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第26話『自殺理由』

 ────その日の放課後。

私は『盗難未遂事件についての事情聴取』という名目で、理事長室に呼ばれていた。

無論、事情聴取というのはただの口実に過ぎない。

今朝のように勝手に理事長室へ行く訳にはいかないため、それらしい理由をつけたのだ。

『人間社会とは、実に面倒臭い』とボヤきながら、私はレオンとラウムを一瞥する。

と同時に、琥珀色のソファへ倒れ込んだ。


「はぁ……今日はどっと疲れた」


「戦姫、お疲れ様ー!」


「それは私の前世の名だ。今はエリンで通っている」


「え?前世?」


「ああ。私は1000年前に……それこそ、神殺戦争を終えて直ぐに自殺している。だから、これは私の転生体だ」


 一直線にこちらへ飛んできたラウムに、私は簡潔に現状を説明した。

その途端、奴は言葉を失う。

ポカーンと口を開け、見事なアホ面を晒していた。


 まあ、誰も私が死んだとは思わないだろうからな。

伝説級と呼ばれる戦士の中でも頭一つ抜けた存在であるため、殺される可能性や老衰で死ぬ可能性はまずない。

それに私はよく隠れアジトに引きこもっていたから、数百年ぱったり姿を見せなくなることも多々あった。

そのため、大半の者はまだ生きていると考えている筈だ。

なので、ラウムが驚くのも無理なかった。


「えーと、戦姫……じゃなくて、エリンは何で自殺したの?理由は何?」


 予想外の事態に混乱するラウムは、何とか状況を整理しようと私に質問を投げかけて来た。


 自殺の理由、か……そんなもの決まっているだろう?


「────“飽きた”からだ」


「あ、きた……?」


 ああ、そうだ。飽きたんだ。私が自殺する理由なんて、それしかないだろ。

まさかとは思うが、私が神殺戦争で死んだ仲間を悔やんで自殺したとでも?

悪いが、それは有り得ない。

私は昔から他人への情が薄くてな。

どちらかというと、レオンやラウムのような義理人情に厚い奴らを嘲笑う側の人間だ。

基本誰が死のうとどうでもいいし、誰かの死に感情が揺さぶられることもない。

たとえ、それが長い時を過ごした仲間であったとしてもな。


 冷え切った自分の人間性を自覚しつつ、私はフッと笑みを漏らす。


「私はな、それなりに期待していたんだ。神とやらの存在に。この世界の創造主なら私を楽しませてくれるかもしれない、とな……だが、私の予想に反して神の力はそこまで強くなかった。正直、失望したよ。血と戦いに飢える私を満たしてくれる存在は居ないのか、と……」


「だから、死んだの……?」


「ああ、そうだ。あの時の私は生きること自体に疲れてしまっていてな。また好敵手を探すのも面倒だし、キリもいいからこのまま死んでしまおうと思ったんだ」


 『信じられない!』とでも言いたげなラウムに、私はハッキリと自分の気持ちを伝えた。

自殺したことに後悔はない、と。

むしろ死んで良かったとすら、思っている。


 飽きた遊びを続けられるほど、私は良い子じゃないからな。

飽きたら捨てる、もしくは壊す。それが私のやり方だ。

関わる機会の少なかったラウムには分からないかもしれないが、私は命を粗末にする人間だ。

これを機に、よく覚えておくと良い。

まあ、こうやって会うのは恐らく最後になるだろうが……。

私の人生計画に、お前は含まれていないからな。


「……悪いけど、エリンの考えは僕には理解出来ない。命は尊いものだと思ってるから……でも、逆に僕の考えを理解しろとも言わない。価値観や考え方は人それぞれだし、エリンの選択にケチをつけられるほど僕は偉くないからね」


 飛び出そうになる本音をグッと堪えながら、ラウムは当たり障りのない返答をしてきた。

人の考えや価値観を否定することは、宣戦布告と同じだから。

頭ごなしに説教なんてした日には、殺されると理解しているのだろう。

まあ、全くもってその通りなのだが。

そんな私の心情を悟ったのか、ラウムは額に汗を滲ませる。


「と、とりあえずお礼を言わせて。神殺戦争の時は僕を何度も治療してくれて、ありがとう。本当に感謝してる」


 そう言って、ラウムはペコリと頭を下げた。

私の本性を知って怯えてはいるものの、感謝の気持ちは変わらないらしい。実におかしな悪魔だ。

まあ、嫌いではないが……。

私はただ、ラウムの言葉に一つ頷いた。

『どういたしまして』なんて言うつもりはない。

だって、ラウムを治療したのは私の気まぐれだから。

本来、礼を言われるようなことじゃないのだ。

だから、感謝の気持ちを受け止めるだけに留め、私はレオンへ視線を移す。


「さて、ラウムの用事も終わったことだし……私の個人情報が流出している件について、話を聞こうか?レオンよ。今なら、貴様の言い分も聞いてやるぞ?私の寛大さに感謝しろ」


 腕を組んだ状態でレオンを見上げ、私はニッコリ笑いかける。

子供特有のあどけない笑みに、レオンは早くも青ざめた。


 レオン、お前の口の軽さは理解していたが、それにだって限度はあるぞ?

今回ばかりは、私も結構怒ってるからな。覚悟しろ。

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