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第10話『フラーヴィスクール』

 それから間もなくして、私達はモーネ国一の士官学校────フラーヴィスクールに到着した。

ここは軍が後ろ盾に入っているだけあって、実習を多く取り入れている学校だ。

軍用施設の見学や軍人の一日体験はもちろん、実際に戦場へ連れて行かれることもある。

軍人とは何か、どんな仕事をするのか、何を求められるのか。

軍人になるにあたって必要な技術、知識、経験を徹底的に叩き込まれる学校だ。


 リアム曰く貴族も多く在籍しているが、実力がなければ入学は許されない。

要するに、『パパに頼んで裏口入学!』は不可能なのである。

というのも、フラーヴィスクールの理事長がモーネ国の王族すら手を出せないほどの権力者だから。

そんな奴に喧嘩を売る馬鹿など、居ないだろう。

居たとしたら、驚きだな。


「父上、僕はこれで失礼します。もうすぐ、ホームルームが始まりますので」


「ああ。しっかり勉強して来い」


「はい。それでは」


 ルーカスは校門の前で一礼すると、校舎前の広場を駆け抜けていく。

その後ろ姿を一瞥し、リアムはゆっくりと歩き出した。


「勝手に校舎に入って、いいんれすか?」


「問題ない。母校だから、道は分かる」


「…………」


 いや、私が言いたいのはそういう事じゃなくて……。

案内役の教師が来るまで、待たなくて良いのか?って聞いているんだが……。

客人とは言え、好き勝手に動いていい訳ではないだろう。

迷子にならないから行ってOKとか、そういう問題じゃない。


 『どういう思考回路をしているんだ?』と呆れ返る中、セバスが一つ息を吐く。

どうやら、私と同じ疑問を抱いているらしい。


「坊っちゃま、もうすぐ案内役の教師が到着しますのでここで待っていてください」


「いや、だが……」


「待っていてください」


「……分かった」


 セバスに『待っていろ』と強く言われ、リアムは仕方なく首を縦に振る。

拗ねたように口先を尖らせているが、反論するつもりはなさそうだ。


 凄いな、セバス……リアムの暴走をこうもあっさり止めてしまうとは。

お前には、是非とも長生きして頂きたい。リアムのストッパー役として。


 『今後とも、よろしく頼む』と心の中で合掌し、セバスの体調を気遣うことを決意した。

その瞬間────音もなく、“奴”が現れる。


「いやぁ、待たせてすまない。案内役の教師が病欠で休ん……はっ?」


 ライオンの鬣のように長い薄茶色の髪と髭。

赤に近いマゼンダの瞳は爛々としており、見る角度によっては炎に見える。

また、がっしりとした体つきは逞しく、均整の取れた筋肉は服の上からでもよく分かった。

銀の鎧を身に纏い、ワインレッドのマントを風に靡かせる彼の名は────レオン。

かつて、『紅蓮の獅子』と恐れられた猛者の一人だった。


 前世の私と面識のある数少ない人物で、力の強さだけで言えば恐らく世界一。

私すらも凌ぐ。

まあ、総合的な実力はこちらの方が上だが。

実際、手合わせで何度も勝利を収めているし。


 それにしても────まだ生きていたんだな。相変わらず、しぶとい奴だ。


 この世界の寿命は、魔力量と生命力に比例する。

そのため、同じ人間でも死期は全然違う。

まあ、レオンほど長生きする奴はそうそう居ないが。


 以前より少し老けたが、まだ30代で通る外見だ。

とてもじゃないが、1000歳越えのジジィには見えん。


 まじまじとレオンの顔を見つめ、私は『まだまだ長生きしそうだな』と考える。

妙に落ち着いている私を前に、レオンは混乱しっぱなしだった。

そりゃあ、そうだ。

かつての仲間が、幼女姿で現れたら誰でも驚く。

『こいつは私が死んだことさえ、知らないだろうし』と肩を竦める中、レオンは僅かに身を乗り出した。


「な、なあ……お前、せん……ぐぅ!?」


「しぇんせぇ、どうしたのぉ?お腹痛いのかなぁ?(今すぐ、その口閉じろ。殺すぞ?)」


 私は微弱な魔力でレオンの足の小指を包み込み、思い切り内側に圧迫した。

魔法ですらない、魔力によるただの暴力にレオンは涙目になる。

まあ、何故か押さえているのは小指じゃなくて腹だが。


 お前、今私のこと『戦姫』って呼ぼうとしただろ?今ここでその名を呼んだら、確実に殺す。

古い知り合いであろうと、私の生活を脅かすのなら容赦はしない。


 ニコニコと笑いながら無言で圧をかければ、レオンは怯え切った表情でコクコクと頷いた。

どうやら、私の言いたいことが分かったらしい。


 とりあえず、小指は解放してやるか。このままだと、骨が数本折れそうだし。


 スイッと人差し指を横にスライドさせて、私は魔力の膜を消滅させた。

すると、レオンは見るからに安堵する。


「た、助かった……本気で骨三本くらい折られるかと……」


「骨が三本……?折れる……?」


「おっほん!」


「え?あっ!いや、その……た、ただのジョークだ!それより、校内を案内する!付いてきてくれ!」


 私のわざとらしい咳払いに肩をビクつかせたレオンは、そうそうに話を切り上げる。

実にわざとらしい誤魔化し方だが、まあ良いだろう。


 それより、一つ気になることがある。

何でこいつは、ここに居るんだ?

見たところ、フラーヴィスクールの教師のようだが。


「案内役が理事長(・・・)とは驚きだな」


「さっきも言ったけど、予定していた案内役の教師が病欠で休みなんだよ。代役を立てようにも、他の教師は授業で忙しいし……だから、仕方なく暇人の俺が案内役を引き受けることにしたんだ」


「暇人なんだな」


「ああ、俺はただのお飾りだからな。英雄と呼ばれる俺が理事長の座に就いているだけで、王族連中は満足なんだよ。まあ、仕事がないのは楽で良いけどな」


「理事長は昔から変わらないな」


「まあな」


 えーと……色々待ってくれ。

会話の途中で飛び交う情報が多すぎて、どこから突っ込んでいいのか全く分からん。

だが、とりあえずこれだけは言わせてくれ。

レオン、お前────ここの理事長だったのか!?

何もかも大雑把な上、人にものを教えるのが下手くそなこいつが学校のトップなど……世も末だな。


 あと、妙にリアムと仲良くないか?

卒業生とはいえ、理事長と生徒がこんなにもフレンドリーでいいものなのか。

いや、まあ私には関係ない話だが。


 それより、この状況をどう乗り切るか考えるべきだろう。

私がボロを出すことはないが、レオンがうっかり口を滑らせることはありそうで怖い。

こいつの口の軽さは、ヘリウム並みだからな。守秘義務なんて、あったものじゃない。

嗚呼……先が思いやられる。

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