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第102話『謎の答え』

 地上の守りを水蓮とラウムに委ねた私は、テディーと激しい戦いを繰り広げる。

お互い、まだ本気じゃないとはいえ、既に大量の魔力を消費していた。

あくまで一般人から見れば、の話だが……。


 でも、余裕のある戦いとは言えないな……このあと、アルフィーとも戦わないといけないから、全力は出せない。できるだけ、魔力と体力を温存して、勝ちたいところだな。まあ、そう簡単にはいかないだろうが……。


 一筋縄ではいかない戦いを前に、私は僅かな焦りを覚える。

逸る気持ちを必死に抑えながら、魔法で作った氷の槍を掴んだ。

すると、テディーもこちらに合わせるように雷の槍を作り上げる。

コントロールの難しい雷を、武器化させる技術は『素晴らしい』の一言に尽きた。


「ねぇ、戦姫〜!いい加減、降参したらどう〜?大人しく死んでくれれば、下の子達は助けてあげるよ〜?」


 『悪い条件じゃないでしょ〜?』と微笑むテディーは、再び交渉を持ち掛けてきた。

でも、テディーのことを一ミリも信用していない私は、直ぐさま首を左右に振る。


「断る。お前の性格からして、無事に帰すとは思えない。どうせ、皆殺しにするつもりだろ?」


「あれれ〜?バレてた〜?その通りだよ〜!だって、ムカつくんだも〜ん!大して強くもないくせに、戦姫に大切に思われているなんて!僕はどれだけ頑張っても、戦姫の心に入り込めなかったのに……!」


 『あまりにも理不尽だ』と憤慨するテディーは、醜い嫉妬心を露わにする。

鋭い目付きで地上に居る者達を睨みつけると、テディーは苛立たしげに舌打ちした。

彼の感情に呼応するかのように雷鳴が轟き、地上に雷が落ちる。でも、水蓮の結界に阻まれ、浄化された(消滅した)

単なる八つ当たりとしか思えない行動を前に、私は密かに溜め息を零す。


 嫉妬深いのは、相変わらずだな。テディーは昔から、私の周りに居る異性に過剰反応して、度々トラブルを引き起こしていた。酷い時は女性にも嫉妬していたし……おかげで、私の周りには英雄クラスの知人しか残らなかった。まあ、あのときは人との繋がりに大して興味がなかったら、別に構わないが……。


 テディーの八つ当たりを恐れて、離れていった者達に、私は毛ほどの関心も示さなかった。

ほとんどの者が人脈作りと勧誘目的だったので、顔すら覚えていない。

『媚びを売られたのは覚えている』と考える中、テディーは雷の槍をこちらに投げつけてきた。


「何であんな奴らに心を開くの……!?僕は1000年以上も、戦姫を想ってきたのに……!こんなのあんまりだよ!」


 駄々っ子のように喚き散らすテディーは、ちょっと泣きそうだった。

『何で』『どうして』と繰り返す彼を前に、私は氷の槍を投げ返す。

向かってくる雷の槍に氷の槍は激突し、音を立てて砕け散った。雷の槍もまた、強い衝撃を受けて、霧散する。

直ぐさま新しい槍を作った私は、それを思い切りテディーに投げつけた。


「時間は関係ない。私はただ、あいつらを気に入っただけだ」


「じゃあ、僕のことも気に入ってよ……好きになってよ!」


 食い気味にそう答えるテディーは、電気を纏った手で、槍を叩き落とした。

真っ二つに折れた槍は、そのまま砂浜へと落下する。

癇癪を起こした子供のように暴れるテディーは、涙目でこちらを睨んだ。

恨めしいと言わんばかりの眼差しに、私は『はぁ……』と深い溜め息を零す。


「悪いが、それは無理だ。少なくとも、自分の気持ちを押し付けてくる内はな。お前はもう少し、相手の気持ちに寄り添うことを学べ」


 テディーの気持ちを蔑ろに扱っていた自覚はある。でも、一方的に気持ちを押し付けられる私の身にもなって欲しい……。変わる努力も、相手を気遣う心も持たず、ただ好きだと伝えるのは自己満足でしかないことをいい加減、分かってくれ。


 『気持ちの押し付けは迷惑でしかない』と言い切り、私は氷の矢を複数顕現させた。

白い矢を躊躇いもなくテディーに放つと、彼は雷の槍を再び作り出す。そして、向かってきた矢を全て薙ぎ払った。


「じゃあ、戦姫の意思に従って、大人しくしていれば良かったの!?最低限の接触しかせず、遠くから見守っていろと……!?そんなの無理だよ!戦姫を振り向かせるどころか、接点を持つことすら出来なくなるじゃん!」


 極端すぎる言い分を振りかざし、テディーは雷の槍をこちらに投げ飛ばした。

冷静に土魔法を展開した私は、石のように硬い矢を幾つか生成する。

魔力消費を最小限に抑えつつ、私は土の矢を放った。勢いよく飛んでいくソレは、雷の槍にぶつかり、弾け飛ぶ。

でも、きちんと槍の勢いを殺し、地上へ落としてくれた。


「お前の思考回路は相変わらずだな。話し合いは難しそうだ」


 『これ以上、話しても無駄だ』と見切りをつける私は、やれやれと肩を竦める。

諦めの早い私に、テディーは何か言いたげだが……グッと堪えた。


「……そうみたいだね。やっぱり、戦姫を殺すしか道はないようだ」


 僅かに殺気を放つテディーは、異様なまでに『殺し』にこだわる。

一種の執着とも言える感情に、私は今更ながら疑問を抱いた。


 何故、そこまで私の死に固執するんだ?アルフィーと手を組んでまで、することか?嫌いな奴を排除する為ならともかく、好きな奴を殺そうとするなんて……訳が分からない。テディーは一体、何を考えているんだ?


 『何がどうして、そうなった?』と思い悩む私は、過去の出来事を思い返す。

テディーとアルフィーは、元々そこまで仲が良くなかった。極端に悪い訳ではないが、感情的なテディーと理知的なアルフィーでは、反りが合わなかったのだ。だから、お互い積極的に関わろうとはしなかった……と思う。なのに、何故今回は共闘しようと思ったのか……まさに謎だった。


「なあ、テディー。一つ聞きたいんだが────何故、私を殺そうとするんだ?」


 純粋な疑問をぶつける私は『お前は私のことが好きなんだよな?』と思わず、確認してしまう。

自分でも何を言っているんだと思うが、大事なことなので聞いておきたかった。


 私の死によって得られるメリットを他の方法で補えるなら、交渉の余地はあるかもしれない。もちろん、内容によるが……。


 『ただ殺したいだけ……ではないよな?』と不安に思いながら、私はテディーの返事を待つ。

どんな望みなのかと予想する中、彼は愉快げに目を細めた。


「戦姫を殺したい理由なんて、決まっているじゃん────戦姫の死体(・・)が欲しいからだよ」


 当たり前かのようにそう言い切るテディーは、ゆるりと口角を上げる。

狂愛と読んで差し支えない感情を向けられ、私は動揺のあまり、硬直した。

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