間違った世界
異世界無双。
それは、主人公が異世界に転生もしくは転移をし、その世界で無双をする物語。
最強の主人公によって、異世界の悪者達が意図も容易く倒されていくのだ。そして、悪者達から救った発情期の美少女達に持て囃され、イージーな人生を歩んで行く。
何とも魅力的だと、俺は思った。
だって、自分よりも劣っている人で構成された世界なんて、楽しくて仕方がないだろう。
もちろん、飽きることはあるかもしれないが、自分が劣っている世界よりは楽しく暮らせるだろう。
誰しも一度は考えるものだ。
主人公になりたい。
世界を救う、カッコイイ主人公になりたいと。
そう願っているものだ。
「まぁそんな機会、あるわけねぇけど」
「分からねぇぞ?VRゲームの世界に取り残されちゃうとかもあるからな。あれを転生とか転移と言うのかは別として、異世界にいるしチート持ちだ」
「はは。そいつぁ夢がある話だな」
だが、現実は違う。
夢はあくまで夢のまま。
現実世界に、そんな超常現象が起こるはずがない。
「あ。そういえば今日、転校生が来るらしいぜ」
「そりゃまた突然だな。どうしてこんな時期に?」
突然というのは、話題が変わったことと転校生が来るということの両方に対してだ。
転校生。高校でも実際にあるんだな。そういうのは、漫画やアニメの世界だけかと思っていた。
それに、今はもうとっくに転校シーズンを過ぎてしまっている。
転校シーズンって何だ......?
「可愛い女か、カッコイイ男。どっちがいい?」
「前者」
「だよな。ただでさえ転校生ってのはモテるんだから、それでカッコイイ奴だったら最強過ぎて太刀打ち出来ねぇ」
全くもってその通りだ。
どうかイケメンではありませんように。
俺達は、そう強く願った。
───────
「今日からこの学校に通うことになる、海馬新太君だ。自己紹介を頼む」
「初めまして、海馬新太です。今まで田舎に住んでいたもので、世間知らずですが、色々な事を教えてくれると嬉しいです」
キャーキャーとやかましいような黄色い声が飛び交う。
イケメンだ。
見た目、そして話し方やその笑顔から察するに、中身もイケメンなのだろう。
俺達には遠く及ばぬ存在。
話しかけることすらも許されぬ程、高い場所に見える。
「はい。じゃあ......あそこの空いてる席に座ってくれ」
「はい」
「......」
ふと、転校生と目が合ったような気がした。
そして、ニコッと軽く笑顔を見せると、先生の指示した通り席に向かった。
なんだろう......この妙な違和感は。
初めて見るはずなのに、なぜだか既視感があるような気がする。どこかですれ違った......?会ったことがあるのか......?
しかし、思い出そうとしても記憶からは見つからない。名前すらも、少しも聞いた事がない。
それなのに何故だろう。
転校生の男と俺の目が合ったことに、意味があるような気がしてしまう。
......自意識過剰過ぎか。
ラブコメでも、もっとマシな展開をする事だろう。
だが、そう思っていたもの丁度昼までの事だった。
「ねぇ、私達と一緒にお昼食べない?」
「もっとお話したいなぁ」
「なぁ、俺達の部活入らないか?お前なら絶対エースになれるよ!」
午前中の授業では、体育があった。
予想通り......というか、見た目通りに転校生は運動神経が良かった。
スポーツ万能、どうせ成績も優秀、見た目も中身も完璧なイケメン。
別に自分に期待などはしていなかったが、これで俺の高校生活が終わったことが確定した。
さて、これからアイツが何人の女子と付き合うことになるのかが楽しみだ。
と、そんなことを思っていると────
「ごめん、ちょっと良いかな」
......え?
噂の転校生が、俺に話しかけて来た。
いや、本当に俺になのだろうか。もしかしたら俺を透過して、向こう側にいる人に話しかけているというイタズラなのでは無いだろうか。
そう思って俺は振り返るも、背後には誰もいなかった。
「君だよ」
「......えっと、お昼の約束があるんじゃないの?俺何かと話しているより......」
「あぁ、断って来たよ。だから気にしないでくれ」
「こ、断った......?」
「そうだよ。俺は君にしか用はないんだ。それよりも、君もそろそろ何か気付かないか?」
気付く?
こいつ、さっきから一体何を言っているんだ。
俺と話しているようで、俺と話していないような......まるで、俺の中の誰かと話しているような。そんな感じだ。
「思い出せ、君の姿を。君の性格を。君の目的を。守りたいもの、守るべきもの。全て思い出すんだ」
......何かを忘れている気がする。
凄く大切な、忘れちゃいけない何か。
そう、この男が転校してくる前からずっと頭にへばりついていて、離れない何か。
「お前......一体何者だ?」
こんなことを、現実で言うとは思わなかった。
しかし、これが一番適している質問の仕方だと思ったのだ。
「......」
転校生は、何も答えない。
ただ笑顔を絶やさず、真っ直ぐこちらを見つめているだけだ。
「これを」
そう言って俺に渡してきた物は、1つのパッケージ。薄くて小さい。それは、一目でわかった。
ゲームのパッケージだ。
「何だこれは」
「見ての通りさ。それをどうするかは、君に任せるよ」
そう言い残すと、転校生は立ち去って行った。
ゲーム。
どうするかは任せる......か。
そんな任せられても困る。何かウイルスでも仕込まれているのでは無いかと、疑ってしまう。
しかし、それもこのゲームのタイトルを見ると直ぐに興味が湧いてしまった。
『魔法のソードファンタジー』、『魔剣フ』だ。
「西原にオススメされていたからな......丁度いいかもしれない」
それにしても不思議な偶然だが、まぁこういうこともあるのだろう。
俺は特に気に止めることも無く、普通に学校を過ごした。
その後も、転校生の態度は変わらず、俺に話しかけて来ることも無かった。
一体何だったのだろうか。
とりあえず家に帰ってから、例のゲームをやってみることにした。
「これが魔剣フ......」
家に帰ると、すぐにゲームハードを立ち上げ、ソフトを入れた。
正直、楽しみだという所もある。
話題にしたゲームを、タダで手に入れたんだ。楽しみに決まっている。
そして、普通にゲームは始まった。
舞台は異世界。
ハイファンタジーで、中世の時代を背景としているようだ。
最初は、主人公が目覚める所から物語が始まる。
場所はとある森の中。大自然に囲まれ、目覚めるのだ。
しかし、起き上がるとそこにはハイエナのような魔物達がゾロゾロと集まって来ていた。
そこに、たまたま通りかかったヒロインと思わしきキャラクターに助けられ、名前を聞かれる。
ノベルゲームなだけあって名前は自由に変えることができるのだが、デフォルトの名前が一応あるらしい。
「俺の名前でやるのも恥ずかしいしな。ネットで調べたところ、デフォルトネームにするとフルボイスで名前も呼んでくれるらしい」
という事で、そのままのデフォルトネームに、することにした。
その名前は───────
「アラン......アラン=カイバール......」
何だか、とても聞き覚えのある名前だ。
カイバール......そういえば、今日の転校生が海馬とか言っていたな。似ている......だが、そんなことはただの偶然だろう。
それよりももっと、ずっと前から知っているような......凄く大事なことのような気がするが、どうしても思い出すことが出来ない。
アラン......アラン......なんだろう。
俺は、その人物を知っている......ような気がする。
「......このゲーム、ネットか何かで見たことあるもしれないな」
主人公の名前を知っている理由は、それぐらいしか思い付かなかった。
「......まぁ、そのうち思い出すだろう」
ゲーム自体は、結構面白いものだった。
ノベルゲームながらアクション要素もあり、テンポ良く進むストーリー。
どうやら学園ものらしく、規格外な強さを誇る主人公アランが、転校生として魔法学園に通うというのがざっくりとした内容のようだ。
よくあるストーリー。最近よく見るような展開。シナリオだけ見れば、特に取り上げて面白いような要素はない。
しかしそこで俺は、何故なのかは自分でも分からないが、何かがおかしいと思った。
こんなストーリーだっただろうか。
俺はこのゲームを今初めてやったし、別に開発に関わったわけでもないが、なぜだかそう思う。
違う。
何かが、違うのだ。
「何かが......足りない。誰かが......いない」
違う。
違う、違う、違うんだ。
こんなもの、俺の知っている物語では無い。
こんなの、現実では無い。
俺は誰だ?
俺は何者だ?
一体どうしてここにいて、何をしているんだ。
守るべきもの......と、海馬新太はそう言っていた。
俺は、守るんだ。
そうだよな。
──────アラン。




