第12話『推薦入学』
はぁ……それにしても、面倒なことになったな。
間違った知識の賜物とはいえ、氷結魔法をそれほど高く評価しているのなら、必然的に私の価値も上がる筈。
それは引きこもり生活を夢見る私にとって、邪魔でしかなかった。
生徒達から向けられる羨望の眼差しを前に、私は内心溜め息を零す。
『どうやって、周囲の関心を下げようか』と悩む中、リアムが不意に顔を上げた。
「理事長、確かこの学校は実力さえあれば年齢は問わないんだったな?」
「あ、ああ。そうだが、それがどうかし……まさか!?」
「あぁ、エリンをこの学校に────入学させる」
無表情のままこちらを見下ろし、リアムは確かにそう宣言した。
えっ?はっ……?嘘だろ!?
◇◆◇◆
有言実行が座右の銘と言っても過言ではないリアムに、宣言を撤回する気はなく……視察そっちのけで、私の入学手続きを行っていた。
嗚呼、最悪だ……。
理事長室でレオンの向かい合う私は、リアムの膝に乗ったまま項垂れる。
が、書類にサインしているリアムはどこ吹く風。
私の入学を推薦する旨のチェック項目に、大きな丸をつけていた。
────この学校の入学方法は筆記試験と実力テストを行う一般入試枠の他に、推薦枠がある。
推薦は基本貴族のものしか通らないが、武勲を上げた軍人からの推薦も可能だ。
まあ、評価基準としては名のある実力者かどうかってことだな。
で、今回の入学方法は推薦枠を使ったものだ。
現軍団長にして、三大公爵家現当主リアム・マルティネスの推薦ならば異存はないだろう。
まあ、それでも入学出来るかどうかは分からないが。
何故なら、推薦枠の入学試験には────理事長との模擬戦があるから。
無論、理事長を倒さなくてもいい。
どうせ、一般人にレオンは倒せないから。
なので、このテストでは“倒す”ことよりも“実力を示す”ことに集中した方がいい。
レオンはああ見えて、結構厳しいからな。
貴族だからと言って贔屓はしないし、子供に対して甘く接することもない。
合否の判断は間違いなく、公平に行われる。
まあ、仮に贔屓したとしてもレオンに文句を言えるやつは居ないだろうが……っと、それはさておき。
見事推薦枠で合格を貰った者は、Sクラス加入を確約される。これが推薦枠の最大のメリットだ。
「書き終わった」
「あ、あぁ……そこに置いておいてくれ」
「分かった」
コクリと頷くリアムは、指示通りテーブルの上に書類を置く。その横顔はどこか楽しげだった。
パッと見、いつもと変わらない無表情の筈なのに。
打って変わって、レオンはかなり怯えているがな。
恐らく、私のピリピリした空気を感じ取ったのだろう。
前世でよくサンドバッグ代わりに使っていたから、こちらの機嫌には敏感みたいだ。
フッ……まあ、安心しろレオン。お前を潰すのは今じゃない────実力テストのときだ。
せっかくだから、徹底的に叩きのめしてやる。
リアムに見えないよう口元に手を当て、私は思い切り口角を上げた。
今の私はさぞかし、恐ろしい顔をしていることだろう。
「お父しゃま、先生との模擬戦はいつれすか?」
「今日は一応視察で来たから、明日だな。どうせ理事長は暇だろうし、予定は空いてるだろう」
「分かりました!」
理事長を暇人扱いするリアムを見上げ、私はニッコリ笑いかける。
さあ、レオン────お前の命日は明日だ!!覚悟しておけ!!絶対にぶっ殺してやる!!
と心に誓い、私は怯え切る理事長センセーに目を向けた。
「せんせぇ、明日はよろしくお願いしましゅね……?」
「……ハイ」
早くも死を悟ったレオンは、どこか遠い目をしていた。