第22話『悪魔の正体と目的は《レオン side》』
戦姫の魔力を纏った召喚陣に呼ばれ、何の気なしに来てみれば……何故か、我が校の教師オーウェン・ウィルソンの右腕が床に落ちていた。
そして、その正面にはニコニコと笑う悪魔が佇んでいる。
確か一年S組の今日の授業は、召喚関係だったな……?
じゃあ、あの悪魔は生徒の誰かが呼び出したものか?
で、オーウェンはその悪魔と戦って負傷した、と……。
大体状況が呑み込めた俺は、こちらを見上げる銀髪の男女に目を向ける。
俺を呼び出した張本人である戦姫はさておき、ライアンは心底驚いた顔で俺を見ていた。
『まあ、いきなり理事長が現れればそうなるよな』と納得しつつ、俺は無邪気に笑う悪魔を観察する。
戦姫が俺を呼び出した理由は恐らく、あの悪魔の対処だ。
自分は実力を隠して生活しているため手を出せないが、悪魔を野放しにするのは危険。そう判断したのだろう。
旧友の思考回路を紐解きながら、俺は溜め息を零す。
ただ倒すだけならまだしも、返送もやるとなると色々厄介だ。
何故なら、返送作業それ自体は悪魔を呼び出した生徒本人にやってもらわないといけないため。
『俺はずっと足止め役かよ……』と項垂れ、ガシガシと頭を搔いた。
あの悪魔の強さは、中の上と言ったところか。
普通の悪魔より、少し強いくらいで脅威ではない。
俺でも充分対応出来るだろう。
でも、分からないことがある。
────何故、悪魔は生徒の呼び出しに応じたんだ?
あの様子からして、契約目的とは考えにくい。
そうなると、あいつの狙いは人間界に来ること……それ自体になる。
でも、人間界に来てまで一体何がしたいんだ?
今までにも人間界に来たい・留まりたいって理由で召喚に応じ、術者を襲う例はあったが、その悪魔の大半が悪魔界で居場所のない異端者または追放者だった。
まあ、早い話国外逃亡というやつである。
でも、あの悪魔はそんな感じじゃないんだよなぁ……もっと明確で、ハッキリとした理由があるように見える。
とりあえず、話を聞いてみるか?
いや、でもオーウェンの右腕を斬り落としてるしなぁ……さすがに話し合いで解決するのは、不味いか?
理事長としての面子もあるし……。
「理事長しぇんせぇ、オーウェンしぇんせぇのこと助けないんでしゅか〜?」
「…………」
クイクイと服の袖を引っ張られてそちらに視線を向ければ、上目遣いの戦姫が視界に入った。
俺は昔と変わらない柘榴の瞳を見つめ返し、一つ息を吐く。
『人の気も知らないで』と内心文句を垂れながら。
「助けに行くに決まってんだろ。俺の前で死人は出さねぇ……」
「わ〜!しぇんせぇ、格好いいれす〜!」
キャキャッと無邪気にはしゃぐ姿は子供らしく実に可愛らしいが、中身があの戦姫なのかと思うと可愛さも半減する。
とりあえず、うちの女王様の機嫌を損ねる前に片をつけるか。
そう決心した俺は、ようやく動き出した。
「おい、そこの悪魔。そんなに戦いが好きなら、俺と戦おうぜ」
「あー!もうっ!次から次へと……って、君!」
ズカズカと大股で悪魔に歩み寄ると、奴は驚いたように目を見開いた。
かと思えば、まじまじと俺の顔を凝視する。
「少し老けたみたいだけど、この魔力……!間違いない!“紅蓮の獅子”のレオンだね!?」
「お、おう……」
少し老けたって……俺はまだ若いぞ!!実年齢は1000を超えているが、まだまだ現役バリバリだ!!
────じゃなくて!こいつ、俺のことを知っているのか……!?
『もしや、古い知り合い!?』と思い立ち、俺は顎に手を当てて考え込む。
が、全く心当たりはなかった。
『こんなやつ、居たか?』と首を傾げる俺の前で、悪魔は身振り手振りで説明する。
「ほら、僕だよ!僕!神殺戦争で共闘した悪魔!ラウムだよ!!」
「ラウム……?ああ!!アレースに殺されそうになったところを戦姫が助けた、あのラウムか!!」
「そうそう!戦姫に助けて貰ったラウムだよー!あの時はお世話になったね」
『やっと思い出してくれた!』と目を輝かせ、ラウムはニッコリと微笑む。
余程嬉しいのか、俺の周りをクルクル飛び回っていた。
いやぁ、神殺戦争かぁ……!懐かしいなぁ!
あの戦争ではとにかく怪我人が多くて、戦姫と一緒に味方を治療して回ったっけ?
ラウムはその治療した味方の一人だ。
仲間を庇って頻繁に重傷を負う奴だったから、印象に残っている。
まあ、その度に戦姫は『一体、何度死にかけるつもりだ?』とぶつくさ文句を言っていたけど。
それでも根気強くラウムを治療したのは、奴の態度が良かったから。
また、神を大量虐殺して気分が良かったことも関係している。
前者はさておき、後者は実に戦姫らしい理由だよな。
「ラウムか〜。懐かしいなぁ……神殺戦争以来、会ってないもんな?」
「だねー!久しぶり!本当は菓子折り片手に改めてお礼を言いに行こうと思ったんだけど、人間界に行く方法がなかなか無くてさー。結局、1000年も時間がかかっちゃったよ」
『ごめんねー』と謝罪するラウムに、俺は小さく首を横に振った。
と同時に、色々腑に落ちる。
ラウムが人間界に来た目的は、俺や戦姫に改めてお礼を言うためか。
って、そのためだけに来たのかよ。
まあ、義理堅いラウムなら本当にやりそうだが……。
でも、それにしたって色々強引すぎだろ。
もっと他に方法は、なかったのか?
『はぁ……』と深い溜め息を零し、俺はやれやれと頭を振る。
『どいつもこいつも暴力に訴え過ぎだろ』と考える中、ラウムは不思議そうに首を傾げていた。