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第24話『泥棒』

 それから私達は研究室を追い出され、自分達の教室へ戻っていた。


 さすがにあの状況で授業を再開するのは、無理があったからな。

担当教師のオーウェンはレオンから金を受け取るなり、そそくさと学校を出て行ったし……。

恐らく、斬り落とされた腕が腐る前に治癒院で結合してもらうんだろう。

こういうのは、鮮度が大事だからな。


 過去に何度か腕を斬り落とされた経験がある私は、オーウェンの心情を察し、少しだけ同情する。

『腐る前に結合出来ると良いが……』と心配していると、耳を劈く絶叫が響き渡った。


「な、なんだ!?これ!!」


「こ、氷漬けの人がこんなに……!?」


「一体、何が……!?」


 困惑の滲んだ声に誘われるまま教室へ戻ってみると、そこには────氷漬けにされた他クラスの生徒の姿が……。

しかも、全員私の席近くに居る。


 これはもしかして……いや、もしかしなくても……私の荷物を盗もうとしたのか?


 教室を出る際に施した(トラップ)魔法を思い出し、私は少し遠い目をする。


 まさか、初日で引っ掛かるとは……それも五人も。


 『いやぁ、大漁だなぁ……』と半ば感心していると、ライアンがこちらを見る。


「……エリン」


「ハイ」


「これはお前の仕業だな?」


 いや、確かに私の仕業だが……人のものを盗もうとした、こいつらが悪くないか!?


 と、叫びそうになるのを何とか我慢し……私は平静を保つ。


「た、確かにこれは私が仕掛けたトラップ魔法のせいれす……」


「トラップ魔法……?お前、そんな高等技術が使えたのか?」


「こ、高等……?」


 トラップ魔法って、高等技術だったのか?

確かにトラップ魔法を使うには空間固定という難題をクリアしなければならないが、訓練すれば割りと誰でも使える筈。

戦争では、トラップ魔法専用部隊があったくらいだし。


 『そんなに凄いことか?』と首を傾げ、私は困惑する。

そんな私を前に、ライアンは一つ息を吐いた。


「……いや、何でもない。それより、何でトラップ魔法を仕掛けたんだ?」


「さ、最近貴族の盗難被害が相次いでると聞きまちて……それで、その……荷物を取られないよう、トラップ魔法を……」


「盗難、か……じゃあ、こいつらはお前の荷物を盗もうとしたんだな?」


「恐らく、そうれす……トラップの発動条件は私以外が鞄を開けた時か、鞄を教室外へ持ち出そうとした時なので……」


 それに私の鞄が机のフックから、外れてるし……。

氷漬けにされた連中が、私の鞄や物を盗み出そうとしたのはほぼ間違いない。


 というか、こいつら全員グルなんだろうか?

それとも、全員別々の単独犯……?

後者だった場合、後から来たメンバーはかなり危機感が足りないと思うが……。

だって、氷漬けにされた生徒を見ても尚盗みを働こうとした訳だからな。

もしも、これが殺人用のトラップだったら確実に死んでいたぞ。

今回、使用したのが特殊な(・・・)氷結魔法で良かったな。


 『凍らせたものの時間を停める』という魔法効果を思い出し、私はやれやれと肩を竦める。

まだ生きていられるのは私の温情だぞ、と思いながら。

『時間停止魔法を組み込んでいて良かったな』と考える中、クラスメイト達はざわざわと騒ぎ出す。


「えっ?じゃあ、この人達はエリン様の荷物を盗もうとしたの?」


「そりゃあ、氷漬けにされて当然だよなぁ」


「貴族様の荷物を盗むとか、根性あんなぁ」


「よく見てみれば、氷漬けにされた奴らって全員平民だもんな」


「あー、なんか色々納得だわ〜」


 様々な反応を示すクラスメイト達は、呆れたように苦笑を浮かべた。

どうやら、盗人達に同情する者は一人も居ないらしい。


 ここの生徒たちは、案外ドライだな。

さっきの授業で起きた騒動もそうだが、他者を気遣う素振りがない。

まあ、そういうところは軍人になるにあたり重宝される要素だし、別に非難するつもりはないが。

だって、いざという時他人を切り捨てられる強さがなければ、戦場ではすぐ死んでしまうから。


 『共倒れにでもなったら目も当てられないぞ』と思案していると、ライアンが顔を上げる。


「……エリン、魔法を解け」


「はい、お兄しゃま」


 二つ返事で応じた私はパチンッと指を鳴らし、魔法を解除した。

その途端、盗人を包み込む氷は砕け散り、目に見えない粉状になる。

小さく渦を巻いて消えるソレらを前に、盗人の五人の時間は動き始めた。


「お、俺たちは一体……!?」


「いきなり、変な魔法が発動して……」


「あれ?なんか、体が冷たい……?」


 氷漬けにされていたことを知らない……というか、分からない彼らは冷えきった体に困惑しつつ、辺りを見回した。

かと思えば、一気に青ざめる。

そりゃそうだ。彼らの周りには授業終わりのSクラスの面々が揃っているのだから。


 今回は狙う相手が悪かったな。

私の物を盗もうなど、一万年早い。


 私は冷えきった目で彼らを見つめ、ライアンの小指をキュッと握る。


 ここで私が出ても良いが、幼児だからと侮られる危険性がある。

百歩譲って舐められるのは構わないが、また私の物を狙われるのは面倒だ。

盗まれた私物を補充する際、いちいちリアムに頼まないといけないからな。


「ライアンお兄しゃま……泥棒しゃん、怖いれす……」


「分かった。直ぐに追い出す」


 グスンと涙目で訴えかけると、ライアンは意外とあっさり応じてくれた。

そして一度私の手を引き離すと、何故か繋ぎ直す。優しく包み込むように。


 こいつもリアムと同じく、幼女趣味でもあるのか……?

蛙の子は蛙と言うしなぁ……ロリコン気質が子に受け継がれていても、おかしくはない。


 『遺伝子とは、恐ろしいものだ』と苦笑する中、ライアンは私の手を引いて前へ出た。


「────俺の妹の所持品を盗もうとしたことは、本当か?答えろ」

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