幸せです
シルビオさんが居なくなってから、約一年。
皮肉な事に、世界は今日も平和です。
「おっはよーぅ!リーネ!」
「おはようございます。ニーシャさん」
今私は、学園に通っています。
この方は友達のニーシャさん。クラスで一人ぼっちだった私に、初めて声をかけてくれた人です。
ウェンティ学園。
ここは、元々は対ルインズ用に作られた軍の施設のような学園で、とても大きな建物がそびえ立つ豪華な所です。
しかしルインズ......魔物は、人類と和平を結び、お互いに話し合うことに決めました。
今では両種族とも仲良く、上手く共存出来ていると思います。
その事により、魔法科学園での兵器開発や運用を廃止。完全に武装を解除した学園となりました。
「リーネはもう進路決めた?」
「ううん。やりたいこととか見つからなくて」
「だよねー、まだ私達一年生だってのに。将来の事なんて分からないよね」
ルインズを狩る、『メシア』という職業が無くなった以上、世の学生達は職業難に陥っています。
私もその一人で、ただでさえ前科の大きな私は、こうして学校に通えている時点でもありがたいことなのに。
ちなみに、学校には内緒にしてもらっています。これは、政府の配慮だそうです。
「あ!昨日の課題、まだ終わってなかったんだ!ごめんリーネ......先、行ってるね!」
「え......あ、うん」
ニーシャさんはそう言うと、走って教室へと向かってしまいました。
ニーシャさんは忘れん坊で、結構な頻度で何かしらを忘れます。教科書だったり、ノートだったり......おっちょこちょいな方です。
「あ」
お弁当、お家に忘れて来ちゃいました......。
私も、おっちょこちょいな人ですね。
──────────
今じゃ魔物は、色々なところで人類に貢献してくれています。
例えば、学園の先生です。
「それでは、キョウのジュギョウは、マモノのレキシについてです」
魔物学という授業の担当教師、グィル先生です。
確か、ガーゴイルと言う種の魔物だったと思います。
しかし、人よりも優れた知能と身体能力を持っています。特にグィル先生は他の魔物よりも賢くて、とても礼儀正しいです。
「えー、マモノというものは、ナンマンネンもマエから────────」
私は、学校が好きです。
今まで知らなかったこと、見た事なかったこと、聞いた事なかったことを、ここで学ぶことが出来ます。
それに、初めての友達も出来ました。
こんな気持ち、今まで味わったことありません。
「リーネ、お昼食べよー」
「はい」
午前の授業が終わり、お昼。
私達は、いつも教室で一緒に食べます。
クラスメイト達は皆食堂へ行ってしまっているので、ほとんどの人がいません。しかし、それが良いと私は思っています。
この静かな教室で─────
「キャー!勇者様よー!!」
「勇者様!?」
「何ィ!!?勇者が来ているのかァ!!」
何やら外が騒がしいです。
何かあったのでしょうか?
「リーネ見て!あれ!勇者じゃない!?」
「勇者......?」
窓の外を見るニーシャさんの、指さす方を見てみます。
すると、大きなドラゴンが校庭へ降り立っていました。
その上には人の姿......銀色に光り輝く鎧が眩しいです。
「まさかこの学園に勇者様が来て下さるなんて!やっぱりカッコイイなぁ勇者様......一体どんな素顔をなさっているのかしら」
「......」
「リーネはどんな顔だと思う?」
「え?」
どう......だったでしょうか。
私はそんなに、「カッコイイな」と感じた事はありませんが......。
「良い人だとは思います」
「......ふっ、リーネらしいね」
そう言って、ニーシャさんは笑いました。
私らしい......ですか、よく分かりません。
「それにしても、やっぱり勇者様は凄いよ。だってあの魔王を倒してしまったもの」
「......」
魔王......。
「そうですね。さすが勇者様です」
私の嫌な話題に行く前に、話を変えようと思いました。
魔王の話は......あまり好きではありません。
「そうだ。次の授業の準備をしないと......」
「リーネさーん、先生が呼んでるわよ」
突然、クラスの子が私を呼びました。
どうやら、先生に呼び出しされたみたいです。
「ニーシャさん、すいません」
「いいよいいよ。ほら、行ってきな?続きはまた後で話そうね」
「はい!」
私は、職員室へ向かいます。
私は特に、悪い生徒ではありません。
自分で言うのもなんですが、これと言って悪いことをしているつもりはありません。
ですので、呼び出される理由に心当たりが無いのですが......。
「......?」
職員室の少し奥。学園長室の前に、普段見ないような人影が見えました。
大きなシルエット。
腰には剣を携え、銀色の鎧を身にまとっている。
「久しぶりだね。リーネ、元気かい?」
「アランさん......!」
アランさんは、頭の鎧を外してくれました。
普段は素顔を晒さないように鎧で隠しているのですが、私などの素性を知っている人に対してだけ顔を見せてくれます。
「私は元気ですよ。アランさんこそ、最近忙しそうですね」
「まぁね。俺は勇者だから......これが、アイツとの約束だよ。それよりも悪かったね、急に呼び出したりなんかして」
「先生の呼び出しってアランさんだったんですね」
「あぁ。勇者からの呼び出しだなんて言えないだろう?」
確かに。
そんなことをしたら、私との関係性を聞かれてしまいます。もしバレてしまえば......もう、今の生活には戻れません。
「まぁ俺の正体がバレた所で、この平和がすぐに崩れるとは限らないほどに、今は皆か手を結んで暮らせている。ここまで魔物と人類が仲良くなったことなど、今までの歴史では無かったことだろう」
「そうですね!これもあの人の......」
おかげです。
そう言おうと思ったが、言葉に詰まってしまい、二人とも沈黙してしまいました。
先に口を開いたのは、アランさんです。
「君に、渡したい物がある」
そう言って、アランさんは茶色い巾着袋を手渡してくれました。
私は、それに見覚えがあります。
「これ......」
「忘れて行ったんだろう?お弁当」
そう、お弁当箱です。
「わざわざ持って来てくれたんですか!?ありがとうございます!もしかして......この為だけに学園に?」
「まさか。悪いけど、お弁当はついでだよ。ちょっとこの学園に、忘れ物があってね」
「忘れ物......?」
「そう。アードルフの......ね」
アードルフ......その名前は、あの戦いの後からずっと英雄として慕われている名前です。
勇者の存在で、アードルフは『隠れた英雄』と言われています。
魔王に挑んだ王。アードルフ=ヴェロニアが、勇者が現れるまで時間を稼いでくれていた。
そう言われています。
「アードルフは、あの戦いの前......どうやら色々な魔法学園に通いつめていたらしいんだ。そのうちの一つがここ。《フォートレスガーデン》の開発支部」
「開発......支部」
「関係者は、ここを『武器庫』と呼んでいたらしい。つまり、この学園にはその残骸がまだ残っているはずだと言うことだ」
「なるほど。その残骸を回収しに来たというわけなんですね」
「そういうこと」
アードルフの作っていた武器のほとんどは、私を核としたものばかり。私の魔力があってこその兵器だったらしいです。
だから、残骸だけでは再び戦争をすることは不可能。と言われています。
「もし、その残骸を参考に、新しい兵器を造り出したら......別の核を見つけて、利用出来たら......嫌な可能性というものは尽きないものだ。だから、起こりうる可能性は詰んでおくのさ」
「そういう事でしたか......大変ですね」
「これが仕事だからね」
アランさんは苦笑いをします。
「君も、素性がバレれば何をされるか分からない。少なくとも、讃えられる可能性は低いだろう。残念だが、楽な人生では無いよ」
「いえ。私が選んだ道ですから」
そう、自分で選んだ道。
私は、救助してもらってから二つの道を選べました。
一つは、普通の女の子として生きる道。
もう一つは、保護される道です。
素性を全て明かし、強い監視の上で静かに暮らす。
それは、安全こそらあるものの、とても自由の身とは言い難いものでした。
「私は、普通の女の子とひて生きる道を選びました。今でも、この選択は間違っているとは思いません」
「......ふっ、君も強くなったな。自分で正しいと思った道を選ぶと良いさ。間違っても良い。好きなように生きるんだ。ただ、道を踏み外し過ぎたら、その時は俺が止めよう。その為に、俺はいるのだから」
アランさんは、また鎧を被りました。
「そろそろ行くよ。ごめん、もう少し話していたいけれど、俺は勇者だから......」
「......はい。また、会えますか?」
「会えるさ」
アランさんは、呆気なく答えました。
当たり前かのように。
必ず、会うことが出来るかのように。
「じゃなね。リーネ、それじゃあまた」
「はい。お気をつけて」
そう言うと、アランさんは向こうへ歩いていってしまいました。
今からどこへ行くのかは分かりません。何をするのかも。詳しいことは、私には何も分かりません。
けれど、心配はありません。
だってアランさんは強いですから、シルビオさんよりも......ずっと。
──────────
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい。リーネ」
私は遠慮したのですが、今はオルナレン家の皆様にお世話になっています。
ここでは、メイドという職業を通して色々なことが学べますし、住み慣れた環境なので安心出来ます。
「お弁当は届きましたか?」
「あ、はい!美味しかったです。ありがとうございます、ヴィオレッタさん」
ヴィオレッタさんは、別に犯罪を犯した訳では無いので無事帰宅。
本来の持ち場に戻りました。もうここには戻らないと言っていたらしいのですが、他の職場が見当たらず、再びオルナレン家へ。
シルビオさんのことが嫌いだったわけではないらしいので、毎日平和に暮らしています。
しかし、やはりルインズを狩っていた集団の管理者でもあったので、魔物達には少々嫌われています。
けれど、皆さんが無事で何よりです。
「さて、お疲れの所悪いですが、今から準備をしますよ」
「準備?」
「ええ。歓迎パーティーです」
歓迎パーティー......?
一体、誰のでしょうか。
オルナレン家に招待する人......いや、できる人など、限られてきます。現在は貴族制度が廃止されていて、元貴族の人達は比較的質素な暮らしをしています。他の貴族の家に招待されたり、来客することはありません。
「あぁ、聞かなかったのですね。それならいいです」
聞かなかった?誰かに聞くはずだったのでしょうか。
「誰が来るのかはお楽しみという事で。すぐに用意を始めましょう」
......少し気になりますが、サプライズというのも嫌いではありません。
私は、誰だろうと予想しながら、準備を進めました。
────────
準備と言っても、いつもより多めの料理をして少し家に飾り付けをしただけでした。
夜遅いですし、そこまで派手にやるつもりは無いようです。
さて、そろそろ来るそうですが、誰なのでしょうか。
「やぁ、今日はお邪魔します」
扉が開き、外に迎えに行っていたヴィオレッタさんが連れて来た人は......
「アランさん!?」
「また会ったね。リーネ」
驚きです。てっきり、今日はもう会えないものかと思っていました。
「今日来る人ってもしかして......」
「そう、アラン様です。今日たまたまお見かけしたもので、どうせなら泊まっていきませんか?と尋ねたところ、了承して貰えました」
そうだったんですか。
なるほど、前に会った時アランさんが、次に会えることに異常な自信を見せていたのはこの事だったのでしょう。
それにしても、まさか家に泊まりに来てくださるなんて。
「今日は招待してくれてありがとう。ここがかの、有名なオルナレン家なんだね」
「有名では無いですよ。貴族としてのシルビオさんはずっと前に亡くなった事になっていますし、魔王とは別人だと言われています」
「へぇ......ま、いざとなれば俺も手を貸すよ。アイツには、大きな借りがあるからね」
すると、突然ヴィオレッタさんがパンッと手を叩きました。
「はい。そこまでにしましょう。立ち話もなんですし、料理が冷めてしまう前に早く召し上がってください」
「おっと、そうだったね。それじゃあ今日は楽しませてもらうよ」
食卓には、全員で座ります。
シルビオさんが居なくなってしまってから、この家は色々と変わりました。
まず、長い机を数個購入し、椅子も大量に購入しました。
これらは、私達の意思ではありません。
どうやらシルビオさんが、まだこの家にいた時に購入を予約されていたもののようです。
私達には、その意図がすぐに分かりました。
それはこうして、全員で食事をするためだったと思います。
シルビオさん一人で早く、全員で。
「うん!とても美味しいよ!」
「ありがとうございます!」
そして今、皆で食事をすることが出来ています。
まるで家族のように、団欒と。
いえ、もう私達は家族です。出来ればここに、シルビオさんもいて欲しかった......そんな結末を、私は望んでいました。
けれど、シルビオさんがこうなってしまったのは私のせいでもあります。
......感謝してもしきれません。
「なぁ、リーネ。君は今、幸せかい?」
「え......?」
幸せ......ですか。
シルビオさんにも、そんなことを言われました。
幸せに生きろと。
正直、幸せというものはよく分かりませんでした。
けれど、こうして平和な日々を送れるということは何よりも楽しく。
そして、何よりも──────
「幸せです」
満面の笑みで、私はそう答えました。
シルビオさん、あなたのお陰で私は......私達は、とても幸せな日々を送れています。
シルビオさんに出会えて、本当に良かったです。
「そうか......それなら、シルビオも喜んでくれるだろうな」
「はい!」
これまでも、そしてこれからも......私はシルビオさんの事を忘れることはありません。
どうか、幸せな来世を祈っています。
リーネ=オルナレンより。
これまでのご精読、ありがとうございました。
誤字脱字が多く、支離滅裂な表現も多々あったと思いますが、それでも多くの読者の方が読んでくださったことをとてもありがたく思います。
嬉しいです!
これからも、もっと精進して新しい作品を投稿しようと思いますので、よろしくお願いします。




