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第109話『戦闘再開』

 忌々しいと言わんばかりに殺伐としたオーラを放つアルフィーは、クシャリと顔を歪めた。

不満げに眉を顰める彼に対し、私は『酷い言い様だな』と肩を竦める。


「平和を脅かす存在と言うが、リアム達はまだ何もしていないだろう?」


「それは現時点での話でしょ?これから先もそうとは、限らない」


「それを言ったら、何もできないだろ。お前は細かいことをいちいち気にしすぎだ」


「そういう戦姫は楽観視し過ぎだけどね」


 『ああ言えばこう言う』とは、まさにこの事で全く話にならない。

改めて、アルフィーとは価値観が合わないのだと実感した。


「極端な話、私達はただ気に入った奴らを庇っているだけだ。そこに理由なんて、ないだろう?」


 『好きか嫌いか』と同じくらい極端な理論を述べ、私は小さく息を吐く。

呆れたように苦笑いする私を前に、アルフィーは思い切り顔を顰めた。


「……愚かな人間達を庇うなんて、馬鹿馬鹿しい。全くもって、理解不能だよ」


 『頭がおかしい』と吐き捨て、アルフィーは指パッチンと共に風の刃を生み出す。

和解は不可能だと理解したのか、ようやく戦闘態勢に入った。

覚悟を決めたアルフィーの前で、私はフッと笑みを漏らす。


「人間達が愚かなことは、否定しない。私も度々そう感じるからな。ただ、全てを悪だと決めつけるのは、どうかと思うぞ」


 『力を持っている=悪』ではないと諭し、私はアルフィーの短慮を指摘した。

でも、あちらはもう私の言い分に耳を貸す気はないようで、眉一つ動かさない。

『どうでもいい』と言わんばかりの態度に呆れつつ、私はパッと手を振り上げた。


 1000年経った今でも、アルフィーと分かり合うのは無理そうだ。まあ、こればっかりはどうしようもないな。


 『相性が悪かったと思うしかない』と諦め、私は苦笑を漏らす。

ピリピリとした空気を肌に感じながら、私は勢いよく手を振り下ろした。

刹那────氷の矢と風の刃が発射され、互いにぶつかり合う。

それを合図に戦闘は再開され、激しい攻防戦に発展した。


「接近戦に持ち込むぞ、レオン」


 無惨に砕け散った氷の矢を前に、私は早口で捲し立てた。

接近戦に向けて氷剣を作成する中、傍に控えるレオンは『おう!』と元気よく返事する。

そして、冷気を打ち消すほどの強い熱気を放つと、背中に炎の翼を生やした。

火の粉を撒き散らす赤い翼は、どこか幻想的で美しい。


 見た目に反して、火力はエゲつないけどな……。

戦姫(わたし)の体をも焦がした炎だから、侮れん。


 懐かしい記憶を呼び起こしつつ、私は完成した氷剣に手を伸ばす。

体型に合わせてサイズを調整したため、問題なく手に馴染んだ。

ひんやりとした感触に目を細める私は、透き通るように白い剣をしっかりと構える。


「行くぞ、レオン」


「おう!」


 『待ってました』と言わんばかりに先陣を切るレオンは、手に炎を宿した。

素手で戦うつもりなのか、燃える拳をグッと握り締める。

脳筋思考のレオンは、猪突猛進を体現するかのようにアルフィーとの距離を一気に縮めた────かと思えば、直ぐさま殴り掛かる。


 分かってはいたが……本当に馬鹿だな。

考え無しに突っ込んで、勝てる訳ないだろ……相手は、あのアルフィーだぞ?


 やれやれと肩を竦める私は、全く変化のない戦闘スタイルに呆れ返る。

『1000年も経ったのに、何も成長していないのか……』と肩を落とす中、レオンは見事空振りした。

案の定とも言うべき結果に、私は『言わんこっちゃない』と(かぶり)を振る。

そして、素早くアルフィーの背後に回ると、氷剣を振り下ろした。


「っと……そんなに上手くいく訳ないか」


 風の刃で反撃された私は数歩後ろへ下がり、氷剣を振る。

力任せに空気の塊を弾き飛ばすと、少し手首が痛んだ。


 チッ……幼児の体は軟弱だな。これしきのことで、痛みを感じるとは……色々と厄介だ。


 眉間に皺を寄せる私は、扱いづらい体にイライラしながらも、治癒魔法を展開する。

『今だけ、痛覚を遮断するか……?』と考えつつ、私は完治した手で剣を振るった。

レオンの動きに合わせて、斬撃を繰り出し、アルフィーに大打撃を与える────つもりが、どうも上手く行かない。

やはり、転生体では色々と限界があるらしい……。


 まあ、それでも────アルフィーからすれば、大分キツいだろうが……。

なんせ、神殺戦争の英雄を二人も相手にしているのだから……。


 『“深淵の知者”とて、一筋縄ではいかない』と考えつつ、私は風の矢を薙ぎ払う。

少し欠けてしまった氷剣を修復して、反撃へ出ると、アルフィーはあからさまに顔を顰めた。

レオンと攻撃のタイミングを合わせたせいか、えらくご立腹である。

アルフィーは、ギシッと奥歯を噛み締めると────素手で攻撃を受け止めた。


 焼け爛れた左手と凍りついた右手を前に、彼は『ふぅ……』と一つ息を吐く。

そして、何とか痛みに耐えると、私達を投げ飛ばした────かと思えば、情け容赦なく追い討ちを掛ける。

凄まじいスピードで迫ってくる土の槍を前に、私達は急いで体勢を整えた。

追い風を吹かせて立ち止まり、土の槍を粉砕する。


「まさか、素手で防ぐとは思わなかったな……」


「まともに食らうよりかは、と考えたんだろう。アルフィーはお前と違って、賢いからな」


 レオンの発した疑問に嫌味で答えた私は、氷剣を構えた。

『どうやって、距離を詰めようか』と悩みながら、アルフィーの様子を窺う。


 急所こそ避けたものの、それなりに大きな怪我を負っている。

ならば、このまま一気に畳み掛けるべきだろう。


 短期決戦を狙う私は、『またアルフィーの苦手分野(接近戦)に持ち込もう』と考えた。

乱れた呼吸を整えながら、私はタイミングを見計らう。

『いつ突撃しようか』と思考を巡らせる中────先に動いたのは、アルフィーだった。

『このまま後手に回る訳にはいかない』と考えたのか、彼は台風を巻き起こす。

突然の強風に晒された私達は、空中戦において最も大切なバランスを奪われた。


「っ……!アルフィーのやつ、小癪な真似を……!」


「一歩間違えたら、自分もヤバいのによくやるな……!」


 台風に吸い込まれそうになる私達は結界を張って、何とか耐える。

とはいえ、これも時間稼ぎに過ぎない……根本的な解決にはならなかった。


 このままでは突撃どころか、身動き一つ取れない……早急に何とかしなくては。


「レオン、台風はこっちで何とかする。だから────突撃の準備だけ、しておけ」


 『今度は空振りするなよ』と告げ、私は一気に魔力を高める。

そして────エトワール島に匹敵するほど、大きな台風を作り出した。

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