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永遠の夏  作者: 赤鉄 ロボ
5/5

5輪目 黄色の女神

隣の彼女とは六時間目まで話すことのないまま時間だけが過ぎていった。

「起立!気をつけ、礼っ」

「さようなら!」

「気をつけて帰るんだぞ〜。向日ーちょっと来てくるか?」

彼女は先生に呼ばれて話をしていた。

「おーす、ゆーちゃん!部活行こうや!」

「行こうかー」

「まってぇ〜、わたしも行く〜」

紅葉が後から早歩きでついてきた。理科室へ早足で向かう。

理科室の扉をとーちゃんが勢いよく開けた。

「こんにちは!かっちゃん〜」「桂先生こんにちはー」「おっす!桂先生!」

「あら、三人ともお揃いでーこんにちは〜」

「かっちゃん、今日は忙しくなかったんですねぇ」

「紅葉ちゃん、今日はたまたま会議がなかったのよー。あと、桂先生って呼んでって言ってるのに…」

「まぁ、久しぶりに部活ができて良かったねぇ〜」

「それはそうだけど……」

先生の言葉を遮るようにとーちゃんが言った。

「それはそうとして先生、今日はなんの活動をするんですか?」

「活動したいんだけどねーその前に大事な話があるのよ」

「へぇ?大事な話って?」「何かあったんですか?」「何かあったのか?」

俺達は口々に先生に問いただす。

「えーとねぇ…ちょっと言いづらいのだけど…この部活ねー部員が少ないから廃部になってしまうかも…」

「廃部??」

口を揃えて叫んでしまった。俺達は驚嘆した。

「廃部を回避するためにはあと一人必要なんだってー簡単には回避できると思うけどね」

「なんだ、一人かー。先生、焦らせんなよー」

とーちゃんが安心したように言った。

「でも、とーちゃん。入部してくれる人ってそんな簡単に見つかるのか?」

「そうだな…いないよなー。紅葉、探してきてくれよー」

「え…わたしが…、知り合いなんていないしなぁ…」

思い悩んでいた時、理科室の扉が開いた。俺達は扉の方を振り返った。

「せ、生物部に入部さ、させてくださいっ…」

そう言って俺達に廃部の危機を乗り越えさせてくれたのは隣の席の彼女だった。

「あら、三人ともこれで廃部は免れて良かったねー。とりあえず座って、座ってー」

「あ、有難う御座います…」

彼女はそう言い紅葉の隣に座った。

「入ってくれて有難うー。葵ちゃん…だよね?今日、転校して来たばかりの?」

「そ、そうです…」

「敬語とか、使わなくていいからね〜」「今日から部活仲間として宜しくなー。部活の危機を救った女神みたいな感じだなー」「よ、よろしく」

「よろしく…」

「えっと、新入部員の向日 葵さんでよろしいですか?」

「はいっ、そうです」

「かっちゃん、初めての人には敬語使ってる〜。先生らしいね」

「そりゃあ、先生だからね。紅葉も私に敬語ちゃんと使ってねー」

「先生が敬語なんて珍しいよなー」

「二人とも、先生をからかわないっ」

キーン、コーン、カーン、コーン…

ふと、窓を見ると空一面が茜色に染まっていた。雲が太陽を遮り、桃色のように淡く薄くなっていた。

「みんなー。もう完全下校時刻だね」

「えーもう終わっちゃったの〜」

「って、活動してないけどな…夏だから時間長くなると思ったのにな…」

「ゆーちゃん、今って十二月なんだぜ。日の落ちる速さは変わってないんだなーって早くしないとバスが行ってしまうやん!」

「じゃ俺、先行くわー桂先生さようなら。俺、バス停で待ってるから」

俺は先に理科室から出て階段を下っていった。

「ゆーちゃん、待ってよぉ〜。葵ちゃんも行こっ」

紅葉が隣の席の彼女の手を引っ張って勢いよく階段を降りて追いかけてきた。

「紅葉、待てよー」階段の上の方でとーちゃんの声が響き渡る。


「皆さん、さようなら…」私が挨拶した時には部員は居なくなっていた。

シーンと静まりかえる理科室からバス停と向かう四人の姿が夕焼けとその影が共に映っていた。

「なかなか、活動できなくてごめんね…」

私は夕日に照らされる四つの陰を窓越しから眺めながらそう呟いた。


「なぁ、とーちゃんバス遅いよな…」

「ほんまに遅いなー。十分ぐらい遅れとるやろー」

「まぁ、まぁそんなに焦らなくてもいいんじゃない〜?」

「相変わらず、紅葉は呑気だよな…」

「そ、そんなことないよぉ。ゆーちゃんだって、宿題してこないし、今日も朝遅れてたでしょー」

「それはそうだけど…」

「なんか、昔だったら紅葉もゆーちゃんも喧嘩してたのにー。お互い、大人しくなったなー」

「そりゃあ、もう高校生だしな…」

「わ、わたしだってこんなことでもう怒ったりなんかしないよぉ」

夕日がバックライトみたいに紅葉を照らしていた。まるで色づいた葉のように見えた。


ピーピーピー…

「バス、来たね〜」「いつもより少し早いなー、暑いし早く行こうぜ!」

駆け込み足で俺達はバスに乗車した。

窓からは西日で山成高校の校舎が茜色に光を反射させて輝いていた。

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