榴の瞳をスッと細める。
「ご心配頂き、ありがとうございましゅ。でも、私はこの通り元気なので安心してくだしゃい!」
子供らしく身振り手振りで元気なことを伝えると、リアムは満足そうに頷いた。
かと思えば、私の頭に手を伸ばし、ポンポンッと数回撫でる。
その手つきは驚くほど、優しかった。