表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/115

第27話『お仕置きタイム』

 私はパチンッと指を鳴らして、理事長室に複数の結界を展開させると青ざめるレオンを手招く。

ビクッと肩を揺らしたレオンは、数秒ほど押し黙るものの……大人しく席を立った。


 いい判断だ、レオン。

今、ここで私の指示を拒んでいれば確実にあの世逝きだったぞ。前世の私と長く接していただけあるな。


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを零す私の傍で、ラウムは我関せずというように無言を貫く。

レオンに縋るような視線を向けられても、一切反応を示さなかった。

どうやら、ラウムはまだ長生きしたいらしい。


 懸命な判断だな。この筋肉野郎の肩など持たぬ方がいい。ろくな事にならんぞ。


 ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくるレオンを見つめ、私は柘榴の瞳を細める。

『どんな風に痛めつけてやろうか』と考える私の前で、レオンは足を止めた。


「あの……その……今回は……えっと……」


「ん?どうした?もしかして、言いづらいことのか?なら、精神感応系魔法でお前の心を覗いてやろうか?」


「そ、それは勘弁してくれ……」


 フルフルと弱々しく……でも、ハッキリと首を横に振り、レオンは拒絶を露わにした。


 ほう?正直者のお前でも、覗かれて困るものがあるんだな。

ここまで嫌がるってことは、私に知られたくない何かがあるんだろう?


 『それはちょっと興味あるな』と思いつつも、我慢。

さすがに人の心を覗き見るのは、抵抗があるため。

『誰にだって、知られたくないことはあるよな』と肩を竦め、私はマゼンダの瞳を見つめ返した。


 どうせ、頭の悪いこいつに弁明の余地などないだろう。

だから、さっさと終わらせよう。


 そう判断した私は、手元に幾つか魔法陣を呼び寄せた。ちなみにどれも攻撃系の魔法である。

それを理解したのか、ラウムはサッと私の後ろに隠れた。

とばっちりを受けるのは御免だ、とでも言いたげな反応速度である。


 本当は契約もしていない人外に背後を取らせたくは、ないのだが……まあ、今回は特別に許してやろう。


「レオン、覚悟は良いな?」


「あ、ああ……お手柔らかに頼む」


 レオンは震える手をギュッと握り締め、私から与えられる罰を待つ。

その表情はどこか険しかった。


 いや、そんなに身構えなくても大丈夫だぞ?

室内だから、攻撃の威力はある程度抑えてあるし……頑丈なお前なら、きっと掠り傷程度で済む筈だ。


 などと考えながら、私は手元にある三つの魔法陣に魔力に注いだ。

ほのかに輝く三つの魔法陣を前に、私は顔を上げる。


「じゃあ、まずは────氷結魔法から行くか」


「げっ!!」


 レオンは私の呟きに思わず、顔を顰める。

そのむさ苦しい男の顔には、『嫌だ』とハッキリ書いてあった。


 まあ、レオンが嫌がるのも無理ない。

あいつは“紅蓮の獅子”と呼ばれるだけあって、寒さに弱いからな。

冬の間は体内魔力を活性化させて、代謝を上げているくらいだ。


 極度の寒がりであるレオンを見据え、私は魔法を発動させた。

すると、魔法陣から絶対零度の吹雪と冷気が溢れ出る。

それらは真っ直ぐレオンの元へ向かっていった。


 さあ、どうする?レオン。

お得意の火炎魔法で防ぐか?それとも『罰だから』と甘んじて受け入れるか?

私はどちらでも構わないが、前者を選択した場合罰は更に重くなるぞ?


「ぐっ……!!さ、寒い……!!」


 絶対零度の吹雪と冷気に見舞われ、レオンはブルブルと体を震わせる。

ご自慢の髭と髪は、すっかり凍りついていた。

が、レオンの体そのものはほぼ無傷。

皮膚にうっすら氷の膜が出来た程度。


 あいつ、魔法とか魔道具とか使ってなかったよな?てことは、生身であれを防いだのか……?

お前の体内温度と強度はどうなってんだよ……。

私が言うのもなんだが、お前本当に人間か?


 『この威力を魔法や防具なしで防ぐ奴は初めて見た』と感心し、ゆるりと口角を上げる。


 人間卒業おめでとう、レオン。

そして────死ね!


 私は氷結魔法を停止すると、間髪容れずに次の魔法陣を発動させた。


「次は────お前の大好きな火炎魔法だ!」


 そう言うが早いか、二つ目の魔法陣からブワァッと炎が吹き出してきた。

青く煌めく蒼炎(そうえん)を前に、レオンはニィーッと歯を見せて笑った。


 こいつにとって、炎は空気みたいなものだからな。大抵の炎なら、触っても問題ない。

本当、こいつの体ってどうなってんだろうな。


 私は蒼炎を真正面から受け止めるドM……ではなくレオンを眺め、ふわぁと欠伸を一つ。


 まあ、ここまではただのレクレーションみたいなものだ。本命は────これだ。


 私は蒼炎の中で『あったけぇ〜!』と歓喜するレオンを一瞥し、火炎魔法の魔法陣を破壊した。

これにより、蒼炎は幻のように消え失せる。


 よし……ちゃんと溶けたな。


 氷結魔法で凍った髪や髭が湿っているのを確認し、私はニンマリと笑う。

蒼炎のせいでレオンが真っ裸なのは少し気になるが、私は気にせず最後の魔法陣を発動させた。


「最後は────雷魔法だ!」


 雷魔法とは、火炎魔法に属するもので扱いが非常に難しい。

特定の人物に雷を落とせる使い手なんて、そうそう居ない。

『まあ、私は例外だがな』と考える中、レオンの頭上に黒雲が出現した。

と同時に、雷が落ちる。


「う、うぎゃぁぁぁぁああああ!?」


 見事感電したレオンは、ポクポクと口から黒い煙を吐き出した。

かと思えば、その場に倒れる。

感電したせいで体が痺れたのか、レオンはぎこちない動作で私を見上げた。


「ご、ご満足頂けたでしょうか……?」


「ああ。大満足だ」


「そ、それは良かったです……」


 ホッとしたように胸を撫で下ろし、レオンは床に顔を埋める。

と同時に、寝息を立て始めた。


 安心して、気絶したか。

全く……この程度で音を上げるなんて、レオンもまだまだだな。


「うわぁ……エリン、結構容赦ないねー」


「そうか?これでも、かなり優しい方だぞ」


 『前世の私なら、あと二百回は攻撃している』と告げると、ラウムは言葉を失った。

化け物でも見るような目でこちらを見つめ、口元に手を当てている。

唖然とするラウムを他所に、私は席を立った。

『まだやるつもり!?』と動揺する奴をスルーし、黒焦げ状態のレオンに歩み寄る。

そして、治癒魔法の魔法陣を手元に呼び寄せた。


「さて────後片付けに入るか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ