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第23話『嘘が下手くそな口軽男』

 なんか見覚えのある奴だと思ったら、ラウムだったか。


 悪魔の正体を聞いて『なるほど』と納得し、私は神殺戦争時代の記憶を呼び起こす。

────と、ここでラウムが口を開いた。


「ところでさー、戦姫はどこに居るの?レオンは戦姫と仲良かったでしょー?居場所、知らなーい?」


「えっ!?あ、あー……いやー……その……戦姫とは、あの神殺戦争以来会ってなくてなぁ……」


 そろ〜っと目を逸らし、レオンは上擦った声で答えた。

あれではもはや、『嘘をついてます』と自白しているようなもの……。


 ……おい、レオン。お前、嘘つくの下手くそ過ぎないか!?

昔から嘘のつけない奴だとは思っていたが、これはあまりにも酷すぎるだろ!


 『この1000年の間に一体、何をやっていたんだ!?』と憤慨し、私は内心頭を抱える。


 不味い……不味いぞ!このまま行けば、レオンは確実にボロを出す!

その結果、私が戦乙女 戦姫だとバレたら大変だ!

その事態は何としてでも避けなければならない……!


 『ラウムにバレる分には構わないが……』と苦悩しつつ、一先ず二人のやり取りを見守る。

現状、割り込むのは不可能だから。


「えー!絶対、嘘でしょー!反応、分かりやす過ぎー!ていうか、さっきからずっと戦姫の魔力をヒシヒシと感じるし!まあ、ある程度魔力を抑えているみたいだから辿ることは出来ないけどー。でも、近くに居ることは確かだよ!ねぇーねぇー!レーオーンー!勿体ぶらずに、教えてよー!戦姫とお話したら、直ぐに悪魔界に帰るからさー!」


 ラウムはその小さな手でレオンの胸ぐらを掴むと、ぐわんぐわんと前後に揺さぶる。

その様子は、お菓子を強請る子供に近かった。


 魔力を抑えておいて、正解だったな。

もしも、ここで魔力を通常通り垂れ流していたら完全に終わっていた。

まあ、垂れ流すと言っても一般人と同じ量なので私的にはまだ『抑えている』内に入るがな。

1000年前のように魔力を一切抑えずに垂れ流すと、一瞬でただの子供でないことがバレるから。

それくらい、私の魔力量は多いのだ。


 前世はバリバリの戦闘狂だったから大量の魔力を邪魔だと思ったことは無いが、引きこもり生活にはあまり必要ないな。

というか、ぶっちゃけ邪魔だ。

今はもう大分慣れたが、魔力を抑えるのは少し疲れる。

魔法を使う機会が少ないから、定期的なガス抜きも必要だし……。

正直、半分……いや、最大魔力量の一割程度あれば今は充分だった。


「……えーとだな……その……戦姫は今……」


 ぐわんぐわんと前後に揺さぶられながら、レオンはしどろもどろになる。

これ以上、嘘をつくのは厳しいという顔つきだ。

でも、だからと言って素直に話せば私に殺されるとも思っている。

顔面蒼白とも言うべきレオンの様子に、私は眉を顰めた。


 流石にレオン一人では、そろそろ厳しいか……。


 助け船を出そうと考え始めた矢先、静まり返っていた教室がざわざわと騒がしくなる。


「ねぇ、戦姫ってあの戦乙女のことでしょ?」


「ああ、神殺戦争を始めとする色々な戦争で活躍した女って噂」


「めちゃくちゃ美人だって、聞いたぜ!」


「噂では、銀髪赤眼の美少女って……」


「えっ……?銀髪赤眼の美少女?それって、もしかして……」


 ヒソヒソと小さな声で会話を交わしていたクラスメイト達は、一斉にこちらを向く。

その目は私の正体を疑うものだった。


 おっと、これは予想外……。

まさか、私の外見が言い伝えられていたなんて……。

私は一応各国のお偉いさんに『私のことを文書に残すのは構わないが、私を特定出来る情報は何一つ書かないでくれ。書けば殺す』と伝えていたんだがなぁ……。

まさか、私の忠告を無視して歴史に残す馬鹿が居たとは……。


「おい!その情報、本当なのかよ!?歴史の教科書には、戦姫の見た目のことなんて何も……!」


「間違いねぇって!だって、戦姫に会ったことがある理事長先生(・・・・・)が教えてくれたんだから!!」


「えっ!?マジかよ!?じゃあ、本当に戦姫って……エリン・マルティネス公爵令嬢のことだったのか!?」


 ────ほほう?レオンが私の外見を生徒に言いふらしたのか。

そうかそうか。まあ、おかしいとは思っていたんだ。

あれだけ脅したにも拘わらず、歴史に私の外見を示すバカが居るなんて……。

でも、口の軽いお前なら納得だ。


 私はニコリと微笑んだまま、レオンに目を向ける。

すると、冷や汗をダラダラと流すレオンの姿が目に入った。

本気で死を覚悟した様子の彼を前に、私はグッと手を握り締める。


 レオンよ────お前は後でぶち殺す!!


 『今日がお前の命日だ!』と心の中で叫び、私はスッと目を細めた。

その瞬間、目の前に突然ラウムが現れる。

黒い翼をパタパタと動かし、私の周囲を飛び回る彼はこれでもかというほど見つめてきた。


「ふむふむ……なるほどっ!この子は────戦姫じゃないよ!確かに髪と瞳の色は同じだけど……魔力が全然(・・)違う!戦姫の魔力はもっと澄んだものだった!だから、この子は戦姫じゃない!」


 そう言って、ラウムはバチッと私にウィンクした。

『事情はよく分かんないけど、適当に誤魔化したよ』とでも言うように。

つまり、こいつは私が戦姫だと気づいた上で『違う』と断言してくれたのだ。


 魔力感知能力に長けたラウムが、私の魔力を間違える筈ないからな。


 『ナイスフォローだ、ラウム』と心の中で称賛を送り、私はホッと胸を撫で下ろす。

『レオンより遥かに役に立つな』と思案する中、生徒達は残念そうに肩を落とした。


「そうだよなぁ……よくよく考えてみれば、エリン嬢は子供だもんな。1000歳越えの戦姫な訳ないよな」


「さすがの戦姫でも若返るのは、無理だものね!」


「大体、エリン嬢は貴族の家で生まれた(・・・・)んだろ?戦姫な訳ねぇーって」


「だよなぁ!外見の特徴が一致しただけで、大騒ぎしすぎたろ!」


 『転生』という概念がないのか、生徒達はすんなりラウムの言い分を受け入れた。

『エリン=戦姫は物理的に不可能』と言い合う彼らの前で、私は肩の力を抜く。


 疑惑の目を向けられたときはどうしようかと思ったが、何とか丸く収まったみたいだな。

とりあえず、レオンには後でキツいお灸を据えるとして……ラウムとは、また後で話をしよう。


 ────と考えるものの、ここで一つ問題が発生する。


 あっ、そうだ!ラウムを人間界に留まらせるにはあの召喚陣を消すか、女子生徒を説得するしかないんだった!このまま悪魔界に帰されては、困る!

でも、ここで私が話を振るのはおかしいよな……。

せっかく払拭された疑惑が、また再熱するかもしれない。はてさて、どうしたものか……。


 考え込む私を見て何かを察したのか、レオンは慌てて口を開く。

挽回という名の点数稼ぎのために。


「そ、そうだ!ラウムとは少し大事な話があるから、召喚陣を消して欲しい。もちろん、ラウムのことは俺が責任を持って管理し、用事が済み次第悪魔界へ帰還させる。また、被害に遭った教師と生徒に関してはこちらから八十万ジュエル出そう。いい治癒院だって、紹介してやる!どうだ?悪い話じゃないだろう?」


「っ……!いてて……まあ、俺はそれで構いませんよ。また悪魔が暴れたら、大変ですし……」


「わ、私もそれで大丈夫です!」


 被害者のオーウェンと女子生徒は、レオンの提示した妥協案に『これ幸い』と飛びつく。

その身をもって悪魔の力を体験したため、早くこの案件から手を引きたいのだろう。


 それにしても、八十万ジュエルなんて太っ腹だなぁ……。

王族からの支援を受けているとはいえ、なかなか思い切った金額だ。


 ────と感心する私の前で、レオンは点数稼ぎが上手くいったことに安堵していた。


「これで多分、命の保証はしてくれる……筈」


 そんなレオンの小さな呟きは、誰の耳にも入ることはなかった。

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