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第20話『致命的なミス』

 この召喚陣の致命的なミス、それは────術者を守る術式が、組み込まれていないこと。

通常召喚陣には、術者やその周りを守るための安全装置が組み込まれている。

メジャーなのは召喚した精霊や悪魔を結界の中に閉じ込めるものだ。

結界の強度にもよるが、余程のことがない限り術者に危害を加えることは出来ない。


 なので、普通はその結界を通して精霊や悪魔とやり取りし、契約する。

ちなみに契約を突っぱねられた場合は、そのまま元いた場所へ返すのがマナーだ。

────と、ここまでが私の知る“普通の召喚魔法”である。


 この悪魔の強さは知らんが、あの態度を見る限り契約する気はなさそうだ。

ついでに大人しく帰る気も……。

はぁ……これはまたなんというか、面倒なことになったな。


 『はてさて、どうしたものか』と思い悩み、私は額を押さえる。

が、周囲の人々は実に楽観的だった。


「凄い凄い!!あの難しい召喚魔法を成功させるなんて!!」


「先輩達でさえ、数人しか成功していないのに!」


「このまま契約まで漕ぎ着けたら、一気に評価点アップじゃない!!良かったわね!!」


「え、ええ!でも、ここからが本番よね!召喚に成功しても、契約まで出来た人は少ないって聞くし!」


 気合い十分なのは構わないが、契約以前にお前の命が危ないと思うぞ。


 全く危機感のない女子生徒に、私は内心呆れ返る。

『無知とは恐ろしいものだ』と辟易しつつ、腕を組んだ。


 とりあえず、ことの成り行きを見守るか。

こちらにも被害が及ぶようなら、あの悪魔は適当に処分する。


「ね、ねぇ!貴方!名前はなんて言うの?種族名は?能力はどんな……」


「あー、はいはい。そういうのいいから。僕、君と契約する気ないし」


「えっ、なっ……!?」


「ていうか、君も馬鹿だよねー。こんなお粗末な召喚陣で、僕ら人外を呼び出すなんて」


「お、お粗末って……!!そんな訳ないわ!だって、きちんと教科書通りに……」


「じゃあ、その教科書とやらが間違ってるんじゃない?」


 キーキーと猿みたいに喚く女子生徒に対し、悪魔は緩い口調で……でも、冷静に受け答えをしている。

『馬鹿ではなさそうだな』と分析しながら、私はスッと目を細めた。


 見たところ、あの悪魔の魔力量はかなりのものだ。

私やレオンには及ばないものの、この校舎を一瞬で吹き飛ばせるほどの力は持っている。

あの女子生徒では、どう頑張っても太刀打ち出来ないだろう。

仮に結界を張っていたとしても、あの悪魔なら余裕で破壊出来そうだ。


 あの女、引き運悪いな。召喚するなら、もっとマシな奴を召喚すれば良いものを……。

まあ、それは無理か。この召喚陣では、召喚対象を指定出来ないから。


 『完全ランダムだと、こういう事があるよな』と思案する中、女子生徒はキッと目を吊り上げる。


「教科書に間違いなんてないわ!!それより、貴方を元いた場所に送り返してあげる!契約する気がないなら、貴方なんて不要よ!」


 そう言うが早いか、女子生徒は送り返しの転移陣を描き始めた。

無論、教科書を見ながら。


「え、えー?今の魔導師って、こんなにレベル低いの?転移陣くらい、何も見ずに描けないわけ?ていうか、描くの遅っ!!」


「は、はぁ〜!?これでも、私は成績上位者よ!!馬鹿にしな……」


「────いやいや、こんなに弱かったら馬鹿にしたくもなるでしょ」


 相手が格上だと分からない女子生徒に、悪魔は分かりやすく教えてあげた。

誰が上で、誰が下なのかを……少女の体に、じっくりと。


 始まったか。召喚された人外による────術者狩りが。


 召喚された人外を元いた場所に送り返せるのは、呼び出した本人のみ。

何故なら、術者の使用した召喚陣がないと人外を送り返せないから。

で、その召喚陣を破壊するには術者を殺すのが一番手っ取り早い。


 まあ、私なら術者本人の召喚陣がなくても人外を送り返せるがな。

でも、それは人外の居た“世界”に送り返すことが出来るというだけで、細かい場所指定は不可能だった。


「いっ……!?何よ、これ……!?」


「えっ?重力魔法だけど?もしかして、それすら知らないの?」


「そ、それくらい知ってるわよ!!でも、重力魔法は使える人が少なくて……!!賢者くらいしか使えないのよ!!」


「はっ?賢者ぁ?これくらい、誰でも使えるでしょー」


 私の思っていることを代弁してくれる悪魔は、堂々と反論した。

相変わらず口調は緩いままだが、彼の言っていることは正しい。


 重力魔法はどの属性にも属さないため、限定魔法と呼ばれていた。

昔は特に珍しい魔法じゃなかったし、鍛錬次第で誰でも使えたため、ここまで特別視されることはなかった。

なのに、現在重力魔法を使えるのは賢者と呼ばれる者のみなのか。

一体何をどうしたら、こうなるんだ?


「まあ、いいやー。君に用はないし。この召喚陣消してくれるなら、命までは奪わない」


「な、にを偉そうに……!!」


「反抗するのも反論するのも構わないけど、僕に殺される可能性をちゃんと考えてね?」


「っ……!!」


 女子生徒もさすがに命は惜しいのか、それ以上余計なことを言わないよう固く口を閉ざしている。

まあ、賢い判断だな。

でも────ここで、その悪魔を野放しにすれば後々後悔するぞ。

召喚した人外の取った行動による責任は、全て術者に伸し掛かるからな。

たとえ、契約を交わしていなくても。


 この国の法律でどう定められているかは知らんが、お咎めなしはまず有り得ないだろう。

まあ、今回の召喚魔法は授業の一環だったし、重い罰が下ることはないだろうが……。

女子生徒よりも、教師の方が責任を問われる可能性は高い。

とはいえ、王国側もレオンの居る学校にはあまり強く言えないだろうけど。

お飾りとは言え、この学校はあいつのものだから。


 っと、その話は一旦置いておこう。

今、問題なのはこの女子生徒がどう動くかである。


 教室中の視線を独り占めする彼女へ、私も視線を向けじっと待機した。

『よく考えて動けよ』と心の中でアドバイスする中、彼女は震える唇で言葉を紡ぐ。


「わ、たしは……」


「────あまり、うちの生徒を虐めないでくれるか?」


 女子生徒の言葉を遮るようにして、口を挟んだのは────この授業を担当する男性教師だった。

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