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第21話『たまには役に立つ』

 筋肉マッチョの白衣教師は女子生徒の隣に颯爽と現れ、ニッコリ笑う。

重力魔法の影響下に入った筈なのに、先生は何でもないように平然と立っていた。


 女子生徒が潰れないよう、わざと威力を弱めているとはいえ、あれだけの力に耐えられるなんて……なかなかやるじゃないか。

フラーヴィスクールの教師も、捨てたもんじゃないな。


「君、誰ー?関係ないなら、下がってて欲しいんだけどー」


「俺は教師のオーウェン・ウィルソンだ。君を召喚したのは、うちの生徒でね……無視する訳にはいかないんだよ」


「は?教師ー?実力ない奴が教師なんてやってどうするのさー」


 悪魔は足の爪先から頭のてっぺんまでじーっと見つめ、ハッと鼻で笑う。

オーウェンの実力を察し、馬鹿にしているのだろう。

1000年前の価値観で物事を考える悪魔に対し、オーウェンは少しばかり眉を顰めた。


「言っておくが、俺は士官学校の最高峰であるフラーヴィスクールに務める教師だ。それなりに実力はある」


「士官学校の最高峰とか、そういうのはどうでもいいけど、君にそんな実力はないよー?だって、僕の手にかかれば瞬殺だもん。試してみる?」


 悪魔は己の実力を過大評価するオーウェンに、かなり呆れているようだ。

その顔には、しっかりと『お前、馬鹿なの?』と書いてある。


「……随分と俺を下に見ているようだが、侮るのはやめた方が良い────痛い目に遭うからな!!」


 見事悪魔の挑発に乗せられたオーウェンは、愚かにも悪魔に殴り掛かった。

その瞬間、悪魔はゆるりと口角を上げる。


「あはははっ!君、馬鹿なの?相手との力量差も分からないなんて、雑魚以下じゃん!ぷぷっ!」


「っ……!!このっ!このっ!このっ!!」


「あはははっ!無駄無駄ー!そんなヘナチョコパンチ、当たる訳ないよー」


 オーウェンの繰り出すパンチを右へ左へ躱し、悪魔はニヤニヤと笑う。

早くも焦りまくっているオーウェンを興味深そうに観察する彼は、実に楽しそうだった。


 これは完全に遊ばれてるな……。

大体、魔法も使わずに悪魔に勝つなんて不可能だ。

勝つつもりなら、せめて魔法を使え。じゃないと本当に死ぬぞ。


 そんな私の気持ちが伝わったのか、ついにオーウェンが詠唱を始めた。


「大地に広がる生命の源よ、今一度我の呼び声に応え、我に力を与えよ。我は戦神の加護を受けし者!絶大な力を我に与えたまえ!!」


 とてつもなく長い詠唱のあと、オーウェンの体は淡い光に包まれた。

と同時に、筋肉量も急激にアップする。


 なるほど。空気中の生命エネルギーを元にした身体強化魔法か。

悪くはないが、今回は相手が悪い。

悪魔相手に身体強化のみで勝とうなど、無謀に近い。

そんな芸当が出来るのは、私やレオンだけ……って、あっ!!そうだよ、レオンだよ!!あいつを呼べば万事解決じゃないか!!


 『盲点だった』とばかりに、私はポンッと手を叩いた。


「?……どうかしたのか?」


「い、いえ!何でもありましぇん!」


「……そうか」


 危ない、危ない!隣には、ライアンが居るんだったな!不審な行動は出来るだけ、控えないと!


 慌てて表情を取り繕う私だったが、ライアンはどこか不審そうに眉を顰めた。


 さすがにちょっと不審がられたか……まあ、それは良い。

それより、問題は────どうやってレオンを呼び出すか。

念話を飛ばして、呼び出すのが妥当だが……今、魔力を変に動かすとライアンに不審がられる。

出来ればライアンに不審がられない方法で、レオンを呼び出したいところ。


 私は『何かヒントがないか?』と、辺りを見回す。

そのとき、ふとあるものが目に止まった。


 ────あっ、これ使える。


「うぁぁぁあああぁぁぁぁああ!!」


「あははははっ!!良いねー!もっと痛がってよ!」


 野太い絶叫と高笑いに誘われるまま顔を上げれば、右腕を切り落とされたオーウェンの姿が目に入った。

肩あたりから大胆に切り落とされた腕は、床に転がっている。

また、斬られた断面からは凄い勢いで血が吹き出していた。


 この事態には、さすがの生徒達も『キャー!』と甲高い叫び声をあげる。

いくら優秀な生徒を集めたクラスとはいえ、まだ学生。この光景は刺激が強いだろう。


 まあ、この程度でいちいち叫んでいたらキリがないがな。戦場では、もっと酷い光景が広がっている。

軍人になりたいなら、もうちょっと忍耐力を鍛えろ。


 阿鼻叫喚の地獄絵図となる周囲を他所に、私はライアンの完成した召喚陣にこっそり手を加えた。


 よし……バレてないな。

さすがのライアンも、オーウェンの切り落とされた腕に釘付けのようだ。


 『よくやった、オーウェン』と心の中でエールを送り、私はそっと視線を落とす。

と同時に、こっそり召喚陣を発動させた。


 悪いな、ライアン。お前の召喚陣、使わせてもらうぞ。


「!?────召喚陣が……!!」


 いち早く異常を察知したライアンは、目を白黒させた。

『何が起きている!?』と困惑する彼の前で、私は内心苦笑する。


 まあ、落ち着けライアン。

お前のおかげでクラスの皆が助かるんだ。もう少し胸を張ったら、どうだ?


 『これで、お前も英雄だぞ』と心の中で茶化す中、召喚陣は淡い光に包まれていく。

そして────見事、目当ての人物が召喚を果たした。


 よし、後は頼んだ。

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