最後の闘い
物心着いた頃から、私は奴隷として扱われていた。
色々な所に連れて行かれ、買われては売られ、また買われては売られていた。
いつから持っていたのだろうか。持病も、悪化して来て、咳が止まらなくなってしまった。
もう、死んでしまうのではないか。
いっそ、死んだ方がマシなのでは無いだろうか。
硬くて冷たい檻の中で、そう思っていた。
そんなある時、私は買われた。
普通、奴隷は病気を持っていたり、まともに働けない者は処分となる。けれどそうなる前に、私は買われた。
優しい声の、男の人。
今でも忘れたことは無い。
あの人は、私の名乗ってもいない名前を呼んでくれた。
「ここから鎖を外して自由にすることは出来る。だが、そしたらお前は一人で生きていかなくちゃあ行けない。ここで一人でサバイバルするか、俺の元にきて雇われるか、どちらでも好きな方を選べ」
あの人はそう、私に言った。
正直、よく分からなかった。
あの時の私は、とにかくなんでも良かった。息が出来れば、動くことが出来るのなら、どうでもよかった。
だから今まで通り、私はついて行くことにした。
私を買ってくれた人に、ついて行くことに。
その時から、私の人生は変わって行った。
奴隷としてでは無く、メイドとして私は暮らした。
憧れの学園生活。そこで、貴族の暮らしを知った。
家に帰ると、温かかった。メイドの皆は優しくて、私は仕事というものを学んだ。
私は、持病の事を忘れることにした。
また咳をすれば、処分されてしまうかもしれないと思い、我慢した。
けれども、不思議と辛くはなかった。
それ以上に楽しかったからだ。
私を拾ってくれた人。
私を雇ってくれた人。
私を生かしてくれた人。
私に優しくしてくれた人。
私に居場所をくれた人。
私に─────恋を、させてくれた人......。
沢山の物を、私に与えてくれた人。
「......シル......ビオ......さん」
──────────
「......?気のせいか」
「アードルフ王!前方に《フォートレス》を発見、接近してきます!」
「来たみたいだね」
モニターには、大きな空飛ぶ船の上で仁王立ちしている鎧の姿が見える。
シルビオだ。
「策を捨てたかシルビオ......君らしくもない」
「迎撃しますか?」
「もちろんさ。彼らと話している暇は無いし、彼らは君達が恐るほど強くはない。所詮は魔物、知的生命体の失敗作でしかないんだ......」
──────────
「前方にミサイル確認!この反応は......《ラプス》です!こちらへ向かってきます!」
「シールドバリアー全開!各自、衝撃に備えろ!」
船内では、アランが指揮をとっている。
作戦を、実行する時だ。
「チャンスは一回。これに......全てをかける!」
俺は、腰に着いているロケットブースターを展開した。
整備士達が作ってくれた、直線距離専用の小型エンジン。一瞬で最高時速を出すことができ、さらに爆速。しかし機動性は無く、ほぼ真っ直ぐにしか飛ぶことが出来ない。
だが、今はこれでいい。
《ラプス》は弾速が遅いとは言え、俺単体での飛行では間に合わず、爆発範囲内に入ってしまう。
だが、このブースターを使えば─────
「間に合う!」
船を蹴り飛ばし、ブースターを最大出力で吹かす。
普通の人間ではむち打ちになる事だろう。
だが、俺の体なら!
「─────ぐッ!!」
一瞬だった。
気付けば、いつの間にか目の前まで来ていた《ラプス》。
手を当てる......と言うより、俺がぶつかる形で、《ラプス》にへばりついた。
「うぉおおおお!!」
超硬化魔法、付与!
ミサイルの全身へ行き渡らせる!
爆発しないように、破壊されないように。装甲を固めた。
どれぐらいの衝撃に耐えられるようになったのかは分からない。
ちゃんと硬化出来ているのかも、俺には分からない。
だが、やるしかない。
「ぐぁあああああ!!!」
ガンッと、思いっきり上から殴った。
すると外壁はべゴンッと凹み、下へ向く。
軌道を変えたのだ。
《ラプス》は、そのまま斜め下へと飛んで行き、地面へ無事不時着した。
「はぁ......はぁ......はぁ......」
爆発は......していないようだ。
何とか、成功したみたいだな。
「突貫だぁああ!!」
前方にシールドバリアーを張りながら、《フォートレスガーデン》に向かって行く船。
ここで《ラプス》を爆発させなかったことにより、少しの時間が出来た。その隙に船で突貫し、《ラプス》を撃てない距離まで近づく。
「行けぇぇぇぇ!!」
俺も、《フォートレスエアクラフト》の後ろへピタリて張り付き、前からのミサイルを防ぐ。
通常のミサイル弾なら、エアクラフトのシールドで十分だ。
「ぐっ!」
バチバチと火花が飛び散るのが見える。
ガーデンとエアクラフトのシールドが、ぶつかりあったのだ。
単純な攻撃力や防御性能で言えば、ガーデンの方が上。しかし、こちらには俺がいる。
「直接なら......!」
前に回り込み、シールドのぶつかり合っている隙間へ左腕を突き刺す。
前はダメだったが、今回はどうだ。
この距離なら、さすがに耐えられまい。
「壊れろ......!!」
俺の攻撃により、シールドバリアーの耐久値が少し下がった。
そしてついにバリアーに、メキメキと入り込んで行った。
「うおぉおおお!!」
激しい電撃が走る中、エアクラフトはガーデンへと突っ込んで行った。
そしてガゴンッと、大きな音と振動が伝わって来たと思ったら、エアクラフトは止まっていた。
どうやら、《フォートレスガーデン》に突っ込んだみたいだ。本気で突貫するとは......アランも恐ろしい指揮をとるな。
「シールドはお互いに壊れた......後は乗り込んで、内側から破壊するだけだ」
アラン達も中へ侵入したことだろう。
俺も、エアクラフトで空けた穴から、入り込んだ。
──────────
シルビオは無事なのだろうか。
まぁアイツのことだ、死ぬだなんてありえない。
エアクラフトで特攻したことにより、ガーデン内への侵入は成功したが......ここからが本当の闘いだ。敵はアードルフだけでは無い。
前の学園生達も乗り込んでいるのかは知らないが、他にも護衛を乗せていることは間違いないだろう。
「シルビオと合流したい所だが......」
ガーデン内部を進んで行くと、何やら大きな部屋があった。
すると、部屋の扉が、俺が近づいていないにも関わらず開き始める。
そして中に、人影が見えた。
「どうやら、そう簡単にはさせてくれないようだ」
「......」
惹かれるように中へと入って行く。例え逃げようとした所で、すぐに捕まってしまうだろう。
何せここは、敵の巣。
それならば、正面から堂々と闘いに挑んだ方がいい。
「久しぶりね、アラン=カイバール」
「そうだね。まさか君がいるとは......」
「その割には、思ってたよりもリアクションが薄いわね。驚かないの?」
「まぁ、世界中の人を敵に回しているつもりだからね。誰が来ようと、闘うつもりだったさ。さぁ、こうして敵対するのは初めてじゃなかったかな?フィリア=ヘズルワーレ」
フィリア。
かつて俺と共に闘い、同じ時間を過ごした仲間。だった人だ。
俺が......想いを寄せていた人でもある。
「なぜ......なぜなの?アラン!なぜ私を裏切ってまで、魔王の仲間になんかなったの!?」
「......」
そんなこと、俺が聞きたい。
なぜ、勇者のくせに人を殺すのか。なぜ、殺すことが出来るのか。
自分自身に問いただしたい。
「......答えは出ている。結局の所、俺は勇者では無かったんだ。たった一人の少女を救うために、多くの人を犠牲にし、たった一つの平和のために、沢山の命を踏みつぶしてきた。自分の誤ちを、正すためだけに」
......そう、全ては間違いだった。
今思えば、初めから魔物は人類なんかに敵対していなかったのかもしれない。
人類が一方的に怖がって、嫌って、殺して来ただけなのかもしれない。
そんなことも知らずに、俺は魔物を殺していた。きっとそのツケが回ってきたのだろう......俺は俺なりの正義を貫く。
それが大勢の人の反感を買うような行為だとしても。
「そう......あんたとはもう分かり合えそうに無いわね」
「そうだな、俺もそう思う」
......残念だよ、フィリア。
君のことが、好きだったのに。
「剣を抜いて、アラン」
フィリアはそう言うと、自分の腰に収めてあった剣を取り出す。
そして、俺に剣先を合わせた。
それを見ると、俺も自分の剣に手をかざす。
「一人で俺に勝てるとでも?」
「思ってないわ。だから」
フィリアの後方から現れた人影。
それは、男だった。
「嶺風康人君......だったかな?」
「会うことが出来て光栄です、元勇者さん」
なるほど......という事は、シルビオも俺と同じように敵に捕まっていることが予想できる。
あまり闘いに時間はかけていられない。
「さぁ、二人まとめてかかってこい。元勇者が相手だ!」




