第25話『哀れと言うより、無様』
「────俺の妹の所持品を盗もうとしたことは、本当か?答えろ」
エメラルドの瞳で泥棒五人を捉え、ライアンは無表情で質問を投げかける。
確信を滲ませた声色のライアンに、泥棒五人はサァーッと青ざめた。
顔面蒼白とは、まさにこのこと。
まあ、相手がライアンなら仕方ないか。
こいつは公爵家の人間であると同時に、学年首席だからな。
レオンの話によると、ライアンの成績は歴代上位にくい込むほど。
知識面だけなら、兄のルーカスやウィリアムを凌ぐという。
敵に回して良いことはないだろう。
「っ……!!た、確かにエリン・マルティネス公爵令嬢の鞄を盗もうとしました。それは認めます……でもっ!盗もうとしただけで、僕らは結局何も盗めていません!」
「きちんと謝ります!だから、どうかお願いします!許してください!」
「虫のいい話ですが、どうかお願いです!学校側には、報告しないでください!」
「今回のことがバレて、退学にでもなったら……!僕らの人生は終わりです!」
「お願いします!どうか、恩赦を……!」
ライアン相手に言い訳は通じないと判断したのか、彼らはあっさりと罪を認め、許しを乞う。
それはもう土下座せんばかりの勢いで。
盗みは立派な犯罪だ。
それも相手が貴族の子供ともなれば、尚更。
この事が公になれば、退学処分は免れないだろう。
フラーヴィスクールが貴族からの圧力に屈しない後ろ盾を持っていたとしても、だ。
レオンはあくまで、貴族からの無茶ぶりや横暴を防ぐためのものだからな。
正当な理由で貴族から訴えられれば、拒む訳にはいかない。
私はビクビクと震える五人を冷めた目で見つめながら、ライアンの手をギュッと握った。
「……悪いが、いくら謝られてもそちらの要求を呑む気はない。それに、これだけ目撃者が居るんだ。俺達が口を噤んだところで、意味はないだろう。諦めて、罰を受け入れるんだな」
抑揚のない平坦な声で、ライアンは彼らを冷たく突き放した。
取り付く島もないライアンの態度に、泥棒五人はグッと言葉を呑み込む。
自業自得という言葉が似合う末路を前に、私は小さく肩を竦めた。
まあ、あれだ。今度から、狙う相手はよく考えろ。
私みたいなイレギュラーを避けておけば、バレずに済んだかもしれないからな。
なんにせよ、お気の毒さま。
「っ……!何で……何で!?貴族は何でも持っているんだから、少しくらい貰ったって良いじゃない!どうせ、代わりは幾らでもあるんでしょ!食い繋いでいくのに必死で、毎日お腹を空かせている私達に慈悲をちょうだいよ!ねぇ……!」
「そ、そうだよ!大目に見てよ!」
「何で私達ばっかり、こんな目に遭わないといけないの!?」
「俺達はただ美味い飯が食えれば、それでいいのに……!!」
「こんなの不平等だ!」
黙って彼らの様子を伺っていれば、まさかの逆上。
まあ、彼らの言い分も分からなくはないが……今、それを言ったところで何かが変わる訳ではない。
何より、こいつらには変わろうとする勇気や努力がなかった。
恵まれた奴らを羨むばかりで、改善そのものは他人任せ。
口を開けて餌を待つ雛鳥のように、誰かが助けてくれるのを待っている。ただ、それだけ。
そんな奴らに『狡い』『不平等』と言われる筋合いは、なかった。
現状を嘆く暇があるなら、少しでも勉強して強くなればいいのにな。
このフラーヴィスクールに入学を許された時点で、彼らには少なからず才能があるのだから。
『何故、ダークサイドに落ちるんだ』と呆れる中、盗人達は尚も文句を垂れ流す。
「何でいつも、俺達ばっかり損しなきゃいけねぇーんだよ!」
「頼むから、見逃してくれよぉ……!」
涙ながらに頼み込んでくる彼らは、哀れというより無様だった。
『ご慈悲を……!』と懇願してくる彼らを前に、私達はいよいよゲンナリしてくる。
あまりにも往生際が悪すぎて。
『そろそろ観念しろ』と心の中で呟いていると、誰かが教室に駆け込んできた。
「はぁはぁ……貴方たち五人、今すぐ職員室に来なさい!他の生徒達は、次の授業の準備を!」
そう言って、この場の沈静化を図るのは担任のジェシカだった。
どうやら、早速クラスメイトの誰かが先生にこのことをチクったらしい。
ズレた眼鏡を掛け直しながら背筋を伸ばすジェシカは、険しい表情で五人を睨み付けていた。
おっと……これはかなり怒っているな。
盗人の諸君、ご愁傷さま。