お別れ
異世界転生。
俺はずっと、転生した意味を探していた。
なぜ俺が、シルビオとしてこの世界に転生したのか。
それが疑問だった。
だが、今分かったような気がする。
俺は、今この瞬間のために生きて来たのだと。
そう思っている。
「リーネの様子はどうだ?」
「相変わらず、未だ昏睡状態です。しかし、身体の状態は正常。問題ありません」
リーネの状態を報告してくれたのは、フローリカ。
あの戦いから数日、俺達はほぼ全員生き残って帰ってくることが出来た。
俺の体も、元に戻ったとまではいかないが、何とか人の形を留めることには成功している。おかげで、服さえ選べば人類に見えなくは無い。
「そうか......アランがいれば、またこの状況をどうにかしてくれたのかもしれないな......」
アランは、以来ずっと姿を消している。
俺が最後に話したあの時から、誰もその姿を見たことは無い。
生き残ったのがほぼ全員と言ったのは、そういう事だ。
それに、さすがのアランでも昏睡状態のリーネを復活させることは不可能だろう。
なにせ魔力の暴走、長時間操られていたのだから、昏睡状態にあってもおかしくは無い。
「......仕方ない。計画を進めるとしよう」
本当はリーネと話したかったのだが......こんな状態では仕方あるまい。
リーネには相当な苦労をかけたからな。ゆっくりと休ませてやりたい。
「本当に......やるんですね......?」
「あぁ、そう決めていたからな」
「......そうですか」
ずっと前から考えていた事だ。
それに、そのために俺は行動していた。今更変えることは出来ないさ。
「それじゃあ、行って来る」
「待て」
振り向くと、そこには少女......いや、もう少し成長して、女子と言えるくらいにはなったか。
とにかく、女の子が立っていた。
「フレン。止めに来たのか?」
「......いいや。どうせもう止まらないことくらい分かっている。お前の事は、何でも分かるからな」
フレンは軽く笑ってみせる。それが嘘の笑いだと言うことくらい、無理して笑顔を作っていることぐらい、俺でなくても分かる。
寂しさと、自分の気持ちを強く押し込んでいるような、そんな混ざり合った表情だ。
「......私は、お前がどんな姿になろうと、どんな奴になろうと......それが良かろうと悪かろうと、着いて行く。例え、この世界を支配する最低最悪の魔王だとしても」
「......フッ、そうか。それは嬉しいことを言ってくれるな......だが、よく考え直した方が良い」
仕える人は自分で選べる。
どんな人にでも仕えるというのは、奴隷と同じだ。
「......ありがとな、フレン。お前のお陰で、俺はここまで来ることが出来た。本当に、頼りにしている」
「ばか......そんなこと、言うんじゃねぇよ......」
フレンは、目から零れる涙を脱ぎはらい、俺に笑顔を見せた。
今度は、本物の笑顔。心からのものなのだろう。
「それじゃあ行ってくる。リーネに、よろしくな」
「お任せ下さい」
「行って来い。お前を、応援している」
「あぁ」
俺は踏み出す。
綺麗に作り直した、魔王の鎧を身に纏い、光の通る向こう側へと歩き出す。
ここは王の城。
この国の国民だけでなく、他の国からも沢山の人々が集まる場所。
全世界へモニターされ、今最も人類の注目する的となっている。
「初めまして諸君!!」
俺は城の窓から顔を出し、全人類の注目を浴びた。
「まずは、ようこそ。我が国へ」
ドラゴンの翼を広げ、羽ばたかせて空へと浮かぶ。
そして、派手な空中アクロバットを軽く決めてから、地面へと優雅に降り立つ。
「もう既に知っての通り、この国の王であったアードルフ=ヴェロニアは死んだ。俺の......この手によって死を遂げた」
人類の集まる場所。
大量の人集りの中を、数体の魔物を連れてゆっくり歩く。
俺が視界に入るだけで、周り人々は逃げ、隠れ、距離を取った。少し楽しさを感じるが、避けられていると思うと良い気分では無い。
「つまり、この国は既に俺の国となった。これがどういう事を意味するかは、貴様ら人類の小さな脳みそでも理解はできるだろう」
すると人類は顔色を変え、怯えから一変。少し怒りの混じったような表情となった。
「......何が俺の国となっただ......俺達がそんなこと認めるわけねぇだろ......」
「どうやら、立場というものを分かっていない者がいるようだな」
小言を言った男は、見るからに表情が青ざめた。
まさか聞こえるとは思っていなかったのだろう。
「良い機会だから、貴様らに丁寧に教えてやろう。今、魔物達は全て俺の支配下にある。襲えと言うだけで、貴様ら人類を喰らい尽くす事だろう。つまり、俺の指示一つで貴様らは死ぬという事だ。その事をよく理解してから発言するんだな」
「魔王さんよ、一体何をするつもりなんだ。何が目的だ?」
各国のお偉い王様方が集まっている集会。
そのような場面が、モニターされている。
なるほど、この事態を聞きつけて集まったのか。
「貴様ら人類の支配だと、言わなきゃ分からないか?貴様らは黙って、俺に従っていればいい。さもなければ、もう一度《大破滅》を起こすまで」
「何......?今、何と言った?」
「貴様ら人類を破滅へと導いたのはこの俺だと言っているんだ。もう忘れたのか?六年前のあの事件。地球上の多くの生物が滅びた現象を」
「なん......だと?どういう事だ!あれは......お前が起こした出来事だとでも言うのか!?」
「おいおい、良く考えた発言か?一時の感情に任せると、後から後悔することになるぞ」
すると、俺の言葉に激情した男が、声を荒らげて言った。
「うるせぇ!てめぇかァ!!俺の父さんと母さんを殺したのはッ!!」
「何でそんな事をしたんだ!!」
「この人でなし!!」
好き勝手に言う人類共。
中々俺の強さ、恐ろしさが伝わっていないようだ。
まぁ、良いだろう。
誰にでも失敗はつきものだ。それに、今回は俺から挑発をしたわけだし、怒るのも無理はない。
「貴様ら人類には、催眠魔法が効きにくいようでね。脅す方が楽だったんだよ」
「屑が!!」
「お前なんてッ!!」
本当に好き勝手言ってくれるな......少し、怖がらせるか。
「おい......あまり怒らせるなよ。殺したくなってしまうじゃないか」
風を少し吹かして、脅す。
こんなの、アランなら気にもとめないような爽やかな風だが、ただの人類にとっては嵐のようにでも思えるのだろう。
人々は一斉に黙り込み、道を開けた。
「ふん......まぁ所詮人類なぞこんな程度のものだな。やはり魔物こそがこの世界に相応しい」
俺達、魔物こそが───────
「お、おい!あれ......何だ......?」
一人の男が声を上げた。
すると、他にの者もザワザワとし騒ぎ始める。
人々の見る方向は全て、一点へと集まっていた。
そう、俺の歩いていく方向。
真っ直ぐその先に立っている、一人の人間に。
「......何者だ」
突如として現れた人物。それは、神々しい程に輝く銀の鎧に顔まで全身を包み、俺の歩く道に立ち塞がっていた。
腰の剣に手を置き、俺の姿を見ようとも動じないその姿勢。
その姿はまるで、魔王討伐に現れた勇者のようだった。
「ほう......この俺に挑む気か?」
俺の言葉を聞き、銀色の騎士は腰の剣を抜いた。
そして、こちらに向かって走り出す。
「愚か者が......誰かは知らないが、良かろう。俺が直々に相手をしてやる」
俺は翼を広げ、戦闘態勢に入る。
騎士は、思っていたよりも素早くこちらへ近付いてくる。
その動きからして、明らかに闘い慣れているようだ。
だが俺の腕の一振により、常人なら呆気なく死ぬ。
そんなこと、闘わずとも分かる。
──────そう、常人なら。
「なにッ!?」
俺は、軽く左腕を振って風を起こした。
真正面から走ってくる騎士に対して、風圧を飛ばす。
しかし、騎士はアクロバティックな動きで、その風をかわした。
見えないはずだ。例え分かっていたところで、避けるのは難しい。
常人の動きではない。
「やるな......」
何発も続けて撃つが、騎士はその全てをかわしてみせた。
そして、遂に攻撃の届く間合いへと入ってしまう前に俺は羽ばたいて空へと逃げる。
「何!?」
驚いたのは俺だけでは無かった。
なんと騎士は、地面を蹴って俺の事を追って来たのだ。
さらに、驚くべきは脚力だけでは無い。
空中を、見るからに蹴って移動をし始めた。
最早人間業では無い。
翼を生やし、空を飛ぶことの出来る俺ならまだしも、人が空を飛ぶことに見慣れていない人類は己の目を疑った。
まるで空気の壁を蹴るような動き......そのアクロバティック所ではないテクニックで、どんどん間合いを詰めてくる。
「くッ!」
剣を振りかざす騎士。
このままではやられまいと、俺は咄嗟にその剣を腕で弾く。
ガィイインと、金属の激しい音がする。
「ッ!」
重い。
俺が受け止めたどんな剣よりも重たい一撃だった。
俺達は、お互いに距離を取って地上へ降り立つ。
「......強いな」
「......」
騎士が手をかざすと剣が宙を舞って、騎士の手元へと返って来た。
そして、再び構え直す。
「......行くぞ」
バンッと地面を蹴り、今度は俺から騎士に近づく。
騎士は、剣の柄に手を添え、まるで居合のような構えを取った。
「ッ!?」
雷。
それは、電光石火の如く繰り出された居合切り。
稲妻を纏った剣が、瞬く間に俺の目の前を通過した。
その距離、僅か数ミリ。
あとほんの少しでも反応が遅れていたら、目は疎か、頭まで真っ二つに切断されていた事だろう。
しかし、それはただの居合の場合だ。
先程の稲妻......それが、俺の頬を掠めたようで、少しだけ血が流れている。
もし腕で防ぐような事をしていれば、感電していた。
「......」
騎士は居合の構えを解き、別の構えに入った。
今度は、ただの剣士のような......剣を正面に立てた構えだ。
その行動を見て、俺は何も言わずに走り出す。
もちろん、何も考えずにただ突っ込むわけでは無い。
一度自分の前で手を振り、風を巻き起こす。
その風を前方に吹かせ、風の盾とした。俺は、その後ろについて行くだけで良い。
攻撃は、風が防いでくれる。
俺の走りとほぼ同時に、騎士は自らの剣に炎を纏わせた。
「......ふん」
雷の次は炎......か。
騎士は、炎の剣を横に一閃。
居合よりも速度は遅いが、その代わりに地面へと炎が移動した。
まるで炎の盾のように、弧を描きながら展開する。
「盾には盾というわけか」
お互いの盾は互いに打ち消し合い、残すは身一つとなる。
しかし構わずに、俺は勢いを止めない。
そのまま近接戦へと持ち込む。
「......ッ!」
「......」
ガキィンガキィンと、大きな金属音が鳴り響く。
俺の腕と奴の炎の剣が交わる度、火花は飛び散り、衝撃によって風が巻き起こる。
何度も何度も、高速で叩く。しかし何度も何度も、奴は高速で剣を振る。
「──────ッ!」
一瞬、炎が消えた。
騎士の剣に纏っていた炎が、瞬く間に姿を消したのだ。
そう思った時には、騎士の踏み込んだ足から稲妻が走るのが見えた。
「何──────」
雷は、地面を伝って俺に命中し、ほんの一瞬だけ動きが止まる。
その一瞬が命取り。
再び、騎士の剣に業火が宿る。
そして、騎士は目の前で剣を振りかざした。
「─────ぐッ!!」
体を無理矢理動かし、ギリギリの所でかわす。
素早く地面に風を放ち、距離を取った。
「......」
動作が見えているにも関わらず、動けなかった。
止まっていた時間は約一秒だったろうが、俺にはそれが長く感じられた。
と、騎士は直ぐにまた違う魔法を使い始める。
足元に魔法陣が見えると同時に、俺の周囲には囲う形で水現れた。
それも、重力を無視して、宙に浮いている水だ。
「雷、炎と来て次は水......芸達者な奴だ」
溜息を着く暇も無く、騎士は攻撃を仕掛けてくる。
所詮は水、そう思うかもしれない。
しかし、この魔力の籠った水は少し違う。
先端の尖った針のように。
いくつもの刃が回転する手裏剣のように。
雨のように降り注ぐ矢のように。
それぞれが形を変え、俺に襲いかかって来た。
「だが魔王であるこの俺に、そんなヤワな攻撃が通用するとでも?」
腕を一振するだけで、俺の周囲に豪風が吹き荒れる。
水をも吹き飛ばすほどの強さだ、一瞬にして周りの水は消え去った。
が──────消え去った水の代わりに、騎士の姿が見えた。
「水で目くらましか!俺じゃなかったら成功していたな!」
不意を着くつもりで近づいて来たであろう騎士を、俺は右腕で殴る。
ストレートが、綺麗に決まった。そう思われた。
「何ッ!?」
俺の右ストレートは、透明な壁によって防がれてしまった。
いや、これは......水だ。
水が強い衝撃によって硬くなり、壁のように俺の攻撃を防いだのだった。
「......と言うのは嘘だ」
本命は左。
ここで何か仕掛けてくるだろうと思い、右腕で先に攻撃をしておいたのだ。
水の壁の向こうから、剣の先をこちらに突き立てて向かって来る。
俺は、左腕を伸ばして迎撃した。
「......ぐッ!」
激しく火花が飛び散り、左腕と剣が交差した。
そしてそのまま左腕で剣を絡めとり、弾き出しす。
剣が戻ってくるのは分かっている。だから、その前に攻撃を入れる。
「......終わりだ」
左腕を引っ込め、思いっきり力を込める。
一歩だけ強く踏み込み、ありったけの力で殴りかかった。
が─────
「ッ!!?」
また水の壁......では無い。
水の壁なら、貫通して攻撃が通るはずだ。
しかし、俺の腕は弾き返され、大きく仰け反ってしまった。
「......馬鹿なッ」
それは、シールドと呼ばれるもの。
魔力で固めた、半透明な壁だ。
その壁により、俺の攻撃は防がれてしまったのだった。
俺の攻撃よりも早い発動......流石としか言いようがない。
さらに、そのシールドによって仰け反ってしまった俺の隙を、騎士は逃さなかった。
すかさず騎士は、俺の腹に向けて張り手を突き出した。
パンッ。
まるでショットガンのような大きな音と共に、俺の体は背後へと吹っ飛んだ。
発勁のような攻撃......炸裂する魔法を放ったようだ。
「ぐッ」
しかし、何とか吹き飛ばされないよう、翼を大きく広げ、風の抵抗を最大限に利用する。
そして地面に腕を突き立てて耐えた。
が、起き上がると、走ってこちらへ向かってくる騎士の姿。
「ここで決めるつもりか」
騎士は大きく跳躍し、空中への逃げ場を塞ぐ。
そして、魔法によって引き寄せた剣を空中でキャッチし、振り上げる。
「来い!」
俺も負けじと、地面を蹴って宙へと飛び出す。
「でぇぇやぁああああ!!!」
まずは左腕で剣を受け止め───────
「ッ!?」
────る、つもりだった。
剣は俺の腕を貫通し、そのまま顔まで近づいてくる。
切れた訳では無い。こんなにも綺麗に、まるで透けるかのように切れるとは思えない。
つまり、切れた訳では無い。
すり抜けた。と行った方が正解だった。
「ぐッ」
全身全霊を込めて、体を捻る。
剣は、俺の体スレスレを通り、何とか回避することが出来た。
「......危ねぇ」
俺は騎士と空中ですれ違い、それぞれ反対側の地面へと着地する。そこで俺は、間髪入れずにすぐ反転して地面を蹴る。
それは騎士の方も考えている事だろうと思い、俺は素早く攻撃するつもりでいた。
だが......。
「......」
騎士は、地面に手を着いてその場で屈んでいた。
その姿をを見て、一瞬で何かが来ると俺は悟った。
「ッ!!」
俺は、空中で停止した。
冷たい氷が、俺の体を絡めとる。
地面から生えるように現れた氷によって、俺の動きが封じられてしまったのだった。
「ッ────これは......!」
一瞬の隙所ではない。
こんなにもガッチリとか貯められてしまっては、咄嗟に動くことが出来ない。
もちろんその間に、騎士は距離を詰めてきた。
「ぐゥッ!!」
バギィンと氷を割る。
魔力で生成したものとはいえ、所詮は氷。俺の力で割ることは出来る。
「うぉおおおお!!!」
氷から開放されると同時に、左腕を力の限り振った。
一振り。
しかしそれは、大きな一振りだ。
大地は裂け、ビルは崩壊し、人々は切り刻まれてしまうほどの威力。
の、はずだった。
「────────!!!」
目には目を、歯には歯を、風には風を。
同じ魔法同士は打ち消し合い、無と化す。
騎士は、風魔法を使って俺の魔法を打ち消して来た。
「ッ!!」
油断。
一瞬の驚きと、大きく腕を振った反動。
それにより、俺の動きは停止していた。
「ぐふッ」
銀色に輝く剣が、俺の胸元へ深々と突き刺さる。
「がはッ」
奥へ奥へと差し込まれて行き、騎士の身体が密着するまで近づいた。
まるで時が止まったかのような時間。
それはほんの数秒の事だっただろうが、俺にはとても長く感じられた静寂。
俺は─────負けた。
「─────ッ」
吐血した。
口の中が鉄の味でいっぱいになる。
今まで様々な痛みを味わってきたが、この胸の痛みは、どんな経験よりも大きいものだった。
自らの傷口を眺め、俺は薄らと笑みを浮かべる。
「やっと、か......お前ならもっと早く殺れていたはずだ......アラン」
肺が傷付いてしまったためか、息が苦しい。
掠れた声を無理矢理出して、目の前の銀色に話しかける。
「............本気で闘ったさ。ただ君が、強かっただけだ」
「ふん......つまらん嘘をつくな。やはり、お前は優しいな」
......これで、作戦は成功した。
計画の終わりだ。
俺は、今まで数え切れないほどの罪を犯してきた。だから、その罪を全て受け入れ、背負い、逆に利用することに決めたのだ。
俺がこの世の全ての悪を、引き受けると。
「予定通り、これでお前は魔王を倒した勇者だ......魔物を操り、人類を脅かす存在であるこの俺を......倒したんだ」
全ての元凶はこの俺、シルビオ=オルナレンなのだ。
つまりその悪の元凶が消えれば、全てが丸く収まる。魔物達は、操られていたという事を利用し、無実を作り出す。それに人類が応えてくれるかどうかは分からないが、それは魔物次第だろう。
......誰も悪くない。
全部俺が悪い。
「すまないな.....いつもお前にばかり頼ってしまって」
「気にするな。これが俺の.....正しいと思った選択だ」
アランのその声は、どこか震えていたような気がした。
そんなに残念がることは無い。
こうなることは、既に決めていたんだ。
人類と魔物が仲良くする方法。そんなもの、話し合いしかない。
だが話し合いをするには、魔物は人類を嫌い過ぎており、人類もまた魔物を警戒しすぎている。
だから、魔王である俺が仲介として入ることによって、同じ席に着けるようにしたかった。
そのために、俺はこうなるしか無かった。
今まで積み重ねて来た魔物のイメージを、帳消しにする可能性のあるこの方法で。
「なぁ、アラン......俺は......主人公になれたかな......」
「......」
表情の見えない鎧は、黙って俺の胸に剣を沈める。
段々と傷口は感覚が無くなり、身体中の体温が下がってくるのがわかる。
「ずっと、主人公になりたかったんだ......お前みたいに。世界中を駆け回って人助けをするような......そんな格好良い主人公に......」
俺は、なれただろうか。
「シルビオ......君は、間違いなく─────主人公だ」
「......ふっ、俺の事を忘れたりするなよ」
「忘れるものか.....君の事なんて、一瞬たりとも忘れやしないさ」
アランは、遂に俺の体から剣を抜いた。
傷口から血が溢れ出す。
もう抑えることもせず、俺はボーッと立ちすくんだ。
「アラン......リーネを、頼んだ」
「あぁ......任せてくれ」
その言葉を聞けて、俺は安心した。
アランなら......きっと、リーネを守ってくれるはずだ。
俺よりも、ずっと上手く。
「シルビオ......ありがとう。そして、さようなら」
─────倒れた。
少しだけ横目にアランの姿が見え、俺を受け止めようとしていたのが分かった。
馬鹿が......そんなことをすれば、不自然極まりないだろうが......。
バタッと音を立て、俺は地面に横たわった。
揺らぐ視界で捉えたアランは、俺の血を帯びた剣を天高く上げる。
すると、街中から歓声が上がった。
頭がボーッとする。
眠たくなるような感覚だ。
あぁ、これが死か......。
再生能力は、内蔵までは及ばない。
ましてや心臓が貫かれてしまったようでは、もう助からない。
せめて最期くらい......リーネに─────
「シルビオさん!!!」
「......ッ!?」
リーネ......起きていたのか。
もはや視界は薄らいでおり、こちらへ走って来ている人としか認識できない。
だが、あれはリーネだ。
間違いなく、リーネだった。
「......リーネ」
「シルビオさん......!」
俺は、リーネに抱きかかえられるように起こされた。
「シルビオさん、どうして......どうして......!」
「泣くな」
俺の頬に、大粒の涙が零れ落ちる。
しかしそれも、もはや感覚は無い。
俺は、その感覚の無くなった手を動かし、リーネの頬にそっと手を添える。
「リーネ......今まで散々迷惑かけて、悪かったな......最期の最後まで、ずっと......」
「そんな事ないです......私こそ、迷惑ばかりかけていました」
「だが俺は、そんな日々が楽しかった......お前と一緒に居られた時間は、とても幸せなものだった......」
「シルビオさん......」
意識が遠のいて行くのが、自分でもわかる。
駄目......だ、まだ......行く訳には......。
「リーネ......お前は、幸せに生きろ......例えどんな事が起ころうと、お前は幸せになるんだ......それが俺の願いであり、最後の約束......」
「......はい。必ずその約束を、守ってみせます......!」
「......その意気だ」
俺は、笑顔を浮かべた。
それは、とてもぎこちない笑顔だったと思う。
もしかしたら、笑顔にすらなっていなかったかもしれない。
けれどこれが、俺に出来る最後の行動だった。
リーネに触れていたはずの腕は、いつの間にか降りており、もう二度と挙げることは出来ない。
笑うだけで精一杯だった。
「リーネ......今まで、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます......!」
俺は、瞼を閉じた。
これから起きることの無い、長い長い眠りにつく。
本当にありがとう、リーネ......短い時間だったが、良い人生だったよ。
「シルビオさん......?」
リーネの声が遠くなっていく。
俺の意識も......遠のいて行く。
もう何も考えられない。考えることは無い。
俺はただ、安らかに────────
「シルビオさん......!シルビオさん!!─────




