隠された力
「シルビオさん、おはようございます」
「ん......おう」
朝から、気持ちの良い挨拶が聞こえて来る。
リーネだ。すっかり慣れてきたようで、こちらとしても安心する。
こうして見ると、まるで妹か、近所の幼なじみのようだ。
しかし敬語は未だに消えない。まぁ、メイドとして働いている訳だし、それが当たり前になってしまうか。
俺は、朝からそこそこ良い気分で食事に向かう。
「おはようございます。シルビオ様」
ヴィオレッタだ。その後ろにいる沢山のメイド達も、挨拶をしてくれる。
あ、そうだ。リーネに呼び方を変えさせたこと言っとかないと、ヴィオレッタに勘違いされてしまうな。
「おはよう。ヴィオレッタ、『シルビオさん』ってのは、俺が呼ばせているわけで......」
「知っています。あれだけ大きな声で言えば、誰だって分かります」
......どうやら皆に丸聞こえだったらしい。
いやぁ、咲夜はご迷惑をおかけしました。
「ご馳走様」
俺は、朝食を食べ終えると支度を済ませ、学園へ向かうために家を出た。
「行ってらっしゃいませ」
玄関ではリーネが、少し恥ずかしそうにした笑顔で見送ってくれた。
俺はそれに応えるように、手を振る。
娘を持った感覚とは、こんな感じなのだろうか。
「行ってきます」
しかし、考えてみるとリーネとは、あまり一緒にいられる時間が無いな。
学園ではもちろん会わないし、休日でしか一緒に居られない。
「学園か......」
......また今度考えてみるとしよう。
―――
「リーネ」
「......はい?」
「奴隷を奴隷扱いしないだなんて、普通のことではありません。ことシルビオ様に至っては......失礼ながら、全くそのようなことをするとは思えない方です」
「本当に変わりました。それもとても良い方向に」
「シルビオ様は特別な方です。どうか、他の貴族達も、同じようだと思わないように」
「......はい」
「あらためてようこそ、リーネ。ここが、あなたの家ですよ」
「―――っ!はい!」
―――
「今日は、もう少し本格的な訓練をします」
朝のホームルームで、先生はそんなことを言った。俺としてはまだ入学したばかりなので、本格的な訓練と言われても、予想もつかない。
「模擬戦です」
模擬戦。実践に近い形式で闘うってやつか。
ここ数日で、俺も新しい魔法を使えるようになったし、それを試すにも良い機会かもしれない。
「着替え終わったら、模擬戦場へ来るように」
模擬戦場とは、学園の体育館みたいなものだ。いやどちかと言われれば運動場か?
やたらだだっ広くて、野球やサッカーでも出来るのではないかというくらいだ。闘技場のような造りとなっており、地面に砂が敷いてある。ならいっそ、闘技場で良いと思うが。
俺は着替えると、フレデリックと共にそこへ向かった。
「うぉ......」
模擬戦場......やはり、生で見ると結構な大きさがある。
魔法学園はお金持ちのようだ。
「それじゃあ、適当に二人チームを組んでくれ」
授業が始まってすぐに、先生はそんなことを言った。
適当にと言われても、適当に決められるほど俺の友達は多くない。
初対面の人はいないのだが、皆俺を怖がって......いや、嫌がって、近付いてこない。
やはり待っていてはダメだ。俺から声をかけないと
「組もうぜ」
出た。フレデリックだ。
持つべきものは友だな。
俺は、フレデリックに「もちろん」と返事をし、見事チームを組むことに成功した。
フレデリックは顔が広いしフレンドリーだから、もっと他にも組む人はいるだろうに......わざわざ俺と組んでくれるところに、優しさを感じる。
「よし、組めたようだな。それじゃあそのチームメイトと闘え。そしたら今度はその勝った者同士で闘う」
......なるほど。組んだ人々は味方ではなく敵、というわけか。
そして、勝ったもの同士でまた闘う。ちょっとしたトーナメントだな。
まぁ、俺も自分の実力を知りたいわけだし、このクラスの中でどれくらい俺の魔法が通じるのかを試させてもらうとしよう。
「もっとお互い離れろー。全員を同時には見られないから、あまり張り切りすぎて怪我とかするなよ」
......なんだか雑な先生だな。
まぁ確かに、一チームづつやってたら時間がかかりすぎるが、何も全員同時にやる必要は無いのでは?
いくら訓練場が広いとはいえ、ちょっと危ないな。
「......じゃあ、やるか」
「おう」
他の人達と距離を取り、俺達はお互いに向き合った。
何も、本当の大会ではない。これはあくまで対人近接戦闘術の訓練だ。柔道の練習みたいなもの、マジになってやる奴なんて居ない。
「ほどほどに......いや、やっぱり悪いけど全力で勝たせてもらうぞ」
「おう。もちろんだ、来いよ」
本気で行く。
そう言うと、フレデリックは乗ってくれた。
前のシルビオなら、確実に勝つためにイカサマをしていた事だろう。
しかし今は違う。俺は、正々堂々本気で闘う。
「はァッ!」
いきなり勝負を仕掛ける。
まずは俺が右手で普通の殴りを......
「ぐあああ!!!」
苦痛な叫びを反響させながら、フレデリックは浮き、背中から地面へと落ちた。
......死んだ。
これは、明らかにわざとだ。
フレデリックは、俺の攻撃が当たってもいないのにやられたのだった。
「......」
本来なら、こんな事怒るのが当たり前なのだが、正直言って今はありがたいかもしれない。
こんな舐めた負け方をされて、非常に腹立だしいが、許せる理由がある。
なぜなら、アランと闘えるかもしれないからだ。
それに、俺としても親友を傷付けるのは気乗りしない。
うーん......でも、正直闘いたかったかな。
「さ、観戦観戦っと」
俺達は予想外にも早く終わってしまったので、他の人を観戦することにした。
ここで得られる情報は、後に相当役立つことだろう。
しかし、どれもこれもレベルの低い闘いしかない。
「まるで喧嘩だな......」
先生は、わざと仲のいい人同士を組ませたのだろうか。
まぁ確かに、仲間を倒せれば敵も倒せると思う。けれども、いきなり仲間同士で闘うのはどうかと思うな。
ふと、アランの方を見た。
俺の目に飛び込んで来たのは、アランの圧倒的な魔力量。
撃ち込まれてもビクともしないような鉄壁の魔法を張っているのに、その鉄壁内で詠唱をするという荒業だ。
詠唱から察するに、おそらく高位の魔法だろう。
「デストラクション・ガントレット!!」
魔法の光が、たちまちアランの右腕にまとわりつく。
そして、アランはその腕で地面を一発殴り込んだ。
ドゴンッというような轟音と共に、地面は破壊され、まるで月のクレーターのような穴が出来上がっていた。
「......」
まわりは驚きのあまり、声も出ない。
おいおいマジかよ......嘘だろ。
なんて威力、なんて強さだ。
えぇえええ!?っと、皆が目を見開いて叫んだ。
聞こえるのは「強い」や、「最強」の声。
「あ、あれ?俺、何かやっちゃったか?」
シルビオは、あんな化け物と張り合ってたいたのか。
......さすがは主人公アラン、他の人を寄せ付けないほどの実力だな。
もしかしたら俺の新魔法もそんなに強くないのでは?心配になってきたので、本番でガッカリしないよう、軽く試してみることにした。
そこら辺の隅っこにあるダミー人形を使って。
「火属性付与」
剣に火属性を与えた。
俺の新魔法とは、属性を付与するというもの。結局付与から離れていないのが少し悲しいが、属性を付与できるのはだいぶ大きな進歩だと思う。
「あまり期待はしていないけど......」
俺は、まるで野球のバットでも振るように、剣を振るった。
すると、ボゥッという音を立てて、ダミー人形が燃えた。
「え?」
燃えただけだった。
炎は、ダミー人形に焦げ目を付けて消え去ってしまう。
これでは、ただ火をつけたのと何ら変わり無かった。
―――ように思えた。
「これは......」
斬った場所をよく見ると、細い線のような切れ目が入っている。
そして次の瞬間、その切れ目がズレて、ダミー人形が真っ二つになった。
「......ッ!」
この威力には......正直驚いた。
まるで熱カッターのように、溶かして切ると言った感じか。
今人に使うには危ないが......この威力なら文句はない。
ついに......ついに俺にも光が見えて来た。まだアランとの実力差は大きいだろうが、闘うことは出来るようになったのでは無いだろうか。
まぁ、だからと言って安心はしていられない。力があるなら、もっと高みを目指さなくては。
俺は、こっそりフレデリックの元に戻ってきた。
するとフレデリックは、俺の顔を見て言った。
「なんだか嬉しそうな顔してるな」
「ん?あぁ」
確かに、さっきのを見せられてはビビって笑顔なんて作れないかもな。
だが、俺はそれ以上に俺に期待しているのだ。
「これから楽しみで仕方がない」




