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第99話『それぞれの役割』

「俺は────戦姫を見捨てない!見殺しなんて、以ての外だ!絶対に助ける!たとえ、アルフィーやテディーと敵対することになったとしても!俺にとって、戦姫は何ものにも代えがたい親友(・・)だから!」


 アルフィーやテディーよりも大切な存在だと言い切ったレオンは、水蓮の手首をガッと掴む。

水蓮は彼の覚悟を推し量るようにじっと目を見つめ返すと、パッと手を離した。

どうやら、水蓮にもレオンの真剣さはよく伝わったらしい。


 水蓮には嫌な役をさせてしまったな……後できちんとお礼を言わなくては。レオンにも『辛い選択をしてくれて、ありがとう』と伝えないと。


 『まだまだやることは山積みだ』と苦笑しながら、私は改めてアルフィー達と向かい合った。

黙って、こちらの様子を見守っていた彼らは『話し合いはもういいの?』と尋ねてくる。

ちゃっかり回復している二人の魔力に、溜め息を零しつつ、私はゆるりと口角を上げた。


「時間を取らせて悪かったな、二人とも。さあ────第二ラウンドを始めよう」


 演技がかった動作で両手を広げる私は、戦闘再開を宣言する。

と同時に、真正面から雷の矢と土の槍を投げ付けられた。

一直線に向かってくる攻撃を前に、私はただひたすら傍観する。何故なら────私自ら、防ぐ必要も避ける必要もないから。


「────戦姫に仇なすものは何であろうと、許さない」


 怒気を孕んだ声と共に、防御魔法を発動させたのは────他でもない水蓮だった。

水の気を多く含んだ魔力は、まるで渦潮のように円を描きながら、半透明の障壁となる。

私達の前に張られた薄い結界は見た目に反して、とても頑丈でアルフィー達の攻撃をあっさり防いだ。

バチッと光る雷も水蓮の結界に取り込まれ、そのまま浄化(・・)される。


 いつもなら障壁に触れた瞬間、雷は水蒸気爆発を引き起こすのだが……水蓮独自の能力により、阻まれた。水の気を多く含んだ水蓮の結界は浄化能力を持っており、対象を消滅させることが出来る。と言っても、存在ごと消滅させるにはそれなりに時間が掛かるため、今回はまず熱を浄化したのだろう。落雷による、水蒸気爆発の原因は雷の持つ熱にあるから。


 熱を浄化させるなんて、誰にでもできる芸当じゃない。魔力そのものに浄化能力を有している水蓮だからこそ、できる超人技だ。

私もやろうと思えば出来るだろうが、複雑な術式とコントロールを要するため、あまりやりたくないというのが本音だった。


「チッ……!僕との相性悪すぎなんだけど!」


「まあ、そう焦らないで。確かに水蓮の浄化能力は厄介だけど、攻撃力はテディーの方が上なんだから。僕達なら、勝てるよ」


 苛立つテディーを宥め、アルフィーはゆるりと口角を上げる。

知略と分析に長けたアルフィーだからこそ、防御特化の水蓮では自分達に勝てないと確信しているようだった。


 確かに水蓮を前線に出すのは、愚策でしかないな。決して弱い訳ではないのだが、神殺戦争の英雄を相手取るには、少々火力が足りなかった。水蓮には、防御とサポートに徹してもらった方がいいだろう。そうだ、どうせなら────。


「────水蓮は地上に居る者達の守りに徹してくれ。一応、結界を張って守っているのだが、魔力消費が激しくてな……出来れば、代わってほしい」


 『このままでは、満足に力を発揮できない』と語り、私は背後に立つ水蓮に視線を送った。

私に匹敵するほどの魔力量と防御能力を持つ水蓮になら、安心して任せられる。きっと、津波や落雷が来ても問題なく対処出来るだろう。

絶対的信頼を寄せる私に対し、水蓮は少し迷うような動作を見せる。

『何故、あいつらを守らないといけないのか』とでも言うように、眉間に深い皺を作った。でも、最終的には諦めたように項垂れる。


「分かった。非力な人間達は俺の方で、完璧に保護する。傷一つ付けないと約束しよう」


「ああ、感謝する」


 渋々といった様子で頷く水蓮に、私は素直に礼を言う。

そして、残りの二人にもそれぞれ役割を与えるため、思考を巡らせた。


 まず、ラウムにアルフィー達の相手は無理だ。足止めすら、出来ないだろう。レオンは……脳筋だが、戦闘能力は非常に高い。でも、旧友相手に本気で戦えるかは怪しい……。私に味方すると決心したとはいえ、アルフィー達を殺せるほどの度胸はない筈……となると、時間稼ぎで精一杯か。


「ラウムは軍人や生徒達の手当てをしてくれ。余裕があれば、水蓮のサポートもしてほしい」


「りょーかーい!任せといてー!」


 ビシッと敬礼するラウムは、人間達の世話を二つ返事で了承した。

地上に居る者達の中には、ラウムを召喚して散々な目に遭った生徒も居るのだが……本人は気にしていないらしい。そもそも、暴れ回った時の記憶を覚えているかどうかも怪しかった。

『これは完全に忘れているな』と苦笑しつつ、私はラウムに礼を言う。

そして、真剣な面持ちでこちらを見つめるレオンに目を向けた。


「レオン、お前には────アルフィーの足止めと時間稼ぎを頼みたい。可能なら、倒してくれても構わないが、まあ……脳筋のお前には無理だろうな」


「おい!ちょっと待て!諦めるな!」


 微塵も期待していない私に対し、レオンは直ぐさま噛み付く。

でも、アルフィーの策略に何度も嵌った経験があるからか、『俺だって、出来る!』とは言わなかった。


 戦闘能力自体はレオンの方が高いが、知略に長けたアルフィーに勝つことは難しい。あいつの頭脳はレオンとの実力差を埋めるほど、優秀だから。たとえ、レオンに旧友を殺す覚悟があったとしても、一筋縄ではいかないだろう。


 同じ神殺戦争の英雄として、アルフィーに一目置いている私は『全くもって、厄介な相手だ』と肩を竦める。

そして、未だにギャーギャー騒いでいるレオンを睨みつけた。

ビクッと肩を震わせる彼は、尋常じゃないほどの冷や汗を垂れ流す。


「ナ、ナンデモアリマセン……」


 蚊の鳴くような声でそう呟くレオンに、私は『そうか』と素っ気ない返事をした。

熊のような巨体を縮こまらせる彼の横で、私は一つ息を吐く。

残った役割を脳裏に思い浮かべながら、憂いげな表情を浮かべた。


「私はテディーの相手をする。なるべく、早く片をつけてレオンの加勢に行くから、そのつもりで居てくれ」


 最も面倒な役割を己に課した私は堪らず、溜め息を零した。

憂鬱な気分になる私は、ある意味一番厄介な相手とも言えるテディーに思いを馳せる。でも、これは私にしか出来ない役割だった。


 テディーは“紅蓮の獅子”に匹敵するほどの火力を持っている。おまけに物凄く器用な奴だ。雷魔法の操作に関しては、世界一と言える。だから、真っ先に潰す必要があった。

こいつを戦闘不能にすれば、かなり戦いやすくなる。少なくとも、火力で押し負ける心配はないだろう。


 個人的にはあまり戦いたくない相手だが、スピーディー且つ確実にテディーを倒せるのは私だけだ。レオンでも可能ではあるが……かなり時間が掛かってしまう。だから、私がこの役割を引き受けるしかなかった。


 『損な役回りだ』と嘆く私は、やれやれとでも言うように首を左右に振る。

そんな私とは対照的に、テディーは『戦姫が相手をしてくれるの?』と目を輝かせた。

嬉しそうな彼を前に、私は嫌悪感や不快感を吐き出すように咳払いする。

そして、何とか気持ちを切り替えた私は、彼らとの戦いに勝つため、腹を括った。


「それじゃあ、それぞれの役割を果たしてくれ。健闘を祈る────一同、散開!」


 硬い声色で行動開始を宣言すれば、水蓮とラウムは一気に下降していく。

地上に張った結界を解除する私は、レオンと共に魔力を練り上げるのだった。

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